始まり
昔に妄想した事を思い出して書いたので支離滅裂なところがたくさんある思います。
雨上がりのしっとりとした空気が漂う警察署の会議室。重い空気を切り裂くように、カルロス上官の声が響いた。 「今後の計画はこの通り進めていく。いいな? じゃあ解散だ」 ぞろぞろと席を立つ刑事たちの中に、千葉悠介もいた。しかし、彼はすぐに部屋を出ず、カルロス上官に声をかけた。 「カルロスさん」 「ん、なんだ悠介」 「……デスカウントについて、何か新しい情報は?」 カルロス上官は顔を曇らせ、首を横に振った。 「それがな……拠点を変えたみたいなんだ。俺が言っていたあの基地じゃない可能性が高い」 「……そうですか。ありがとうございます」 悠介は深く頭を下げ、部屋を後にした。||
||「くそっ、なんで情報がつかめねぇんだ……」 廊下に出た悠介は、苛立ちを隠せずに壁を小さく叩いた。復讐の炎が、胸の奥で燃え盛っている。 その時、背後から陽気な声が聞こえた。 「よぉ、お疲れ」 「ああ、高木か。なんか用か?」 同僚の高木が、悠介の顔を覗き込むようにして尋ねる。 「なぁ……『デスカウント』って知ってるか?」 その言葉に、悠介の全身が硬直した。心臓がドクンと大きく鳴る。 (はぁ……はぁ……) 脳裏に蘇るのは、三年前の悪夢。血まみれになった家族の姿。 「……すけ! にげて!」 「おにいちゃ……たす……て!」 声にならない叫びが、耳の奥でこだまする。 「お願いだ、なんかわか――」 ドンッ! 悠介は、激しい衝動に駆られて机を叩きつけた。 「うわ……びっくりした」 高木が身をすくめる。 「あぁ、すまねぇ……デスカウントについては、また後ででいいか?」 「わ、わかった……じゃあな」 高木は困惑した表情で去っていった。 一人になった悠介は、深く息をついた。 「ッチ……くそっ……」 その瞬間、ポケットに入れていたスマートフォンが震える。通知だ。 『ピロン』 なんや? ――画面に表示されたのは、見覚えのない非通知のメールだった。 『非通知 午後8時42分』 メールの本文は空欄。ただそれだけ。 「は? わけわからん」 悠介はすぐにメールを閉じた。||||その時、再び高木が慌てて戻ってきた。 「おい千葉! 事件だ! 行くぞ!」 「あ? ああ」 二人は現場へと急行する。車の中で、高木が事件の詳細を読み上げた。 「被害者は逸見達郎。五十一歳。ニートでパチンカス。今朝、部屋で内臓だけえぐられた状態で発見。死亡推定時刻は昨日の午後8時42分だ」 「なるほど、目撃者は?」 「それが、いないから詳細は不明だ」 「そうか……」 悠介は現場に到着し、部屋の中を慎重に観察する。血痕の飛び散った壁、荒らされた形跡のない部屋。そして、遺体。 「んー……んん?」 悠介の視線が、遺体の胸に空いた穴に釘付けになった。 「ん? なんか気づいたか?」 高木が不思議そうに尋ねる。 「なぁ……達郎って、腸まで取られてんだよな?」 「ああ、そうだけど」 「おかしい。心臓があるところに穴が開いてるだろ?」 「ああ、そうだけど」 「じゃあなぜ、骨にひとつも傷つけずに、その穴から腸を取り出せる?」 高木はハッと息をのんだ。「……確かに」 「メモしとけ」 「わかった。ってもう昼か。腹減ったな。昼飯買ってくるわ。何がいい?」 「じゃあ、納豆巻きで」 「ああ、わかった。行ってくるな」 高木がコンビニに向かって歩き出した。 悠介は一人になり、再び部屋の中を調査する。その時、ふと、先ほどの非通知メールを思い出した。 『午後8時42分』 そして、高木の言葉。 『死亡推定時刻は昨日の午後8時42分』 「……繋がっている?」 ゾクリと背筋に冷たいものが走った。||||「おい。お前が千葉悠介か?」 背後から、不意に声がかけられた。 振り返ると、そこに立っていたのは、見慣れない男だった。 「……ああ。なんで私の名を?」 「ふふ……」男は不敵な笑みを浮かべる。「俺の名前は虎討増閻。周りからは虎増って言われてる。