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スキル・スフィア(1)

スレイドとミライは冒険者ギルドへと入った。

木造りの風情ある室内は樹木の香りが漂う。

向かって左側には個別にテーブルがいくつか置かれ、パーティでの雑談ができるようになっている。

さらに右奥には階段もあって2階は1階よりも多くテーブルが設置されており、こちらも雑談スペースなのだろう。

右側には大きな掲示板があり、多くの依頼書が張られてあった。


メインとなる中央奥はカウンターになっていて、今まさに受付の女性が冒険者の対応をしているところのようだ。


2人はカウンターへと向かった。

受付場所は一ヶ所しかなく、前のパーティが終わらなければ自分たちの番にはならない。


スレイドは前で受付の女性から説明を聞いているパーティが気になった。

人数は3人で明らかに自分やミライよりも若く見える。


一見すると、"剣士(少年)"、"魔法使い(少女)"、"弓使い(少年)"という構成のパーティのようだ。

恐らく全員が15歳程度だろう。


聞こうと思っていなくても、受付の女性の声が異様にギルド内に響いて聞こえてくる。


「……と言うわけで、こちらの水晶が"スキル・スフィア"になりまぁす!!」


「おお」


駆け出し冒険者と思われる少年少女が目を輝かせながらカウンターに置かれた水晶玉を凝視していた。


そこにミライが小声で質問してきた。


「ねぇ、何あれ?」


「い、いや……俺も知らない」


事実、こんな水晶玉は村には無かった。

ミライは何も言わずに前の駆け出しパーティの様子を伺っている。


受付の女性の説明は続いていた。


「このスキル・スフィアは魔法の力を使って、人間の隠された能力を表示することのできる貴重なアイテムです」


「おお、すごい」


「スキルというのは言わば"才能" で、普通の人であれば四つほどスキルを持つと言われています。スキルが表示されなくても、"スキルスロット"と呼ばれる空欄があれば、努力次第でスキルを埋めることも可能です」


「ということは二つスキルを持っていたとしても、二つのスキルスロットが空いていれば、努力をすればさらに二つまでスキルを覚えることができるということですか?」


魔法使いの少女の質問だ。

受付の女性はニヤリと笑った。

調子が出てきたのか声が一段と高くなる。


「その通りでぇっす!」


「なるほど……スキルは埋まってしまったら変えられないのですか?」


「残念ながら現時点で一度埋まったスキルを変更する技術はありませんね」


「そうなんですか……ちなみに、今までで一番スキルが多かった人はどれくらい埋まっていたのでしょうか?」


単なる興味本位の質問だったが、これを聞いた瞬間、途端に鼻息が荒くなる受付の女性。

カウンターを両手でバン!と勢いよく叩いて言った。


「今までの最高は"九つ"のスキルスロットがあり、その全てが埋まっていたそうです!」


「九つ!?誰なんですか?」


「それはもちろん"勇者エルダー"です!」


「おお!!」


これには駆け出しパーティの少年少女だけでなく、後ろで聞いているスレイドも目を輝かせた。


「ちなみにスキルの中には"ユニークスキル"なるものがあります!通常はスフィアに表示されたスキルの後ろにレベルが表示されるのですが、ユニークスキルにはレベルがありません」


「なぜですか?」


「ユニークスキルという時点で最高位のスキルとして完結していてレベルの概念が無いと言われています。まぁ、でもユニークスキルを持っている人間なんて稀中の稀ですので期待はしないでください」


駆け出しパーティの少年少女らは苦笑いする。

それは当然というものだ。

特別な何かに恵まれていれば嬉しいのは確かだが、特別であるならこんなところにはいない。


「ちなみに勇者率いる十二騎士団は全員がユニークスキル持ちだとか……まぁ噂ですがね」


「冒険者ではいないのですか?」


「冒険者最高ランクの"二人"だけと聞いたことはありますが、こちらも噂ですので真相はわかりませんね」


受付の女性が説明を終えると、大袈裟に両手をパンと叩いて水晶を指差した。


「さぁ、それでは三人ともスキルを見てみましょうか!」


駆け出しパーティの少年少女はそれぞれが顔を見合わせてゴクリと息を呑む。

これでもし凄まじいスキルを引き当てることができれば人生が変わると言っても過言では無い。



まずは剣士の少年がスキル・スフィアに触れた。


するとスフィアが"赤色"に発光する。


表示されたスキルは、

__________________


剣使い    Lv2

攻撃見切り  Lv1

****

****


__________________



受付の女性がスキル・スフィアを覗き込み、"ふむふむ"と考え込むそぶりを見せた。

続けて、


「平均的なスキルですね。スロットが二つ空いているので自分の得意なことを伸ばすか、あえて苦手分野に手を伸ばすか……それは自由ですが、器用貧乏にならないように気をつけましょう」


受付の女性のアドバイスに剣士の少年が頷く。


次は弓使いの少年の番だ。

弓使いの少年がスキル・スフィアに触れる。


するとスフィアは"緑色"に発光した。


表示されたスキルは、


__________________


弓術      Lv3

フットスピード Lv1

鷹の目     Lv1

****


__________________


受付の女性が先ほど同様、スキル・スフィアを覗き込む。

今度は"ほう……"と反応してから少しだけ間をとってから口を開く。


「鷹の目は珍しいですね。なかなか見ないスキルです。ここを成長させていけば遠距離では他を寄せ付けなくなるでしょう。あと一つのスキルスロットはバランスを見て決めてもいいと思います」


弓使いの少年は小さくガッツポーズをする。

自分が珍しいスキルを持っているというのは気分がいい。


最後に魔法いの少女だ。

魔法使いの少女がスキル・スフィアに触れる。


するとスフィアが"青色"に発光した。


表示されたスキルは、


__________________


魔導士  Lv2

魔力探知 Lv1

****

****

****


__________________


受付の女性がスキル・スフィアを覗き込むと、先ほどとは違って"おお!"という声を上げた。


「スキルスロットが五つもあるのは凄いです!私はこのギルドに来てから数百人ほどスキルを見てきましたが十人もいなかったですよ!」


魔法使いの少女は俯いて顔を赤らめる。

周りで聞き耳を立てていた他の熟練パーティも感嘆の声をあげていた。


受付の女性は続ける。


「ですが、決して過信はしないで。自分の力をしっかり見極めて戦うように」


「わかりました」


魔法使いの少女の返答を聞き終わると、受付の女性はコホンとわざとらしく咳払いした。


「ちなみにスフィアがそれぞれ色を変えて発光したのがわかったと思いますが、それは得意の魔法属性を指します」


受付の女性の話では……


赤色が火、青色が水、茶色が地、緑色が風。

そして金色が光、黒色が闇とのことだが、今まで一度も見たことはなく現在では存在すら怪しいとのことだ。


ちなみに魔法は剣士や弓使いなどであっても魔力さえあれば使えるが、"魔導士"のスキルを持っていないと格段に威力が下がるため、ちょっとした補助にしか使えないという。

魔法剣士やマジックアーチャーなどの戦闘スキルを無理に複合的に使用するバトルスタイルも存在するが稀なのだとか。

最初の剣士の少年に言ったとおり、大体の人間は二つのスキルを極められずに器用貧乏で終わるとのこと。


「説明は以上となります。もし依頼書で気なるものがあればまたカウンターまでお越しください」


全ての説明を終えた受付の女性は笑顔で駆け出しパーティを送り出す。


そしてようやくスレイドとミライの番がきた。

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