ワケあり姫様の結婚 - 君を、愛することは、ない、と。
転載はお断りします。
君を、愛することは、ない、と。
私には最愛が、いるのだから、君とは、白い、結婚と、する、と。
決まり文句、出たわねぇ。
「なんだ?」
今日、結婚式を挙げて、屋敷へ戻ってすぐ、着替えを、終えたばかりの、わたくしを、夫婦の、寝室に、呼び出して、旦那様となった、クレメンツ小侯爵は、言いました、神殿で、誓いも、いたし、ましたのに、と。
はぁ。ひどい話。ま、二度目ともなるとね。
寝室に、呼ばれたので、わたくしは、初夜には、まだ時間、早いんじゃ、ないかな、などと、のんきに、思いながら、侍女に、勧められた、夜着を、着て、寝室へ、行った、のです、と。
あはは馬鹿みたい、せっかく着たのにね。すごいの。
「なにをしている?」
「エクス様、ちょと今黙っていてくださいませ」
侍女は、部屋の、外に、控えて、もらいました、ので、わたくしが、これを、書いて、います、と。
「ちょっと、それ。書くのを止めてもらえないか。ふざけているのか?」
「いいえ、まったく。ふざけてなどおりません。では重要なお話のようですから侍女を入れますわ。 ベス、入って。これ。続きの記録をお願いね」
「? 待て、記録ってなんだ? 私は君に話があるのだ。侍女は外してもらおう」
「今のもね、そ。えと、旦那様、先に確認させてくださいませ。旦那様とわたくしの婚姻は王命で決められたこと、これはよろしいでしょうか?」
「うむ。‥‥‥‥‥ そう、だな」
「おや、そのお顔。承服し難い命であったということでしょうか?」
「‥‥‥ 不穏な物言いだな。ちゃんと従っている」
「ふむ。で、先ほどのお話ですが、わたくしを愛さないとおっしゃいました」
「‥‥‥‥‥‥ 言った」
「そして、わたくしとは白い結婚とすると。そうおっしゃいましたね?」
「あぁ、言った。言ったとも。それがなんだというんだ? 私には最愛の相手がいて、彼女との生活を優先する」
「エクス様の最愛?の方がどなたかは存じませんが、あっ、だめだめ、言ってはなりません、この婚姻と無関係でなければなりません」
「何を言っている! 嫉妬か? 見苦しい。プープス男爵令嬢に恥ずべき点などない! 君のようなワケありと違ってな」
「きーこーえーな‥‥‥‥ あちゃー、言っちゃったよぉ。も書いた? あー、だめかぁ」
「書きました。確と」
「だから、さっきからなんだ?」
「‥‥‥ えっと、王命の内容なのですが」
「内容? 貴族派との融和のためという理由で、私と君が結婚せよとあっただろう」
「えぇ、一枚目はそうです、はい。‥‥‥ 二枚目、見ました?」
「?」
「ぁあああ、やっぱりぃ。ベスッ! だめぇ? あー ‥‥‥‥‥ 仕方ないかぁ」
「はい。こうなりましては」
「に、二枚目、な、なにが、書いて?」
「仲睦まじく、暮らせ、と」
「‥‥‥‥‥‥」
「それと、一か月は様子を、正確に、報告せよ、と」
「‥‥‥‥‥‥ ほうこく」
「で、侍女のベスは王宮の書記官ですので」
「さすがに閨事の詳細までは記録いたしませんので外に控えておりました」
「‥‥‥‥‥‥ こ、これは、どうなる?」
「危急の事態となりましたのでこれより王城へ報告に上がります。沙汰をお待ちください。奥様、いえ、姫様、お支度をさせていただきます、さ、こちらへ」
「はぁー。では、エクス様、明日、城でお会いすると思います。ごきげんよう? お休みなさいませ」
「‥‥‥‥‥‥ 俺はどう‥‥‥‥ なるの、かな。沙汰って言ったよな」
「若旦那様っ! 奥様が、出ていかれると仰って、あの? 若旦那様? エクス坊ちゃま?」
「さっき名前、言うなって。あれは庇って? ふ、は。あははは」
「しっかりなさってください! おいっ! 誰か別館、大旦那様に知らせを。坊ちゃまのご様子が尋常ではないと」
***
かくして不幸な結婚がまた一件、解消されたのでした。
侯爵家は咎めを受け爵位を下げ、領地の半分と鉱山の一つを王家に差し出しました。
婚儀での宣誓も蔑ろにしたことから神殿とも揉めています。
家を除籍されたエクスは件の男爵令嬢に逃げられ、独りどこかへ行ったとか。
男爵家は慰謝料の支払いで没落するため爵位を返上するとのこと。
前回に続いてこの出来事があり、社交界でワケあり姫と謗られ、侮られることが増えたのは悲しいことでしょう。
ただ、今後は書類の一枚毎に総枚数と何枚目かが記載されるようになったのは、書記官エリザベスの尽力がありましたがそれはどうでもよろしい。
二度もこの身を尊い犠牲として王家に貢献しましたが、傷心のわたくしに次のご縁はあるのでしょうか、次は普通の縁談であることを切に願っております。
「ベス、まとめの所感、これでいいかしら?」
「姫様、貢献と書いてはなりません。貴族派が警戒しているのです」
「えぇー、許してぇ」
「ことは機密ですのに自覚と反省が足りませんね、書き直し」
「‥‥‥ はぁい」
「姫様、書式を変えたのは罠の緩和です。善きご縁を探しましょうね」
「でも二枚目を見てないとか、ないわぁ。きちんと仕事のできる人でないとね」
「宰相閣下も両陛下も苦心されていらっしゃるのです」
「だって、好きな人がいる人、わざわざ探してくるんだもの」
ワケあり姫様の結婚は、まだまだ先になりそうです。
本作、これにて終幕です。
読んでいただきありがとうございました。
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