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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第一章
18/32

そして扉は開かれた

早朝、スレイドとミライはガウナ・リナの騎士団本部の目の前にいた。


入り口から出てきたのはグレース副団長。

白のワイシャツとブラウンのパンツ、黒いブーツを履いており、鎧は着ていない。


彼女に続いて出てきたのは4人の男性だった。

皆、涙を流しながらスレイドとミライにお辞儀をすると街へと消えていった。


グレースの表情はとても穏やかだ。

最初に会った時のような険しい雰囲気はまるでない。


「君たちには助けられたな。感謝するよ」


「いや俺はただ"お悩み相談"の仕事を受けて、それをこなしただけさ」


「それでも結果的にこの凶悪事件を解決に導いてくれた」


「俺はあんたを疑ってた。まさかヤツも"声変わりの魔法"の袋を使ってたなんて」


現在、貴族で流行ってると言われている声が変わるという魔法の袋だ。

ドレッドもこれを使って様々な人間を欺き、グレースに罪を着せようとしていた。


「構わんさ。私も一時的に君を疑ったわけだからお互い様だ」


「そうだな……だが、お互い無事でよかった」


グレースは笑みを溢す。

そして過去の自分を振り返るように話し出した。


「私はね……落第生なんだよ。剣も魔法もできなくて、でも中途半端に貴族の位が高いものだから周りの期待もあって苦しんだ。結局、誰も来ないような田舎の町に配属になって正直安心してたんだよ」


「……」


「そんな時、こんな凶悪事件が起こったものだから、どうしても町のみんなを守りたくて毅然と仕事をしていた……しかし結果的に何もできなくてこのざまさ」


「俺だって同じようなものだ。だけど俺はあんたを尊敬する。貴族様に偉そうなことは言えないが、あんたは自分の決めた道を最後まで諦めずに突き進んだんだ。それがこの結果さ」


「そうだな……ありがとう」


「礼を言うのはこっちだ。事件解決できたんだから俺はたっぷり報酬を貰える」


「それはよかった。そう言えば私からもお礼がしたいのだが」


グレースの有難い申し出だった。

現状、スレイドを取り巻く環境において欲しいものは沢山ある。

その中でも相手の立場を考えるならこれしかない。


「俺は騎士に……なりたいんだ」


「ほう、珍しいな。平民が騎士になりたいだなんて」


「そうなのか?」


「ああ。普通、平民は規則に縛られることが嫌だとかで冒険者になる人間が多いと聞く。君もそうだと思っていたが」


「俺は一旦、金が欲しくて……」


そう言いかけた時、隣で聞いていたミライが"今や大借金まみれだけどね"と皮肉混じりに言った。


「そういえばギルドのスキル・スフィアを木っ端微塵に爆散させて跡形もなく破壊したって言ってたな」


「いや……せいぜい粉々だ」


「同じようなものだろ。さすがにスキル・スフィアの代金の肩代わりもできないし、騎士になりたいと言っても、こんな辺境の町にいる私にはどうにもならないな」


「そうか。それなら仕方ないな……あと『黒竜の息吹』って場所わかるか?」


「なんだそれは。竜は普通、"銀色"だろ」


「そうなのか?」


「ああ、大昔の文献によればな。その場所とやらも私にはわからない。ただ大金を稼ぐ情報ならあるぞ」


笑顔でスレイドとミライは顔を見合わせる。

これは一気に借金を返せるチャンスかもしれない。


「ここから少し西に行ったところに"ガル・アーナム"という町があるんだが、そこで面白い依頼がギルドに貼り出されたと噂になってる」


「"面白い依頼"?」


「ああ。ある聡明な魔法使いが出したという依頼なんだが、これがかなりの高額依頼だそうだ。なんでも依頼の前に試験があって、それを突破できた五人にだけ依頼を受けさせるとか」


