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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第二章
19/32

ガル・アーナム

スレイドとミライは"聡明な魔法使い"が出したという高額依頼を受けるため、西にある町ガル・アーナムを目指していた。


前回の町、ガウナ・リナで出会った女騎士グレースはこの依頼の情報提供だけでなく移動手段である荷馬車や道中滞在する村での宿の手配などもおこなってくれた。


すべてはスレイドが冒険開始直後に高価なアーティファクトのレプリカであるスキル・スフィアを粉々に破壊してしまい大借金まみれになったとが原因だ。


それでも2人は思いの外、この旅を楽しんでいた。



__________________



夕刻のガル・アーナムはあいにくの曇り空。

それでも街を照らし出している街灯のあかりが落ち着いた雰囲気を演出しており綺麗だ。


石造りの建物が目立つガウナ・リナとは違い、森林の中を切り開いて作られたガル・アーナム。

見ると緑に囲まれた街の中は木作りの風情溢れる建築物が多い。


話によれば最初は村ほどの大きさだったのが、"ある出来事"をきっかけに一気に人口が増えて街になったのだとか。

気候が魔法研究のために適していると魔法使いがこぞって土地を買っていったことで大きくなったらしい。


行き交う人を見るに行商人や冒険者の出入りもあるが、特に冒険者が多い印象を受けた。


町の入り口に着くなりスレイドは感嘆の声を上げ、ミライは例の如くはしゃいでいた。


「マジで凄い!これこそファンタジーの世界って感じね!」


「あ、ああ……ふぁんたじぃー?」


スレイドは小声で呟くように言った。

また"ド"田舎出身と罵られることを恐れてのことだ。


「とりあえずグレースが用意してくれた宿に行きましょうか。数日だけならタダだし」


「そうだな。明日、朝一番でギルドに行こう。聞いていた依頼がまだあればいいが」


「そうね。でも、そう簡単に攻略されてたらつまんないわ」


「俺たちにだってこなせるかわからないけどな」


そうスレイドが口にした瞬間にミライが、


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」


と悲鳴を上げた。

スレイドはすぐさま構えを取りつつ、隣に立つミライの背後を見た。


するとそこには1人の"老人"がおり、制服のスカートの上からミライのお尻を撫でていた。


老人は首を傾げ、眉を顰めて言った。


「うーむ、やはりダメか……」


「なにすんじゃボケ!!」


ミライは振り向きざま、老人の頭部へと渾身のエルボーを当てる。

老人の頭部は勢いよく地面へと激突して首が曲がった。


「お、おい……やりすぎじゃないか?」


「何言ってんのよ!痴漢は立派な犯罪なのよ!王国騎士に突き出してやるわ!!」


ミライが腕まくりを始めると同時に老人は何事もなかったかのように無表情で立ち上がる。


「ワシが王国騎士だが」


「は?冗談でしょ」


「冗談ではない。この格好を見ればわかるじゃろ」


確かに鎧を纏っていた。

しかし老人は痩せ細っているため鎧がずれ落ちそうになっており、それを時より直している。

さらに頭部は白髪の薄毛、しわのよった顔には覇気は感じられず、まばたきの度に目を擦っているような状態だ。


ミライは今までにないほどの鋭い眼光を老人へと向けている。

だが老人はお構いなしに目を細め、首を近づけたり、離したりしながらミライを凝視していた。

見ていたスレイドは首を傾げた。

この老人はミライの()()()()を見ても停止しないのだ。


「やはり思い出せん」


「なにが思い出せないのよ」


「ワシには……"大事な使命"があったんだ」


「大事な使命?」


「やはり、"この程度の刺激"では思い出せんのか……」


老人の言葉にミライの眉間に血管が浮き出るのがわかった。

そしてポキポキと手を鳴らしつつ口を開く。


「ほう……なら、もっと強い刺激を与えたらいいんじゃないかしら」


「そうじゃな。やはりセラフィーナ様に会えたら思い出せるかもしれん」


「セラフィーナ?誰それ?」


「お前たち冒険者じゃろ。あの依頼のためにこの町に来たんじゃないのか?」


スレイドとミライは顔を見合わせた。

この老人が話しているのは、恐らく"聡明な魔法使い"が出したとされる高額依頼のことだ。


「セラフィーナ様は何年か前に来てからというもの、町がよくなるために色んなものを作ってくれた」 


「へー、いい人なんだ」


「いい人ってもんじゃない。ここが村だった時からいるワシにとっては女神様じゃ」


「でも、この街に住んでる人なら簡単に会えるでしょ」


「会えないんだ。セラフィーナ様は誰とも会わない。誰も姿を見たことがない」


「は?」


「セラフィーナ様の姿を一度でも見れば、ワシは必ず思い出す!」


「なんでよ」


「セラフィーナ様は絶対に"ナイスバディ"で"ナイスヒップ"だからだ!!」


スレイドとミライは言葉を失った。

しかし老人は興奮を抑えきれていない。

何か柔らかいものを触れているかのような手の動きが妙に不気味だ。


そんな老人に対してスレイドが呆れ気味に言った。


「"聡明な魔法使い"って言うくらいだから年配のイメージだったけど。名前からして女性だから……老婆かな?」


「ババアには興味はない!!」


「ジジイが言うな」


「とにかくワシはセラフィーナ様に会いたいのだ!だがワシはしがない王国騎士だ。ギルドの依頼は受けられん……彼女の姿を見ることができないんだ」


肩を落とす老人。

なんと言って声をかけたらいいのかわからず途方に暮れる2人。

そんな時、街の奥から王国騎士らしき若者が駆け足で近づいてきた。


「"アーヴァンじいさん"……ようやく見つけたぞ。鎧なんか着て騎士ごっこなんてやってないで戻るぞ」


「ワシは騎士だ!凄いお方から大事な使命を言い渡されてる!」


「はいはい、それは誰なんだい?」


「それは……誰だっけ……」


「まったく、そんな嘘を言って仕事サボってたらまた怒られるぞ。それに、あれだけ関係ない人に迷惑かけるなって言っただろ。まだ掃除が残ってるんだから、日が暮れる前に終わらせないと」


そう言って若い騎士は老人を羽交締めにすると、引きずるようにして街の奥へと移動していく。

その間も手足をバタバタさせて暴れる老人・アーヴァンだったが力及ばず、そのまま街ゆく人の間を掻き分けながら消えていった。


呆気に取られたスレイドはため息をつく。


「なんだよ、あのじいさん……」


「変な人だったね」


困惑するスレイドと違って腕組みをして眉を顰めるミライ。


「どうしたんだ?」


「別に、なんでもない」


「俺たちも日が暮れる前に宿に行こう。あのじいさんの話ぶりだと、まだ依頼はあるだろう」


「そうね」


2人はガル・アーナムの宿を目指して街の中へと足を進めた。


この時、ミライにはわかっていた。

騎士のフリをしていたボケた老人であるアーヴァンが言っていたことが"真実"か"嘘"なのかを。

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