土竜の陣法
薄暗い洞窟内部、岩で囲まれた細道。
人が並んで歩くには窮屈なほどの狭さ。
洞窟内の開けた空間の崩落で落下したコルクス、ヒューイ、ヴィクトリア。
よほど高さがあるのか3人の姿は確認できない。
細道に残されたスレイドとブレアは通ってきた道へと視線を向けていた。
カリカリと何かが地面を這うような音が近づいてくる。
前衛はブレア・ブレガー。
大きな杖を構えて臨戦体勢だ。
後方には息を呑むスレイドがいた。
自然と左手に持ったショートソードの鞘を握る手に力が入る。
スレイドにとって"魔物"は未知の生物。
幸か不幸か、ここまでの旅で魔物の存在を確認していない。
どんな見た目をしているのかすら見当もつかなかった。
薄らと影が見えた。
洞窟の暗がりよりも、さらにドス黒い存在が地面を這ってくる。
胴体より下は蛇。
体は人のようで両腕は大きな鎌のような形をしている。
起き上がらせた体を見るに全身が光を全て吸収しそうなほど真っ黒で、大きさは2メートル半ほどだ。
「あれが……魔物」
全く想像だにしない姿にスレイドは表情を歪める。
動物とは違う、人間とは確実に共存できぬであろう禍々しさだ。
一方、魔物との距離が5メートルほどとなった前衛のブレアからは緊張すら感じられなかった。
「暗いので一撃で仕留められない可能性があります。そうなった時には援護をお願いします」
「あ、ああ」
スレイドにとってパーティとしての連携は初めてだ。
さらにブレアがどんな攻撃をするのかもわからない。
ぶっつけ本番の実戦だった。
蛇人間のような魔物は両腕の鎌を地面に擦らせながら、ウネウネとゆっくり近づいてくる。
そんな魔物の姿をブレアの鋭い眼光は完全に捉えていた。
「"地に住まう魔の粒子よ、我が力となり邪悪なる者を討ち滅ぼせ"」
ブレアが呟くように詠唱した。
すると彼女を中心として地面に無数の亀裂が入る。
亀裂は岩壁にも及び、さらに天井へと至っていき、割れた岩肌からは"蒼い粒子"が霧のように噴き出した。
蒼い粒子はいくつか円を使ってブレアの体の周りを覆い、回転しながら火花と雷撃を同時に走らせる。
「無に帰るがいい……"土竜の陣法"」
ブレアの声が洞窟内に反響した。
瞬間、魔物へ向かって壁や地面から数十本の細い土柱が順々に突き出す。
土柱の打撃を受ける蛇人間のような魔物のうねる様は下手なダンスを踊ってるかのようだ。
ようやく攻撃が止まり、突き出した土柱は砂が散るようにして拡散する。
攻撃を受けた魔物は力なく仰向けに倒れた。
「す、凄い……これが魔法……」
スレイドの驚きは当然だった。
村にいた時に見ていた魔法は先ほどコルクスが使ったような光を灯すほどの簡単なもの。
攻撃魔法というものは初めて見たのだ。
「これは簡単な部類の魔法です。そう驚かれても困ります」
「俺には魔力が無いからさ。感動しちゃって」
「魔力が無い?そんな人間いるわけがないです。誰でも大なり小なり魔力は持ち合わせてるはずですが」
「いや、俺は生まれた時から魔力は無いって聞いてる」
「まさか……そんな……」
ブレアは眉を顰めた。
何か考える素振りをするが、そんな彼女を見てスレイドは首を傾げる。
その時、ブレアの背後からミシミシと音がした。
黒い影がゆっくりと立ち上がって"鋭い腕の鎌"を振り上げていく。
狙いはブレアで間違いない。
「しゃがめ!!」
スレイドが叫んだ。
すぐさま反応したブレアは身を屈める。
蛇人間のような魔物へと向かって走り飛ぶスレイド。
ブレアの頭上を越えたあたりで剣を腰に構えて引き抜く。
空中でショートソードの柄頭を振り下ろされた鎌に当てて魔物をのけぞらせた。
着地するとスレイドはぎこちなくも、ゆっくりとショートソードを完全に抜剣すると魔物の鎌腕へと横一線に振る。
魔物の鎌腕は斬り落とされた。
さらに追撃で突きを放ち、それは魔物の胸に突き刺さった。
スレイドのトドメの一撃によって力尽きた魔物は焼けたように火花が散ると黒い灰のようになって消えていった。
「大丈夫か?」
「はい……」
「よかった。引き抜けなければどうしようかと思ったけど、なんとか上手くいったな」
「見たことのない剣技です。どちらの流派でしょうか?」
「流派なんてない。俺は親父の剣術指南書だけ見て修行してたから」
ブレアはますます困惑している様子だった。
魔力が無く、魔法も使えず、剣術も習ってもない。
そんな冒険者がいるとは思いもよらなかった。
そんなブレアだが、不思議に感じているのは彼女だけではない。
スレイドも同じく、"ブレア・ブレガー"という少女に対して違和感を覚えていた。
なぜか、この少女は質問が多い気がする。
やはりミライが言っていたことは間違いではなかったのだろうか?
スレイドはここに来る前にセラフィーナの屋敷でミライとした会話を思い出していた。




