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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第一章
13/32

フェアリーズ

夕刻、スレイドは町の中心部までやってきた。

目的地はこの町で唯一の酒場である"フェアリーズ"だ。


店の玄関先には妖精が2人描かれた看板が見えた。


「ここだな」


看板を見た瞬間、スレイドは足を止めた。

上には綺麗な妖精の絵には不釣り合いな、真っ黒なカラスが止まっていた。

よく見るとカラスは片方の目に切られたような傷があり"隻眼"だ。

少しだけ目が合うとカラスは飛び立っていった。


「カラスか……村じゃ、不吉の象徴だって話しだったけど」


それも村の掟のように作り話なのだろう。

今さら深く考える必要もない。

スレイドは苦笑いを浮かべつつフェアリーズに入った。



フェアリーズに入るとすぐに、


「へい!らっしゃい!!」


と若い女性の声がする。

しかし、それよりも大きくガヤガヤと客の話し声が耳障りでうるさい。

多くのランプで黄金色に照らされた店内は大盛り上がりだった。

テーブル席は冒険者や平民で埋め尽くされ、小さな村出身のスレイドはこの光景にら圧倒されていた。


そこへ、最初に店に入った時に挨拶した若い女性が近いてくる。


「あら、スレイドじゃん。どうしたの?」


「お前こそ、なんでここにいるだ?」


若い女性は間違いなくミライだった。

ただ服がその辺の町娘のような格好に変わっていたため気付かなかった。


「その格好は?」


「ああ、制服を洗濯して乾かしてるからさ、ここの女将さんから借りたのよ」


「お前、まさか仕事してるのか?」


「そうよ。アルバイト探してくるって手紙に書いてたでしょ」


「あるばいと……って、仕事のことだったのか」


「あたり前でしょ、それ以外なにがあるのよ」


スレイドは眉を顰める。

やはり世界はまだまだ広い。

自分の知らない言葉が沢山あるようだ。


「それより、あんた"文無しの大借金まみれ"でしょうが。あたし忙しいんだから冷やかしなら帰って」


「いやいや、俺は仕事中で……」


そう言いかけた時、奥から人混みを掻き分けて近づいてくる1人の中年男性がいた。

足取りはフラフラとしていて、もうすでに酔っ払っているようだ。


「まぁ、いいじゃんさ、ミライちゃん。今日はおれの奢りってことで」


「まぁ、それならいいけど。あんまり飲みすぎないでね。二日酔いで仕事できなくなったら借金返済がおくれんだからね」


そう言ってミライはテーブル席を回るため店の奥へと去っていった。


中年男性は満面の笑みでスレイドに微笑むと、自分のいた席に案内する。

そこにはもう飲み物が用意されていた。


「さすがミライちゃん、用意がいい!じゃあ。今日の出会いを祝して」


「ああ……」


促されるまま、出された飲み物を口に含む。

それは結構な強さのお酒だった。

スレイドは成人の儀をおこなう前に村を出たため酒を飲むのは初めてで、その妙な味に戸惑った。


「君、大借金まみれなんだって?」


「あ、ああ……」


「そりゃ大変だな。金の当てはあるのかい?」


「働いて返すしかないと思ってるよ」


「真面目だねぇ。ところで君さ……子供とかいる?」


「え?」


中年男性がその言葉を口にした瞬間、周りで談笑していた男たちが、"また始まったか"と笑った。

スレイドは首を傾げつつ言った。


「子供はまだいないけど」


「そうか……いやぁ子供はいいぞぉ。可愛くて、いつまでもお父さん、お父さんって笑顔で走りまわって抱きついてくる」


「は、はぁ……」


「お前さんもいつかわかるさ。あの素晴らしい存在に恵まれればな」


「そ、それは楽しみだな」


「まだ若いからって油断してたら後悔するぞ。……おっと、そろそろ帰らないとな。愛する娘が待ってるんで」


そう言って中年男性は席を立った。

そして"今日は好きなだけ飲んで行ってくれ、おれの奢りだ"と言ってフラフラとした足取りで店を出ていった。


中年男性を見送ったスレイド。

すると周りで見ていた他の客が苦笑いしながら口を開く。


「あいつ最近、羽振が良くなったよなぁ」


「ほんとほんと」


「しかし今日はいつもより帰るのが早い気がするな。いつもは子供の話をしながら、相手と酔い潰れるだけ飲むのに珍しい」


「そういえばあいつと飲んだやつって、みんなどこ行ったんだろうな?最近見ないやつ多いけど」


「さぁ?」


男たちの会話を聞いたスレイドは眉を顰めた。

もしかしたら先ほどの中年男性が事件となんらかの関係があるのではないだろうか?

調べるとすれば追うなら今だろう。


「どうせ手がかりなんて無いに等しいんだ。しらみつぶしにいこう」


呟いて、席を立つスレイド。

すると気づいたミライが声をかけてきた。


「あれ、もう帰るの?」


「調べたいことがあるんだ」


「そう、頑張って。あたしはあたしなりに頑張るからさ」


「ああ、頼む」


2人は手を振り合って別れる。

スレイドは中年男性を追うため1人で店を出た。



__________________




店を出ると、もうあたりは暗かった。

等間隔に立てられた街灯が無かったら暗闇だろう。


スレイドは左右を交互に見ると中年男性がフラフラと歩く姿が見えた。

なるべく明るい街灯の下を歩かず、中年男性を尾行する。



数十メートル歩いたあたりか、人通りがなくなる頃、フラフラと歩いていた中年男性の足取りがみるみる良くなっていくのがわかる。

まさか"酔っ払っいのフリ"をしていたのか。


「なぜそんなことをする?」


無意識に少しだけ声が漏れる。

口元に手を当てつつ追っていると中年男性は急に方向を変えて家屋と家屋の間に消えた。


スレイドは家屋に背をつけ、覗き込むようにして見る。

そこは少しだけ開けた路地で、中年男性が立ち止まったのは十字路の真ん中だった。


すると闇の中から姿を現すフード姿の人物。

大きめのフードを深く被り、体型も覆い隠しているため男性か女性かわからない。


中年男性がフードの人物に声を荒げるように言った。


「もう、これで終わりなんだな?俺は……こんなことは……」


「……」


フードの人物は何も言わずに紙切れのようなものを中年男性に渡す。


「今度は誰もいないぞ。それでも大丈夫なんだな?」


中年男性の震えるような言葉にフードの人物はようやく一言だけ、


「大丈夫、最後の大詰めにはとっておきの人物を用意してある」


と……凛とした、またしっかりした口調で言った。

その声はどう聞いても"女性"だった。


男は頷くと紙切れを握りしめて、フードの人物とすれ違いざまに闇に消えていく。


スレイドは焦って体を前に出した瞬間、小石を蹴ってしまった。

小石は家屋の壁にあってコツリと音を響かせる。


数メートル離れた場所にいるフードの人物を見ると、左腰に差したブロードソードを引き抜いていた。


このフードの人物が連続放火事件に関係しているとするならば、この人物の正体を確かめればもしかすれば一気に事件は解決へと向かうのではないだろうか?


話からしても只事ならない内容で間違いはない。


「ここで前に出なかったらいつ出るんだ」


そう言い聞かせてスレイドは左手に持ったショートソードの鞘を握り締めて路地の奥へと進んだ。

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