「なんだよそれ」


「私も詳しいことはわからないが、どうやら貼り出されてから今だに一人も突破できていないらしい」


つまり冒険者としての実力が問われる依頼であるが、その実力に見合った人間が未だにいないということだ。


ミライは聞き終わるとニヤリと笑った。


「何それ、めっちゃ面白そうじゃん!」


「お前な、遊びじゃないんだから」


やり取りを見ていたグレースは苦笑いを浮かべるが、なにか安堵した様子で言った。


「君たちなら大丈夫さ。私が見てきた冒険者の中でも間違いなく実力者だ。必ず依頼まで辿り着けるさ」


このグレースの言葉に背中を押された2人は、スレイドの大借金を返すため町を移動することにした。

目指すはガル・アーナムだ。


グレースは2人に手を振ると騎士団本部へと入っていく。


どこか清々しさがあるスレイド。

初めての仕事でここまでの成功を収められるなら、彼女が言った通り次の町でも心配は無いかもしれない。


しかしスレイドと違って、珍しくあまり浮かない顔のミライ。


「どうした?」


「ちょっとね、気になることがあるんだよね」


「なんだよ」


「ドレッドの犯行動機」


これについては当初から謎であった。

放火をすることで得られるものが果たしてドレッドにはあったのか?

ただの憂さ晴らしで4人の男とグレースに無実の罪を着せようとしたというのはあまりにも大仰だ。


「気になる……って言ったってなぁ。ドレッドは何も喋らなかったんだろ?」


「うん。まぁでも、これはドレッドに自白を強要しても真実はわからないと思う。もしかして被害者に秘密があるとか」


「確かみんな家族がいて、子供がいて、借金がある……くらいか?」


「うん。あと気になることが一つ」


「なんだ?」


「罪を着せられそうになった人たちの子供が全員、"女の子"なのよ」


スレイドは眉を顰めた。

偶然にしては、とても低い確率な気がした。

そういえばフェアリーズで会った中年男性も"娘が可愛い"と言っていたことを思い出す。

それでもドレッドの犯行動機に関係しているがどうかは不明だ。


「まぁ、解決したことを考えていても仕方ないか。気にせず次の町に行きましょう」


「そうだな。聡明な魔法使いの依頼か……」


大借金まみれであることを忘れるほどの高揚感があった。

また新たな冒険、新たな出会いがあると思うと胸が躍る。


2人は荷物をまとめて、次の町であるガル・アーナムへと向かった。




冒険者ギルド編 第一章 完

________________________



2日前



スレイドは初仕事を受けるためテレサという女性の家に来ていた。

だが事件を解決する糸口をどこから得たらいいのかわからない。


「他に何か情報はありますかね?今のままではどこで何をしたらいいのか……」


「情報……ああ、そういえば夫は仕事終わりによく"フェアリーズ"に行ってました」


「フェアリーズ?」


「この町で唯一の酒場です。もしかしたらそこなら何か情報があるのではないでしょうか?」


「なるほど。とりあえず行ってみます」


「よろしくお願いします」


スレイドは愛想笑いを浮かべながら頭を掻いた。

成り行きで受けてしまったが、これで良かったのだろうか……


そう考えていると、玄関の近くで大きな咳払いが聞こえた。

恐らく玄関からリビングへ来る間にある部屋の中からだろう。


「誰かいるんですか?」


「娘です。流行病にかかってしまったようで……ちょうど今、お医者さんに来て頂いてたんです」


「そうでしたか」


玄関にあったポールハンガーに掛けられた、"黒いシルクハット"と"黒いロングコート"はその医者のものだろう。


「あの子、お父さんが帰って来ないって毎日泣いていて……それで気から病を呼んできたんですかね」


「旦那さんの件、調べてます。あまり遅くならないよう尽力します」


そう言って立ち上がると玄関へと向かう。

テレサはスレイドにお辞儀をして送り出した。


玄関を閉めると同時に娘が寝ている部屋から物音がする。


"そして扉は開かれた"


