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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第一章
16/33

欠点


床に落ちたランプの灯りで照らされた小屋の中にいる3人。

グレースは壁に勢いよく激突した衝撃で倒れ、朦朧としていた。

一体何が起こったのか?


いきなり後ろから引っ張られた気がする。

やったのは昨日、牢にいた冒険者のスレイド。

ドレッドと共謀して自分を嵌めようとしていた男。


いや違う……恐らく、この男もドレッドという知能犯に騙された被害者の1人なのだ。



グレースの目の前、ちょうど室内の中央あたりで背を向けるスレイドは一気に床を蹴って前に出た。

向かう先は入り口で独特な構えを取るドレッド。


お互いの距離は3メートルもない。

たった一歩踏みだしただけで斬撃の間合いに入る。

今回、スレイドが先手で近距離戦へと持ち込もうとしているのには理由があった。


「距離を空けるのは得策じゃない!こっちからいかせてもらう!」


ドレッドの剣技は予備動作がいる。

それなりの威力の突きを放つには、ある程度の"距離"が必要なのだ。

もし一歩も踏み出せないとなれば突きの威力は格段に下がる。

近い分、回避は困難であるが、スレイドは反応速度には自信があった。

ほぼゼロ距離であっても突きをギリギリで回避することはできる……そう思った瞬間だ。


一瞬だけ遅れてドレッドも一歩踏み出した。

勢い自体はあまりなく、剣を突き出す動作も見えない。


なんとドレッドが放ったのは軽いショルダータックルだった。

お互いの肩と肩がぶつかる。

同じ力だったのだろう、2人は少しだけ後退した。


「なんだと!?」


スレイドが剣の鞘を振る直前の不意打ち。

これには2人とも特段ダメージなどない。


しかしドレッドの狙いはここからだ。


後退した体を無理やり前へ出して勢いをつける。

そして放たれる高速の突きはスレイドの顔面を捉えていた。


「……!!」


よろめいていたスレイドはあの晩と同じように剣が顔面に当たるかどうかのギリギリの距離で首を捻って突きを回避する。

同時に鞘に収められた剣を半分だけ抜剣して相手のロングソードの刃に柄頭ポンメルを当てて、すぐさま納剣。


衝撃によってドレッドはバンザイする形で仰け反り、右手に持ったロングソードの刃は小屋の天井に刺さった。


「今度は見誤らないぞ!!」


スレイドは体の筋肉をしならせて無理やり前出る。

距離は完璧、確実にクリーンヒットする位置で間違いない。

このままドレッドの右脇腹へとショートソードの鞘を振った。


「これで終わりだ!!」


直撃寸前、ドレッドは動いていた。

空いた左手を後ろ腰へと伸ばして"隠しナイフ"を引き抜く。

逆手で持ったナイフを振り、スレイドの鞘を弾いた。

腰を入れた斬撃そのままに体を回転させて回し蹴りを放つと、それはスレイドの腹を直撃した。


「がはっ……!!」


ドン!という鈍い音と共に勢いよく背中から壁に激突するスレイド。

痛みから腹を押さえ俯きながら片膝を床につく。

正面、ドレッドを再び視界に入れた瞬間、凄まじいスピードで真っ直ぐ飛んでくるナイフ。

間一髪、スレイドは反応してショートソードの鞘を振って弾いた。

追撃があると思いきや、ドレッドは冷静に天井に刺さったロングソードを引き抜くだけだ。


「面白い剣技ですね。どこで習ったのです?」


ドレッドが笑みを浮かべつつ言った。

息を荒くしたスレイドは困惑しながらも答える。


「誰にも習ってない。親父が残した剣術指南書を見て学んだだけだ」


「なるほど……多分、スレイド君の父上は剣術のことを全くわかってなかった人だと思いますよ」


「な、なんだと?」


「通常、戦闘時には剣を抜いて構える。鞘に収めた状態で戦うなんて不合理なんですよ。こんな剣技を考えるなんて"剣術のド素人"としか思えない。それに……」


何も言い返せなかった。

なによりも、この剣術には()()()()が存在する。

恐らくドレッドほどの知的な人間なら、その欠点に気づいているだろう。


「あなたが何故ショートソードなんて中途半端なもの使っているのか……それはあなたがやっている構えからだと、長さがあって重く作られている他の剣では刃を瞬時に抜き切れないから。恐らく素早く抜こうとすれば剣先が鞘に突支つっかえる。かと言って長さが無ければカウンターの斬撃が仰け反った相手に届かない」


「……」


「答えないところを見ると正解ですかね。まぁ、ちょっと時間を掛ければ剣を抜き切れないことはない。だが、そんなことをしてる間に相手の方が先に動いてしまう……言ってしまえば欠点だらけの剣術と言わざるおえない」


やはりドレッドは見抜いていた。

父の残した剣術指南書に書かれている内容を見るに、ほぼ全ての技が剣を鞘に収めた状態から放たれる。

しかしそれらはスレイドが長年かけ、どれだけ練習しても再現できなかった。

村にあった短めの剣であるショートソードを使っても無理だったのだ。


できたのは唯一、剣を半分だけ鞘から引き抜いて柄頭で相手の攻撃を弾く『雷打らいだ』と呼ばれる技だけ。

その後、無防備になった相手の体に逆手に持った鞘を振って当てるというのは"別の技"の予備動作で続きがあり、技の完成形ではない。


「違う……俺の父親は凄い剣士だった。できないのは俺に才能が無いだけだ」


「確かに君には剣は向かない。恐らく父上もそう。どちらも優しすぎるのでしょう。それが剣術にも現れている」


ドレッドはそう言いつつ、ロングソードの柄を目のあたりまで上げる。

切先の向いている方向はスレイドだ。


「まぁ……どちらにしろ、ここで死ぬのだから何も悔やむことはない。そんな"くだらない剣技"もこれ以上、広まることはないでしょう」


「くそ……」


「彼が終われば次はグレース副団長殿だ。ああ、ナッシュ団長には期待しない方がいい。あの方は今ごろフェアリーズで酔い潰れてる。いつものようにね」


倒れるグレースは項垂うなだれる。

ここで無実の罪を着せられて殺される。

そうなれば家はどうなるだろう。

父や母はどう思うのだろうか?

貴族であり、さらに王国騎士団の人間が連続放火魔などという前代未聞の汚名。

考えるだけで涙が溢れてきた。


しかし、そんな涙を見ようとも一切の心も動かぬドレッド。

不敵に笑ってから落ち葉がひらりと舞うように低い体勢から一気に前に出る。

突き出されるロングソードの切先はスレイドの喉元へと迫った。

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