スキル・スフィア(2)
スレイドとミライはカウンターにいる受付の女性の前に立った。
すると受付の女性は笑顔で対応する。
「ようこそ!ガウナ・リナ冒険者ギルドへ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「あ、ああ……えーと」
スレイドは頭を掻きながらミライにアイコンタクトを送った。
初めての経験で動揺し、社交的なミライに助けを求めたのだ。
しかしミライは肘でスレイドの背中を叩き、それ以上は何も反応しない。
"自分でなんとかしろ"という合図なのだろう。
「えーと、仕事を受けたいんだけど初めてで……」
「ああ、駆け出しの冒険者さんですね!」
「は、はい!俺はスレイドと言います」
「私はこのギルドの受付を務めさせて頂いています、"マリン"と申します」
そう言って受付の女性マリンは笑顔で頭を下げた。
「まずは冒険者ギルドに登録して頂きます。そして冒険者ランクを表すアイテムを渡しますので、こちらを身につけて下さい」
マリンはカウンターの下からネックレスのようなものを2つ取り出した。
紐は簡易的で小さい木の棒のようなもが飾りとして括り付けてある。
「こちらは"ルーキー"を表すネックレスになります。どうぞ」
「ああ」
「あたしはいらないよ。だって冒険者じゃないし」
ミライは平然と言った。
するとマリンはキョトンとした表情をしたが、続けた。
「では、とりあえずスレイドさんだけが冒険者登録をおこなうということで」
「ええ。それでお願いします」
スレイドは首にルーキーの証たる木の棒の飾りがついたネックレスを着ける。
すると、それを横目で見ていたミライは小声で"なにそのデザイン、ダッサ"と呟いた。
「それでは冒険者ランクの説明をいたします」
マリンの話ではこうだ。
冒険者のランクは、
ルーキー (木)
カッパー (銅)
ブロンズ (青銅)
アイアン (鉄)
シルバー (銀)
ゴールド (金)
プラチナ (白銀)
ミスリル (最銀)
と分けれているそうだ。
基本的にギルドでの仕事をこなしていけば自然にランクは上がっていくが、プラチナ級、ミスリル級に昇格するには何年も掛かるだろうとのこと。
ちなみに現在、ミスリル級には"2人"しか到達していない。
これには理由があって、スキルに恵まれている貴族と違い、平民のスキルは凡庸であるというのがあげられるそうだ。
この世界で戦闘技術や生まれ持った魔力量よりもスキルの方が影響力があると言われている。
その点、貴族は優秀な血筋が多いのかレアなスキルに恵まれることが多い。
そのため冒険者の場合は高ランク帯の戦闘についていけず、最高ランク到達前に生死を問わず引退する者が多いのだとか。
「ちなみにナイトの称号を持っている十二騎士は全員が貴族だそうです」
「ああ、なるほど、"上級国民"ってやつだ」
ミライが皮肉まじりに言った。
そんな彼女には反応せず、マリンは続けて、
「では、今度はスキルチェックの説明を……」
と言ってカウンターの下から水晶玉を取り出した途端、ミライはスレイドを押し除けて前に出る。
「待ってました!!」
ニヤリと笑みを浮かべて、制服の袖を腕まくりをしつつ、
「あたしって結構SNSとかで流れてくる性格診断的なやつ気になって毎回やっちゃうんだよね!」
と、やる気満々というそぶりを見せるミライ。
「いやいや、お前、冒険者にならないんだからやる必要無いだろ」
「えー、別にいいじゃん!」
「ダメに決まってるだろ!」
スレイドはミライを羽交締めにして無理やりカウンターから引き離そうとする。
暴れるミライを見て唖然としているマリンは苦笑いを浮かべて口を開く。
「別に大丈夫ですよ。たまに私も触りますし」
……というのも、平民がどれだけ頑張ろうとスキルなどたかが知れているのをマリンは知っている。
ミライの格好を見るに貴族っぽくはあるが、おそらく"少し背伸びした平民"程度。
何百もの人間のスキルチェックに立ち会ったマリンは簡単に予想がついてしまう。
多分、彼女のスキルは、
料理 Lv2
編み物 Lv1
****
****
といったところか。
大体、平民の若い女性が持つスキルなんてこんなものだ。
冒険者や特殊な職業に就いていないのであれば、まずスロットの空欄は生涯埋まることはない。
隣の剣士風の男性……スレイドとかいうルーキーはさっきの駆け出しパーティの中にいた剣士見習いの少年程度か、それにちょっと毛が生えた程度だろう。
見るからにどちらもマリンの興味の範囲外だ。
だから、さっさと触ってもらってスキルを見て適当にアドバイスして終わりたい。
そんなことを思っていた。
「ほら、いいって言ってんじゃん!離しなさいよ!」
「まったく……世話が焼けるやつだ」
「なんか言った?」
ミライの鋭い視線がスレイドを捉えようとしたが、危険を察知したのかすぐに目を逸らす。
「さっさと触ったらどうだ?」
「そうね!」
一転して笑みを浮かべるミライ。
別に大したことはないだろうとスレイドはため息まじりに見守った。
そして、ようやくミライがスキルスフィアに触れた。
「は?……え?」
マリンの声だ。
スキル・スフィアを覗き込んだまま固まっていた。
スキルス・フィアは"白色"に発光する。
表示されたスキルは、
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剣聖 Lv99
魔導帝 Lv99
魔導覚醒 Lv99
超直感 Lv99
言語解読 Lv99
カリスマ Lv99
炎の一族 Lv---
竜王の魔眼 Lv---
闘気開眼 Lv---
闘気操作 Lv---
闘気視認 Lv---
アザミの病 Lv---
ライアーデストラクション Lv---
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マリンは口をパクパクさせているが、そんな彼女に構うことなくミライは満面の笑みを浮かべている。
「わぁお、てんこ盛りだー。あたしって才能の塊じゃないの!」
「ス、スキルが……じゅ、十三個!?しかも、ユニークスキルが七個も……」
ミライがスキル・スフィアから手を離すと表示されたスキルが消える。
そのまま腕を組んで高笑いを始めた。
「はーはっはっは!!これは将来有望よねー」
「いや、いや、いや、絶対におかしいです!スフィアが壊れちゃったのかな?……あの、もう一度触れて……」
マリンが言いかけるが、勢いよくスレイドが前に出る。
「こいつはもういいだろ。俺が触る!」
そう言ってスレイドはスキル・スフィアに触れた。
するとなぜか水晶玉に瞬く間に亀裂が入り、飛び散るように粉砕した。
「ぎゃああああ!!スキルスフィアがぁぁぁぁぁ!!」
「あれ……?」
「てめぇ!!何してくれてんだ!!」
マリンの怒号がギルド内に響き渡る。
このギルド始まって以来の珍事が起こってしまった。
周りにいた冒険者たちが一斉にカウンターの方を見ており、その全員が顔を引き攣らせていた。
「このスキル・スフィアは貴重なアーティファクト……のレプリカだけど、めちゃくちゃ高価な物なんだよ!!」
「あ、ああ、すまない……」
「すまんで済んだら王国騎士なんていらねぇんだよ!!こうなりゃ弁償だぁぁぁぁぁ!!」
こうしてスレイドは、この一瞬の出来事によって冒険者初日で多額の借金を背負うことになってしまうのだった。




