正体(1)
岩に囲まれた洞窟の中、光り輝く魔法鉱石が周囲を明るく照らし出す。
石門の前に佇んだコルクス・ビッグバーンは不気味な笑みを浮かべていた。
振り抜いた大剣を肩に乗せ、金色の髪を撫で付けるようにゆっくりと掻き上げる。
「やはり人を殺す時が一番、興奮するよね。命の灯火が消える瞬間を見ると天にも昇るような感覚に襲われる……上手く言葉で表現できないことが残念だ」
顔色ひとつ変えずに、なぜこのような言葉を言えるのだろう?
"恐怖"よりも"怒り"の感情の方が強まる。
スレイドは鋭い眼光をコルクスに向けると左足を下げてショートソードを腰に構え、グリップに軽く右手を添えた。
2人の距離は5メートルほどだ。
体勢を低くして目を見開き、"スー"と息を吐いて筋肉を最大限まで引き締める。
そこからワンステップ。
一瞬にしてスレイドは斬撃の間合いまで入った。
「ほう、なかなか早いな」
コルクスは肩に乗せた大剣のグリップを両手持ちにして縦一線、振り下ろしの斬撃を放つ。
この時、彼は疑問に感じた。
踏み込みのスピードを考えるに、明らかにスレイドは先手を取れたはず。
「雷打!!」
スレイドは剣を抜き切らず、柄頭だけを大剣の刃に当てる。
「なるほど理解できた。飛び込みで先手を取ると思わせつつ、相手の攻撃を誘発させてカウンターを合わせる剣術か。だが……まだまだ未完成のようだな!!」
いつもであれば相手は仰反るが、大剣の重さとコルクスの筋力によって半分ほど引き抜かれたショートソードは徐々に鞘へ押し込められる。
そのまま大剣はスレイドの左肩へ迫り、刃が当たった。
大剣の刃は皮膚をゆっくりと切断していき、肩から血を滲ませた。
「ぐ……」
「どこで習ったかは知らないが、その剣術は通常の剣だと再現不可能だぞ」
「な、なんだと……お前、この剣術を知ってるのか!?」
「ノーコメントだ。思い出したくもない」
言ってコルクスは不意に前蹴りを放つ。
蹴りは腹を直撃して吹き飛ぶ。
地面を何度か転がるが、スレイドは片膝とショートソードの鞘を地面に着き、かろうじて意識を保った。
「黙っていればすぐ終わる。傷つけたくはないのさ、私はただ君の……」
そう言いかけた瞬間、スレイドの後方の壁から太い土柱が凄まじいスピードで飛び出してきた。
それはコルクスに向かい、到達まで1秒か2秒ほどしかなかった。
「なんと!?」
なんとか反応したコルクスは大剣を前に構えてガードするが、体勢を崩して仰反る。
すぐに土柱は崩れて無くなり、2本目の土柱が連続して壁から突き出してきてコルクスの胸に直撃した。
「がは……!!」
その衝撃によって一気に後方へと吹き飛び、魔力瘴気が吹き出る石門に叩きつけられた。
スレイドが振り向くと、そこには横に真っ二つに斬られた大杖を持った少女が立っていた。
被っていた三角帽子は無く、ツインテールも解けており今はただの蒼いロングヘアだ。
少女の鋭い眼光は石門を背に俯き佇むコルクスへと向けられていた。
「やはり警戒していてよかったな。アンタからは死人の臭いがプンプンする。何者かはわからないが、こんなやつが私の依頼を受けにくるなんてね」
「君は一体……」
あまりにも口調が変わったことに驚きつつスレイドが呟くように言った。
少女は静かにその問いに答えた。
「私の名は"セラフィーナ・スペルシス"。今回の依頼を出した本人さ」
なんと彼女こそ噂の聡明な魔法使いであり、あの大きな屋敷の主。
スレイドが想像していた"老婆"ではなく、町で最初に出会った老人アーヴァンが言っていた"ナイスバディのナイスヒップな女性"でもない。
セラフィーナとは、まだ十代前半の少女だったのだ。




