表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

その寝姿をみつめていたい

「……はぁ」

 つい、溜め息が漏れてしまいます。

 時刻は深夜2時。正確には深夜2時2分42秒。

 古くから魑魅魍魎の時間として伝えられており、草木も眠ると言われる丑三刻と呼ばれる時間帯です。

 この時間にお参りをすると召喚された獣に対して9999の固定ダメージが発生して、即死します。

「わふぅ……」

 もう一度、溜め息。

 ご主人様が寝静まったのを確認してからもうずっと、私はこうしているのです。

 ご主人様の安らかな寝顔を眺め、たまに見せる表情の変化をよく観察。そして、溜め息。

 疲れや眠気はなく、むしろそれらが綺麗さっぱりと私の中から消えています。

 パイロット画面があれば、今の私のHP(ヒットポイント)MP(メイドポイント)はMAXを振り切っているでしょう。

 今、私はベッドの傍に椅子を置き、そこに腰掛けた状態。

 重い荷物――つまりは、胸のことですが――をベッドの端に置き、一息付きながらご主人様の寝顔を拝見しています。

 やはり楽、ですね。

 最近は家事などを一通り終わらせて小休止を取る際にも、テーブルに胸を置くのが基本となっています。

 こうしているととても楽で、改めて『コレ』が脂肪の塊で、『重り』であると思い知ります。私がミニ四駆なら肉抜きが必要でしょう。

 しかし、世の殿方の多くは、大きな胸がお好きと聞きます。

 ならばご主人様も、お好きなのでしょうか。

 そうであればいいと、思います。

 自分の姿が、この方が好むものであればいいと。でも――

「――触れて、欲しいです」

 貴方から、ご主人様から、触れて欲しい。

 遠慮なのか、気恥ずかしさからなのか、それとも、私に魅力がないからなのか。

 ご主人様は時折、連れなくなってしまわれます。

 私は、この方の。九郎様のメイドです。

 この方の為に生き、この方に尽くし、叶うのであれば、この方の為に死にたいと。

 そう、思っています。

 ですからご主人様が望まれるのであれば、今すぐにでもこの身すべてを捧げ、奉仕したい。

 ですがそれは、ご主人様が望んでくださらぬのであれば、私ごときがご主人様を求めるわけにはいかないと、そういうことでもあるのです。

 ですが、私も女なのです。

 時に、我儘になりそうになってしまうときも、あります。

「……」

 ご主人様の手。

 そこに、そっと。

 私の手指を絡めます。

「んっ……」

 最初は、遠慮気味に。

 ご主人様が起きないことを、確かめながら。

「は、ぁ……」

 そして徐々に、積極的に。

 恋人の情事のように、濃密に、絡み付くように。

「ん……」

「わぅっ……!?」

 突然、ご主人様の手に力が入りました。

 眠っているが故の、反射的な動きでしょう。

 ですが私にとっては――ご主人様が、握ってくれた。そう、判断できる行為で。

「は、はぁ……」

 たったそれだけで、全身に幸福感が満ちて、これ以上は抑えられなくなりそうで。

 私は荒く息を吐きながら、しかし、ゆっくりと。ご主人様のお眠りを妨げぬように注意しながら、ご主人様の手から、自分の手を引き抜きました。

「ご主人様に……お手を、握られてしまいました……♪」

 手に残る感触とぬくもりが、堪らなく愛おしくて。

 私は暫らく、余韻に浸っていたのでした。

 何時か、この方の意志でそれをして頂けることを、夢想しながら。

 それは、草木さえも眠るが故の――誰にも知られぬ、私の我儘。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