エピローグ
一体どれだけの時が流れたのか、どこをどう歩いたのかわからなかったが、気がつくと、僕は死の海を離れて、荒野の中を一直線に突き抜けるアスファルトの路上を歩いていた。既に太陽はその姿を別世界へと隠し、頭上には今にもこぼれ落ちそうな星たちが至る所で戯れていた。そして月は、星の子供たちを優しく見守る母親のように大らかだった。僕は、その幻想的な光景と一体になるために道路の中央に仰向けに横たわり、夢幻のような世界と自分自身との関係を考えてみた。そう、全ての原因は僕の持つ強固なまでの日常性にあったのだ。僕は日常からの脱却を夢見ながら、実は誰よりも日常に身を埋もらせ、それを潜在的には望んですらいたのだ。そして、自分を根本的に変えることなく、サトミという他の存在を利用しようとしていたのだ。結局のところ僕自身は何も変わっておらず、また変わろうとも思っていなかったのだ。だから今こそ、僕は自分の力で日常からの脱却を図らなければならなかった。もちろん、それでサトミが帰ってくるわけではないが、何よりも僕は自分自身のためにそうしなければならないのだ。では、手始めに何をするか……。それは自分でもよくわかっていた。僕は今、無限に広がる荒野に輝く星たちを見ながら、そして頭の中で、デニス・デ・ヤングの「デザート・ムーン」を奏でながら、全身全霊を使って叫んでいた。
今こそ、この想いを文章にしようと。それこそが、僕が自分らしく生きるための最良の手段だと。