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スーパーラジオギャラクシー

「プリマリアさん、お風呂空いたよー」

 お風呂からあがった僕は、頭から湯気を出しながら、居間の扉を開く。

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

 直ぐにプリマリアさんが台所から現れて、硝子のコップを渡してくれた。中身はキンキンに冷えた牛乳だ。ありがたい。

「ありがとう、プリマリアさん」

「いえ、これが私の役目ですから」

 それでも僕は、礼を言わずにはいられないのだ。

 彼女の存在を、有り難いと感じているから。

「……あれ?」

 牛乳を一口飲み、一息を吐いた僕は見慣れないものを発見した。

 ラジオだ。

 居間のテーブルの上でアンテナを伸ばしているそれは、決してクリアとは言えない音を流している。

「プリマリアさん、それは?」

 確かお風呂に入る前にはなかったはずだけど……?

「はい。『メイド108の秘密道具』、84番。冒涜的な音を吐き出す壊れかけのレイディオです」

 何故か今回のアイテムは名前が捻られていた。何時ものようにお茶目なメイドさんだった。

「壊れかけのって……言ってくれれば、ラジオくらい買ってあげられるのに」

 僕の言葉に対して、プリマリアさんはゆっくり首を左右に振った。

「私は、このノイズ混じりの音が好きなので」

「そう、なの?」

「はい♪」

「まぁ、プリマリアさんがそう言うなら僕は良いけど……」

 ソファに腰掛けて、改めてラジオに視線を落とす。

 見るからに古いラジオだ。

 汚れてはいないが、細かい傷や時間の経過による色褪せが目立つ。傍のプリマリアさんが、「わふぅ」、とため息を吐いて、

「この古めかしい感じが堪りません……」

 うっとりしていた。

 アンティークを愛でるような気持ちなんだろうか。

「うちにこんなラジオ、あったっけ?」

「あ、いいえ。この子は先日、ゴミ捨て場にいたのを私が拾ってきたんです」

「じゃあ……プリマリアさん、自分で直したの?」

「はい。『メイド108の秘密道具』が17番、修理技能で復活させました♪」

 修理『技能』って道具カウントで良いのだろうか、という些末な疑問が浮かんだが、それは脇に置いておこう。

「そっか……」

 自分で修理したのならば、愛着があるのは当然だ。

 簡単に「新しいのを買ってあげる」なんて、言うべきではなかったなと思い、

「ごめんね、プリマリアさん」

「……? 何故、ご主人様が謝るのでしょうか?」

「いや、ちょっと己の浅慮が恥ずかしくて」

 誤魔化しの笑いをして、僕はラジオ番組の内容に耳を傾けてみる。

 ラジオからは元気そうな女のひとの声が響いていて、どうやら今はお便りコーナーらしい。

「さあっ! 続いてのお便りはラジオネーム『アクエリアス・ブルー』さん! なになに? 『私のマスターの妹さんなのですが、実は引きこもりで、なかなか外に出ようとしてくれません。どうすれば良いのでしょうか』だって!? なぁんてこったい! 主人だけでなく妹さんまで助けようなんて泣かせる話じゃないか! そうだね、ならばまずアクエリアス・ブルーさんと妹さんが仲良くなる必要があるだろうね! 親しくなって外へ誘い出すんだ! 相手は引きこもりで受動的! ならちょっと強引なくらいがちょうど良いだろうよ! 後ろから抱き付いてチチ揉んでやるくらいの気持ちで――」

「――ごめんプリマリアさん、何聞いてるの?」

 なんだか凄く犯罪の臭いがするんだけど、この番組。

 プリマリアさんは僕の問いに対して、何時もどおりの笑みの表情で答えてくれた。

「これは『GSR』というラジオ番組です」

「じー、えす、あーる?」

「はい。正式名称はGalaxy Servant Radioといいます」

ギャラクシー

Galaxy

サーヴァント

Servant

レイディオ

Radio

 なるほど、だからGSRか。

「全世界に散らばっているメイドや執事、ボディーガードといった『従者』(サーヴァント)たちをターゲットにしたラジオ番組です」

 なんだか随分ピンポイントな層を狙っているが、そういうことらしい。

 プリマリアさんは神妙な面持ちでラジオを聞いており、呟く言葉は、

「引きこもりになる理由は外的要因が多いと聞きます。例えば、いじめとか。でしたら、その理由となる存在を直接『処理』するほうが確実だと思うのですが……無論、その後のこと考えるならば、証拠を残さずにというのが前提ですが」

「いやいやいやいや」

 従者というのはみんなこういうエキセントリック思考なんだろうか。

 全国の主人の皆さんが少し心配になる僕だった。





――――――――――


「これを聞いてるってことは、プリマリアさんもお手紙とか送ってるの?」

「はい。何度か送らせて頂いておりますが――」

「――続いてのお便りはぁ、ラジオネーム『メイドッグ』さん! どぉれどれぇ? 『私のご主人様は、お着替えやお風呂のお手伝いをさせてくださらないのですが、私はあの方にもっとご奉仕したいと思うのです。どうすればご主人様は私に身を任せてくださるのでしょうか』……くぅーっ。泣かせるね! 君はまさにメイドの鏡だ! 太陽だ! 希望だ! そうだねぇ、私が思うに、主人だけ脱がすのがいけないんじゃないかな!? だからメイドッグさんも服を脱ぐんだ! 主人とメイドの裸の付き合い! 素敵じゃあないかな!? かな!?」

「ご主人様! 私、是非お願いしたいことがあります!」

「あ、うん。たぶん断るけどなに?」

「きゅぅんきゅぅん……どうしてですか? まだ何も言っておりませんのに……」

 いや、だって、ねぇ?

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