乗船へ
ボンド船長の高笑いが埠頭に響き渡る。
彼が提示した乗船条件はゴールド・バラッシュでおこなわれる闘技大会で得られる『希少情報獲得権の譲渡』だ。
それを聞いたミライは小声でセラフィーナに耳打ちする。
「じゃあさ、嘘でも乗っちゃえばいいんじゃない
?どうせ船を降りたら追って来れないだろうし」
「ええ」
この会話が聞こえていたのか、ボンド船長が重ねて高笑いしながらフロックコートのポケットから"黒い首輪"のようなものを取り出した。
「ガハハハ。ワシはタダ乗りは許さん。乗船前にこれを身に付けてもらうぞ」
「それは……」
反応したのはセラフィーナだった。
なにやら見覚えがあるようだ。
「これは"溺死の首輪"だ。決められたルールを破ると身につけた人間の顔を水球で覆う。そして陸にいながらにして溺れさせるという、とても洒落たマジックアイテムだ。ガハハハ」
「やっぱり……」
「何よその悪趣味なアイテムは……てかセラっち、あの首輪のこと知ってるの?」
「ええ。あれは私が作ったから」
ミライが言葉を失い、スレイドも顔を引き攣らせた。
遊び心満載とも言える"声が変わる袋"を制作した人間が作るとは思えないほど残虐非道なアイテムだ。
そんなやりとりに構わずボンド船長が続ける。
「ガハハハ。ルールは簡単だ。"闘技大会が終わったら必ずミルドレッド号に戻ってくること"。"その時、希少情報獲得権を譲渡できない場合はミルドレッド号で永遠に働くこと"。これだけだ」
「なによそれ……めちゃくちゃじゃない」
「ガハハハ。お前たちはパーティみたいだから、一人だけでも闘技大会に参加するなら全員乗せてやってもいいぞ。溺死の首輪も参加者以外の誰か一人だけ身につけてくれたらいい。パーティってのは仲間のためになら頑張れるってやつが多いからな。ガハハハ」
考え込むスレイドたちにナインが「どうする?」と一言だけ声をかける。
どうもこうも、船がこれしかないのであればボンド船長の条件を受け入れて乗るしかないのだが……
「ガハハハ、まぁ別に嫌ならいいんだ。もう既に"二人"は乗船してるからな。もうすぐ出発予定なんだ。ガハハハ」
「マジ……?」
「ガハハハ。あいつらは迷うことなく溺死の首輪をつけて乗船したぞ。恐らく、かなりの強者だな!ガハハハ」
ボンド船長は上機嫌だった。
両手に持った別の銘柄の酒を交互に口に含むと、ゆすぐように口を動かしてゴクリと飲み込んだ。
「ガハハハ!さぁ、どうする?」
ボンド船長の問いに4人は顔を見合わせる。
それから少しだけ間があってから、口を開いたのはスレイドだった。
「その首輪は俺がつける。闘技大会に出るのも俺だけでいい」
「ちょっと!自分一人で抱え込んだらパーティの意味ないでしょ!」
「じゃあ、どうする!」
声を荒げて言い争うスレイドとミライの間に割って入ったのはナインだった。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。もう少し冷静になったほうがいい」
「何か、いい案でもあるのか?」
「いい案……というよりも合理的な話だ。君たちの目的は二つある。"希少情報を得ること"と"盗賊団のボスを追い詰めること"だろ」
「ああ」
「オレは別に希少情報はいらない。ということはオレが闘技大会に出場して上位に入りさえすれば首輪問題は解決するわけだ」
「確かに……」
「あとはスレイドくんとセラちゃんが出場して同じく上位に入れれば、スレイドくんとミライちゃんの欲しい情報は手に入るが……」
「何かあるのか?」
「そうなると盗賊団のボスを誰が追い詰めるのかということになる。おのずと非戦闘員のミライちゃんになるわけだが、一人だと危険だ。ここは二人に別れて行動した方がいいだろう。希少情報の件はスレイドくんかミライちゃんのどちらかが諦めるしかないね」
確かにナインが最初に言ったように合理的な話だった。
"闘技大会の出場者側"と"盗賊団のボスを追い詰める側"で二手に別れて行動する。
最悪、盗賊団のボスについては人物を特定できればいい。
問題は闘技大会で得られる希少情報の件だろう。
上位に入れなければ溺死の首輪によって仲間の誰かが死ぬことになる。
「なら、私が首輪をつけるわ。ミライと一緒に盗賊団のボスを追う」
"盗賊団のボスを追う側"と"溺死の首輪を身につける"のに志願したのはセラフィーナだった。
「そうね、開発者なんだから最悪の場合はなんとかなるわよね!」
「何を言ってる、私がそんなヤワな物を作るわけがないだろ」
「は?」
「アレは誰がつけようともルールを破れば溺れるのように作ってあるのよ」
「こんなところで職人根性をアピールされても困るんだけど」
呆れ顔のミライはさておき、これでチーム編成は決まった。
闘技大会に出るチームがスレイドとナイン。
盗賊団のボスを追うチームがミライとセラフィーナ。
そして溺死の首輪をつけるのはセラフィーナとなった。
話が纏まったのが、わかったのかボンド船長が満面の笑みで近づく。
「ガハハハ、決まったようだな!お前らの乗船を歓迎する!」
そう言いつつ、溺死の首輪をセラフィーナに手渡した。
会話の内容は全て聞こえていたのだろう。
「ガハハハ!これで希少情報を得られる確率がグンと上がったな!よーし、ようやくワシも『無音無彩の海域』に行けるぞぉー!ガハハハ!」
ボンド船長は両手を高ららかに上げ、高笑いしながらタラップを上がっていった。
後を追うようにしてスレイドたち4人も乗船するのだが……
なぜか1人、ナインだけは殺気とも思えるようなピリピリとした空気を放っていた。




