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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
ダブル・チェイサー編 第一章
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ザイオン・ジルハイド(1)



ミルドレッド号 海上



スレイドが甲板に上がると青空が広がっていた。

潮の香りと波の音によって自分が海の上にいることを再認識させられる。

船以外の全てが青色に染まる空間はスレイドにとって初めての経験だった。


甲板の中央付近を見るとミライが"薄い板"を耳元に当てて1人で喋っている。

いつものセイフク姿で茶髪のサイドテールは風に靡く。


「また家族か?」


思うに彼女が持つ"薄い板"は別の場所にいる人間と会話できるマジックアイテム。

唯一、ミライが元の世界と繋がることができるものだ。


「最初は確か母親だったな」


村の近くの洞窟前でのこと。

ミライは自分の母親と会話して『友達の家に泊まる』という話をしていた。

その後、実際にスレイドの家に泊まり、スレイドの母親と会って会話したことで母が偽物であると見抜いた。


「次は父親か」


最初の町、ガウナ・リナに入ってすぐのこと。

ミライは『知らないのはお父さんだけ』と言って、自らが隠したはずのお金の場所を父親に教えていた。

そして連続放火事件に巻き込まれ、数人の男性を助けることになる。

全員、娘を持つ父親であり、皆がお金を必要としていた。


「そして姉だったか」


セラフィーナの屋敷でのこと。

ミライは何かを探している姉に対して『ちゃんと奥まで探して』と主張するような会話をしていた。

その後、セラフィーナから依頼を受けて姉を殺した犯人であるグロムランド・オルバを見つけ出すことになる。


「まさか……偶然か?」


今まで関わった出来事は全てミライが事前に"薄い板"で家族と会話した後に起こっている気がした。

しかも未来を予知しているかのごとく、彼女が会話した家族の中の続柄にあたる者が事件に深く関係しているように思える。


スレイドはそっとミライの背後に近寄って聞き耳をたてた。


「だから大丈夫だって、そんなに心配しなくても!年上のお姉さんもいるし、ちょっと頼りないけど弟みたいなのもいるからさ。それに大人も一緒だから!じゃあ、切るよ!」


そう言って会話を終え"薄い板"をポンポンと人差し指で叩く。

するとミライは背後にいたスレイドに気づく。


「あら、スレイドじゃない。あんた、よくこんな時間まで寝てられるわね」


「あ、ああ……そんなことより今、誰と会話してたんだ?」


「"お母さん"と"お父さん"だよ。まったく立て続けにさ。二人とも心配性なんだから」


ミライは呆れ顔で答えた。


(次は両親?……いや、さすがに考えすぎかもしれない)


そんな思考をしていると甲板の先で何やら言い争うような声が聞こえた。

見ると冒険者らしき人物が1人の船員に詰め寄っている。



「君が私の部屋から盗んだのはわかってる」


冒険者らしき人物は黒い短髪、ブラウンのロングコートを着た30代ほどの男だ。

品のある整った顔立ちだが無精髭を生やし、髪もボサボサ。


中でも気になったのは彼の"目元"だ。

目の下には大きなクマがあり、それは長期的な寝不足によるものと推測できた。


首には溺死の首輪がつけられているので、スレイドたちの他に闘技大会のために乗船した2人のうちの1人なのだろう。


「今、返してくれるなら見なかったことにするが」


「何のことだかわからんな!」


「シラを切るつもりなら、力づくで取り戻すまでだ」


「そんなことをしたら船長や他の船員が黙ってないぞ!」


「構わんさ。ならば、この()()()斬り捨てるまでだ」


「ふ、船ごと!?……ここは海の上だぞ!!」


「それがどうした?この"ザイオン・ジルハイド"に恐れるものは何もない」


"ザイオン・ジルハイド"と名乗った冒険者風の男は無表情に腰に差した細剣のグリップへと手を伸ばす。

離れた場所で見ていたスレイドにすらわかるほどの凄まじい殺気を放っていた。


見かねたミライがため息混じりに歩き出す。

彼女が向かった先はもちろん言い争いの現場であった。

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