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Dream Syndrome

 僕にとって、学校で特に仲が良いと言える相手は三人いる。

 蘭堂(らんどう) ルフ。

 新都(にいと) 茉莉(まり)

 そして、家井(うちい) (だん)

「ただいま〜」

 そんな仲の良い友人三名との楽しい下校時間を過ごして、真っすぐに帰るよりは少し遅い時間に僕は学校から帰ってきた。何時ものように玄関でただいまの挨拶をする。

 一人暮らしだった頃は、どうせ応えるひともいないからと無言で帰ったものだけど、今は違う。

 美人で巨乳でなんでも出来る。そんな素敵な金髪メイドさんが僕を毎日迎えてくれるのだから、こんなに嬉しいことはない。

 ……あれ?

 おかしいな。

 何時もなら、プリマリアさんは玄関まで僕を迎えに現われるんだけど。

 本日は反応がなかった。

 ……買い物にでも、行ってるのかなぁ。

 誰にも迎えられないという事実を久しく感じ、ほんの少し寂しくも感じる。

 だからと言って、プリマリアさんを責めたりはしないけど。

 僕は靴を脱いで玄関口にカバンを置くと、居間へと向かってみた。

「……あ、いた」

 プリマリアさんはソファーに腰掛けていた。

 どうやらテレビを見ているらしく、テレビ画面ではアニメが放送中だ。

 もはやシリーズお約束となった変な髪型の主人公が敵のマジックコンボに押されているが、時間的にあと少しで放送終了であり、『かっとべ! 俺ェ!!』との決め台詞が入ったのでそろそろ逆転することだろう。

 相方も『勝利の因数分解はすべて揃った』と、決め顔で言っていることだし。

「プリマリアさん、ただいま」

 名前を呼び、改めて挨拶しつつ、僕はプリマリアさんの顔を覗き込んで――気付く。

「……すぅ」

 プリマリアさんの紅い瞳が、閉じられていた。

 口からは規則正しく吐息が漏れ、彼女の大きめの胸が、それに合わせて上下している。

 つまり、彼女は眠っているのだ。

 ソファーに腰掛けたまま、すやすやと。

「テレビ見てるうちに寝ちゃったのかな……」

 僕はプリマリアさんの眠りを妨げないように小さく呟くと、テレビのリモコンを操作して音量を下げた。

 そうして改めて、プリマリアさんの寝顔を見る。

「……すぅ、すぅ……わふ……」

 安らかな寝顔だ。

 気のせいだろうか、その寝顔は少し笑っているようにも見える。

「プリマリアさんの寝顔を見るのって、久しぶりだなぁ」

 たしか、最初に出会ったときに見て以来だったはずだ。

 いや、でもあれは寝ていたと言うよりは気絶していた、の方が正しいか。

 だとしたら本当の意味で、眠っている彼女を見るのはこれがはじめてだ。

「…………」

 つい、じっくりと彼女の顔を眺めてしまう。

 寝顔を見るのは新鮮だし、それに、

「……起きてるときにじっと見るって、出来ないしね」

 プリマリアさんが起きているときにこんな風に見ていたら、プリマリアさんも何事だろうかと思うだろう。

 なにより、このひととずっと見つめ合うことになりそうで、気恥ずかしい。

「まつ毛、長いなぁ……」

 簡単に摘めそうだ。

 そんなことを思っていると、プリマリアさんは唐突に口を開き、

「んぅ……わふぅ……だめですよ、ごしゅじんさまぁ……」

 どうやら、夢の中でも僕はプリマリアさんにお世話をされているらしかった。何をやっているんだ、夢の僕。しっかりしろ。

「……いや、そうじゃないよね。現実のほうもしっかりしないと」

 だけど、何時も何時も彼女にたくさんお世話になっているのは事実だ。

 だからこそ、自然と口を割って出てくるのが、

「……ありがとう。プリマリアさん」

 感謝。

 起きているときも、何時も何かをしてもらうたびに感謝の言葉を口にしているが、本当にそうだ。僕はこのひとに感謝している。

 それは、お世話をして貰っているというだけじゃない。

 もっと深く、別の意味でも、だ。

 今日帰ってきたときに、彼女の出迎えがないだけで僕は寂しさを感じた。

 それはつまり、彼女という存在が――プリマリア・ティンダロスという人物が。僕の中で深く根付いて、当たり前の存在となっているということ。

 大切なひとになっているということ。

「ありがとう、プリマリアさん」

 もう一度、感謝を述べる。

 このひとは僕にとって、とても有難いひとだ。

 そして、こうも思うのだ。

 自分が、彼女に対して思っているように――彼女も、自分を有難い存在としてくれていれば良いと。

 そんな主人でありたいと、思うのだった。




――――――――――


「わぅ……だめですってばぁ……」

「まだ夢の中の僕、迷惑かけてるのか……」

 いったい何をしているのだろう、夢の僕は。

「だめぇ……そこは、わたしの……わたしのふぉとにっく、ちゃんばーです……くあんたむはーもないざは……はいらないんですぅ……きゅぅん……」

「いや、本当に夢の中の僕なにしてるの?」

 どんな夢を見ているのかとても気になる寝言だった。

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