自己紹介(1)
指でコツコツと円卓を叩く音が響びかせる。
足を組んで深く椅子に腰掛けていた2時の位置に座す、スキンヘッドの盗賊風の男が最初に口を開いた。
中年で目つきが鋭く、黒いマントで身を包む。
熟練冒険者という風格があった。
首から下げたのは"ゴールド"のネックレスだ。
「誰も何も言わないのならオレから話す。オレの名は"ヒューイ・テイラー" だ。トレジャーハントで稼いでる。この町に来たのは、さっきも話に出ていたドーラム洞窟の探索と攻略だった。しかし、こんな美味そうな依頼ならやらないわけにはいかない。まぁドーラム洞窟に行くことになるなら一石二鳥だな」
これがスキンヘッドの男ことヒューイ・テイラーの自己紹介だった。
特に変わったところはないが、10時の位置に座ったグリーンの長い髪、褐色肌の女性が軽く手を挙げた。
「あなたがどうやって、この魔法障壁を突破できたのか知りたいわ」
「オレはトレジャーハンターだ。魔法の心得が無ければダンジョン内にたまに仕掛けてある魔法障壁の突破はできん」
「あらそう」
褐色肌の女性は納得した様子で続けて自己紹介をしていく。
民族衣装を着たスタイルのいい綺麗な女性だ。
首から下げているのは"シルバー"のネックレス。
「私は"ヴィクトリア・ライネ"。ガル・アーナムにはたまたま居合わせて、最近になってこの依頼を受けたわ。弓術と魔法を得意としている。言うななればマジックアーチャーかしら。魔法障壁の突破はさほど時間は掛からなかった。ここには私が一番最初に入ったわね」
褐色肌の女性こと"ヴィクトリア・ライネ"の自己紹介には誰も何も言わなかった。
そんな中、スキンヘッドの男、ヒューイ・テイラーだけが、"へー、一番最初にねぇ"と一言だけ言った。
そして12時の位置に座る、短い金髪の騎士風の男が声を上げた。
腕を組んで不敵な笑みを浮かべる美男子で"ゴールド"のネックレスを下げている。
「次は私、"コルクス・ビッグバーン"の番だな!! 」
"コルクス・ビッグバーン"と名乗った男の声は屋敷に響き渡るほど大きい。
「この町に来たのは最近で、依頼の噂を聞いて面白そうだと思って受けてみた。私は剣技が得意ではあるが、魔法障壁の突破なんてものは私にとっては造作もない。我が愛剣・ジェノサイダーがあれば一撃さ」
そうニヤリと笑ってコルクスは親指を背後の壁へ向けると、そこには白い鞘に収まった大剣が立てかけられてある。
妙なことに、その白い鞘には無数の文字が書かれていた。
"バカ"、"アホ"、"マヌケ"、"ノロマ"、"さっさとくたばれ"……
という悪口ばかりが汚く書かれており、文字が掠れている部分などは恐らく消した跡なのだろう。
どう見ても子供が書いたような字だ。
あまりにもツッコミどころが満載すぎて全員が何を質問していいのかわからぬまま自己紹介が次に進んだ。
「私の番ですかね」
三角帽子を被った青髪ツインテールの少女。
ミライが着ているようなブレザーに黒いスカートを穿き、上には黒いローブを羽織る。
冒険者ランクを表すネックレスは"木"だった。
「私は"ブレア・ブレガー"。魔法使い見習い。以上です」
あまりにも単純な自己紹介に皆が呆気に取られた。
そこに1人だけがブレアに突っかかる。
スキンヘッドの男であるヒューイ・テイラーだ。
「嬢ちゃん、もしかして"ドネージュ魔導騎士学院"の生徒じゃないか?」
「はい。少し前までは」
「マジか……」
スレイドとミライは顔を見合わせた。
確かドネージュ魔導騎士学院というのは前の町、ガウナ・リナでドレッドが口にしていたはずだ。
「まさか、その歳で卒業できたのか?」
「いえ、退学になりました」
「……だろうな、あそこは名門中の名門と聞く。魔法のエキスパートだけが通える場所。ほとんどが貴族って話だし、創立者は"十二騎士"なんだろ?」
「はい。"彼女"の魔法は超一流だと思います。ですが、その息子はもっと凄いです」
スレイドとミライ以外は頷いているところを見ると、知らないのはこの2人だけなのだろう。
「そんな魔法使い見習いが、なぜ冒険者なんかやってる?」
「ただ旅をしてみたかったからです。世界に興味がありましたので」
「そうかい」
簡単な返答ではあったがヒューイは納得した様子だ。
そして自己紹介を終えた彼らの視線がようやくスレイドとミライへと向けられた。