お前と戦いに来た」 「へぇ……私と?」 「ああ。お前も、[ゴッドギフト]があるんだろ?」 悠介は驚きを隠せない。「ほう、それについて知ってるのか」 「ああ、そこでだ。俺が勝ったらお前の秘密、能力について教えてくれ」 「ああ、いいだろう。ただし、私が勝ったら金輪際近づくな」 「わかった。いくぞ。3、2、1……」 虎増がカウントダウンを終えるよりも早く、悠介は一気に間合いを詰めた。 「おせぇよ」 しかし、虎増は悠介の背後にいつの間にか回っていた。 「ふっ……」 悠介は冷静に、能力を発動する。 [バック] 虎増は、一瞬で先ほど立っていた場所へと戻された。 「なに……!?」 悠介は、その隙を逃さずに虎増を殴る。 虎増は、吹き飛ばされた。 「はぁ……はぁ……」 「あれ、痛くないぞ? 吹き飛んだだけか……じゃ、とどめやな」 虎増は、凄まじい勢いで悠介に殴りかかってきた。 「はぁ……はぁ……!! …………OFF!」 悠介の言葉とともに、虎増の足に激痛が走った。 「ぐあっ!!」 しかし、虎増は歯を食いしばり、痛みに耐える。 「なっ!!」 悠介は驚いたが、間一髪でその場から消えた。虎増の拳は、悠介がいた場所の壁を打ち砕く。 「なにっ!!」 建物全体が揺れ、悲鳴が響く。||||「はっ!? 建物が揺れたぞ!?」 「後ろかぁ」 虎増が振り向くと、そこには息を切らした悠介が立っていた。 「はぁ……はぁ……」 「どうした、疲れてるねぇ」 悠介は何も答えない。虎増が再び殴りかかろうと構えた。 「なにもしないなら……先手必勝だッ!!」 「……降参だ」 悠介の言葉に、虎増の拳が顔の寸前で止まる。 「ふっ……降参の理由は?」 「虎増の拳の力は悪魔的だ。建物が揺れた。その拳で俺の顔を殴られたら、人溜まりもねぇからな。安全策を選んだんだよ」 「なるほどね」 「それに、君はいい人そうだ。私が恨んでるデスカウントの一員かと思ったんだ」 「デスカウントか。……じゃあ約束通り、秘密と能力について教えてもらおう」 悠介は静かに語り始めた。 「……能力は時間と空間を操る能力だ。時を止めたり、戻したり、飛ばしたりできる。だが、使う度に一日の体力の二十分の一を使う。そして空間を操る能力。ある空間に感情を入れて相手にも同じ感情を味会わせたりできる。さっき殴った後に痛みが来たのは、殴ったと同時に『痛くない』という感情を入れて、殴りかかったときにその空間をオフにした。だから後で痛みが来たわけ。||
||でも空間を出してから十秒は消すことができないから、そこの時間を稼いだって訳」 「……なるほどね。そして、秘密は?」 「……過去についてだ」
三年前の、忘れられない記憶。 「私は二人兄弟の家族で生まれた。家族みんな大好きだった。でも特に大好きだったのが、弟の春木だった。幸せな日々だった。幸せだった。でも、その日、人生が狂った」 帰宅した悠介を待っていたのは、縄で縛られた家族と、見知らぬ男たちだった。 「俺ら、『デスカウント』っていう組織のものだ。上の命令で、家族を殺しに来た」 抵抗しようとした悠介は、男に殴られ、血を吐いた。 「俺らを操れるんだよなぁ……そうだ。なぁ千葉家のお前ら。アンケートをとるよ。悠介を殺して、家族全員生きるか、悠介をいかして、全員死ぬか」 「おれ……を……ころ……せ!!」 「っ……俺が死ぬ」 「私も、死ぬわ……でも春木が……」 「おにいちゃああん!!」 家族は、悠介を逃がす道を選んだ。銃声が三発、響く。 「みんなああああ!!」 絶望の中、悠介は意識を失った。 意識の中で、誰かが囁く声が聞こえた。『かわいそうに……お前に贈り物をやる……』 意識を取り戻した時、彼は「ゴッドギフト」を手に入れていた。 「そうやって、ゴッドギフトを手に入れた。同時に私は復讐を誓った。そのために刑事になった」||
||「……そうか……色々聞けてよかったよ」 虎増は静かに頷いた。 その時、高木がコンビニの袋を提げて戻ってくる。 「千葉、買ってきたぞ!」 「ちょっと待ってな!!って……」 虎増は、いつの間にか姿を消していた。 「まぁ、いいか」