娘が寝ている部屋からは背の高い白髪混じりの男が出てくる。

長めの髪をオールバックで整え、ワイシャツに上品なネクタイ、黒いズボンを穿いた初老の男だ。

2メートルを超えるほどの背の高さに部屋を潜り抜けるようにして出てくる。


「あの……先生、娘は大丈夫なのでしょうか?」


テレサの言葉に先生と呼ばれた男は、白い仮面のような顔を向けて無理やり口角を釣り上げて笑いかける。

その表情は見る者によっては不気味だろう。


「大丈夫ですよ。今、薬を飲ませましたからね。安定はしてます」


「よかった」


「では、私はこれで失礼しますね」


「ありがとうございました」


「いえいえ。お大事になさって下さいね」


表情を変えることなく先生と呼ばれた初老の男は玄関へ向かい、ポールハンガーに掛かった"黒いシルクハット"と"黒いコート"を身につけるとテレサの家を出た。


人通りのない道を歩いていると先生と呼ばれた初老の男の肩に一匹のカラスが降り立つ。

カラスの片目には傷があり"隻眼"であった。


「計画ドオリダワ。後ハ最後ノ仕上ダケネ」


カラスはガラガラとした声で人の言葉を喋った。

答えるのは先生と呼ばれていた初老の男。


「それより、私が診察していたら"妙な男"が入ってきた」


「妙ナ男?ナニソレ、モシカシテ、カワイイ子ダッタリスルノカシラ?」


「顔は見ていない。ただ私のスキルに引っ掛からなかった。恐らく魔力を持っていないな」


「ハ?ソンナ人間イルノ?」


「一人はいるだろう。スキルによるものだが魔力を持たず、"拳"と"闘気"だけで戦う化け物が。しかし、さっきの男は恐らく違うね」


「ドコヘ行ッタノ?」


「フェアリーズだ」


「興味アルワ。チョットダケ見テクル」


「かまわないが、ちょっかいは出さぬようにね。今、目立つ行動はつつしみたい。この町で我らの計画に支障が出たら困る」


「ドウセ、モウ次ノ町ニ行クンダカラ、ソンナニ気ニシナクテモイイト思ウケド」


「最後まで念には念を。我らの目的は"彼女"の復活だ。やりとげなければ、でなければ今までの少女たちの犠牲は無に帰する」


「ハイハイ」


「ドレッドにやらせていた犯罪によるカモフラージュも明日で終わりだからね。次の町であの子に会えればいいけど」


初老の男は胸ポケットから"小さな袋"を取り出した。

それを見て口角を釣り上げて無理やり笑顔を作る。


「これを作ったのは私の元教え子だろう。あの子は優秀な姉をもっていた……まぁ、あの時は私が加減を知らないで姉の方は殺してしまったんだが、あの子なら代わりになるかもしれない」


「ナルホド、ジャア、次ノ目的地モ決マッテルノネ」


「ああ。我らは"ガル・アーナム"へ行く」


「ソウ。ワカッタワ、ワタシハ一足先ニ行ッテヨウカシラ。モチロン、フェアリーズニ行ッテカラ。アナタハ行カナイノ?」


「私は男には興味ない」


「ハイハイ」


ぶっきらぼうに答えた隻眼のカラスはフェアリーズの方へと飛び立っていった。


初老の男は手に持った"小袋"を握りつぶす。

中身を吸うと声が変わるという魔法の小袋だ。


「我らはあなた様を必ず蘇らせる。ご期待下さい……この私、十二騎士・ナイトの一人であるグロムランド・オルバが必ず、あなた様を生と死の狭間から救い出してみせます」


初老の男、グロムランド・オルバは静かに決意を呟く。

この町での起こった凶悪事件の裏で起こる少女だけが感染する流行病は、彼が町から姿を消したことでパタリと止んだ。

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