魔法鉱石の先に
スレイドのアンチマジック(?)によって、ブレアが魔法で作り出した土の足場は簡単に破壊された。
足場の上に立っていた2人は重力によって落下する。
スレイドは鼓動は途端に早くなり、心臓が口から飛び出そうな感覚に襲われた。
しかし落下から2メートル半ほど。
暗闇で全く底の見ない中、2人はすぐに何かに着地する。
スレイドは困惑していた。
これほど早く地上に着くなどありえない。
「これはどういうことだ?」
「気を抜かずに、また破壊されます」
ブレアが言った瞬間、着地した地面が再び破壊されて落ちる。
再び、2メートル半ほど落ちてから地面のような場所を踏んだ。
この時、ようやくスレイドは理解した。
ブレアは土の魔法を連発している。
つまり魔法での足場の生成とアンチマジック(?)による破壊を繰り返し、このまま最深部まで降りるつもりなのだ。
「まさか、こんな方法があるなんて……」
「多少の魔力は使いますが、これが最も安全に降りられる方法です」
「君は本当にルーキーなのか?」
「はい。冒険者には最近なりましたから」
生成と破壊によって落下していく中でスレイドは自身の不甲斐なさを恥じていた。
この年齢でこの才覚。
一方、自分はどうなのだろうか?
村にいたのは20年ほどで、やっていたことといえば剣術の修行のみ。
しかも、その剣術をモノにすることもできずにダラダラと無意味とも思える時間を何もない村で過ごしてきた。
そんな自分がとても恥ずかしくなったのだ。
「俺は今まで何を……」
言いかけてすぐに青白く発光した地表が見える。
最後の土の足場を破壊して着地すると、そこは青く光を放つ岩が多くある円形状の空間だった。
「これは遺跡の洞窟で見た岩だな」
「魔法鉱石です。岩に含まれる物質が強い魔力に反応して形状を変化させてこうなるんです」
「な、なるほど」
「ですが、これほど多くの魔法鉱石があるなんて……よほど大きな魔力がこの場所で使われたのでしょう」
スレイドは思考していた。
確か村の洞窟でも同じくらいの量の魔法鉱石を見た気がする。
あの場所は強い魔物が封印されているという話であったが、今となっては事実ではないのだろう。
それならあの遺跡の洞窟はなんだったのだろうか?
「誰か倒れてます」
ブレアが言った。
彼女が指差した先を見ると確かに誰かが倒れている。
2人は顔を見合わせてから周囲を警戒しながら進んだ。
「なんてことだ……」
「そんな……」
恐らく"彼女"であろう遺体は仰向けに倒れていた。
この表現には理由がある。
"彼女"と思われる遺体には首が無かったからだ。
だが見覚えのある民族衣装は間違いなく"彼女"であろう。
「なぜ首がないんだ?まさか落ちた時に……」
「いえ、首元に切断面があります。鋭利な刃物によるものでしょう」
「なんだって!?」
「先ほどの魔物が他にもいて、戦闘した結果でこうなったか……それとも……」
ブレアが言いかけた時、奥で物音がした。
2人はすぐに視線を移して臨戦体勢をとる。
人間のような足音と鉄が擦れるような音が聞こえると、影が2人に近づく。
「やぁ、君たち無事だったみたいだね」
男の声だ。
青白く発行した魔法鉱石に照されて、姿を現したのは金色の短髪で重厚な鎧を纏った美男子。
コルクス・ビッグバーン だった。
「あんたこそ、魔物に襲われたんじゃないのか?」
「いや、魔物には出会ってないね」
「なんだと?じゃあ彼女はどうやって死んだんだ……」
「殺したんだよ」
コルクスの言葉に2人は一気に緊張感が増す。
自然に武器を握る手に力が入った。
「おいおい勘違いしないでくれよ。私じゃない」
「となると、もう一人の男……ヒューイとか言ったか」
「ああ。彼が彼女を殺して姿を消した。奥に続く通路に入ったと思って追いかけようとしたんだが、その前に何やら上から爆発音のようなものが聞こえたものでね。落ちてくるのを待っていた、ということさ」
「なぜヒューイは彼女を?」
「恐らく金だろう。バトルプレイヤーの報酬は山分けだ。だから頭数が減れば報酬も増える……と考えたんじゃないかな?恐らく崩落も彼の仕業で、我々の全員を葬ることで報酬を独り占めしようとしたのかもしれない」
この発言にはすぐにブレアが反論した。
「私たちの中には"招かざる客"がいます。依頼者側の人間がいるとわかっていて、こんな真似をするとは考えづらいですが」
「不慮な事故、魔物に全員やられたことにして自分だけ生き残ったと謀る。我々はここを出るのにかなり時間が掛かりそうだし。そのうちに報酬だけもらってすぐに町を出るという計画だったのかもね」
「……確かに」
コルクスの言っていることは筋が通っている気がした。
「とにかく先に進んでみよう。もしかしたらヤツに会えるかもしれないし」
「そうだな」
コルクスが先頭を歩き、その後をブレア、スレイドの順番で続いた。
広い空間から細道に入るが、やはりここにも魔法鉱石が至る所にあった。
しばらく進むと再び広い空間に出た。
先ほどいた場所よりも魔法鉱石が多くあり、輝きによって明るい。
この奥にあるものを見たスレイドは驚く。
「石の門……なんでこれがここにあるんだ?」
それは遺跡の洞窟にあった石の門と同一であった。
両開きの巨大な石の門だ。
「ほう、これを知っているのかい」
「あ、ああ。でも、これって何なんだ?」
コルクスは石の門を見上げながら言った。
「これはね、昔、各地で戦乱があった頃に十二騎士が使った転移魔法の門なんだよ」
「転移魔法?」
「ああ。陸路では時間が掛かる距離を一瞬にして移動できるという代物。もう使ってないけどね」
「そんな便利なものなんで使わないんだ?」
「石の門は強大な魔力の渦を通って別の場所へと移動する。その魔力があまりにも強すぎて十二騎士以外の人間は脳が耐えきれない。だから"記憶障害"が起こるんだ。閉じている時でも漏れ出ている魔力瘴気に触れたりすれば、やはり同じことが起こる」
「なんだよそれ……」
「だからエルダーはこの石の門を封印した。二度と開かないようにね。ああ、ちなみにこの話は極秘なんだ。何百もの騎士の頭がおかしくなっちゃったからね」
"極秘"であるはずの話。
なぜこのような話を、たかが冒険者ごときが知るのか……。
そう思った矢先、コルクスは背負った大剣を一瞬のうちに引き抜く。
そして回転を加えて後方に立っていたブレアに横一線の斬撃を放った。
斬撃を受けたブレアは勢いよく吹き飛び、スレイドを通り過ぎて魔法鉱石が密集している壁に激突した。
土埃が上がり、彼女の安否は確認できない。
「なんだ!?」
「これでようやく二人きりだね。スレイドくん」
ニヤリと笑ったコルクス。
その不気味な表情にスレイドは息を呑んだ。
何が起こっているのかわからず、ただ立ち尽くすしかなかった。