その日の夜、二人は帰路についた。 「今日の調査はこれで終わりだな」 「そうだなぁ……もう八時だしな」 「じゃあ帰るわ」 「おつかれぇ……」 悠介は一人、コンビニで弁当を買い、夜道を歩く。時計を見ると、八時二十分だった。
その時、遠くから高木の悲鳴が聞こえてきた。 「うわああ!!」 「……高木!?」 悠介は、声のした方向へ走り出す。 路地の奥で、フードを被った男が高木の首根っこを掴んでいた。 「来たか」 「高木を離せ!」 「じゃあ、近づけば?」 悠介は舌打ちし、男に近づく。すると、肺に激しい痛みが走った。 「んっ……ゴホッ……がはっ!!」 「ふふ」 男が不気味に笑う。 「おま……デスカウントが……!! がはっ!!」 「そうだ」 「家族を……返せ……!!」 「無力のお前に何ができる!」 「あのときとは、違うんだよ……!」 悠介は、能力で時間を飛ばし、一瞬で男に近づく。 「うおおお!!」 渾身の力を込めて殴りつける。 「なにっ、ゴッドギフト!? ぐあっ!!」 吹き飛んだ男のフードが外れ、その正体が明らかになった。 「……え?」 「バレてしまったか……」 「嘘でしょ……カルロス上官……?」 「そうだ、俺だ」 悠介は、毒ガスのせいで体中の力が抜け、その場に倒れ込んだ。 カルロス上官は、気絶した高木を軽蔑するように見下ろす。 「高木、お前は黙れ」 「そんな……カルロス上官が……デスカウント……」 「そうだ。お前もここまでだ。俺のゴッドギフトの能力は気体を操ることだ。毒ガスをお前の中に染み込ませた……」 「ッチ……んでだよ、カルロス上官……!! いい人だと思ってたのに!!」 「悪いね、さようなら、千葉」 カルロスがトドメを刺そうとしたその時、背後から声がした。 「そこまでだ。大丈夫か、千葉?」 「誰だ!?」 「ま、まさか……虎増!!」 「よぉ」 虎増が姿を現した。 「どちらにせよ、お前も同じだ。消えろ」 「それはどうかな?」 虎増は尋常ではないスピードで、カルロス上官の腹を殴った。 「ぐふぉっ!!」 「なぁ千葉」 「なん……だ……?」 「取引だ。俺がお前を助ける代わり、俺のチームに入れ」 「えぇ?」 「答えはどうなんだよ?」 「わか……った……取引……成立だ……」 「オーケーだ」 悠介は、能力を使って空間を操作し、毒ガスを普通の空気に変えた。 「虎増の攻撃のおかげで隙ができて、普通の空気にすることができたよ。ありがとな」 「いいってことよ」 カルロス上官は、血を吐きながらも笑う。 「お前らに俺は倒せない……! ははは!!」 「それはどうかな……?」 悠介は静かに、虎増に視線を送った。 「決めろ」 「ああ……」 [タイムストップ] 悠介の能力で、時間が六秒間止まる。||
||「決めるぜ!!」 彼は、今までの恨みを込めてカルロス上官の顔面を殴りつけた。 「うおおお!!」 六秒間、顔面を高速で殴り続ける。 「…………タイムアウト」 時間が動き出し、カルロス上官の体が吹き飛ぶ。 「うわああああ!!」 壁に思いっきり叩きつけられたカルロスは、血を吐きながら意識を失った。 「……まだ終わってねぇぜ……」 悠介は、倒れているカルロスにゆっくりと近づく。 「さようなら、上官」 「や、やめてくれえええ!!」 […………OFF] カルロス上官の顔がグチャリと音を立てて潰れ、肉体が灰になっていく。 「おぉ、やったな」 悠介の足元には、灰にならなかった骨が残っていた。 「……これは?」 「ああ、それはゴッドボーンだよ。吸収することで、ゴッドギフトの能力を強化できる。でもまだ、千葉は十個取り込まないといけねぇな」 「えぇ……大変だな……」 「まぁ……いっか……そしてようこそ」
「……マークスへ」
「はぁ……そろそろ私もいかないとな……」 夜空に浮かぶ雲の上で、一人の女性が呟いた。
第一話完




