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西の院の姫君  作者: 竹宮 潤
秋祭り

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25/27

 神楽はやんやの喝采のうちに終わった。姫様がおひとり入っただけで、楽も舞も去年とは別ものであるかのようだったと、年寄りどもが言っていた。神楽が終わると、そのまま境内は酒盛りが始まった。みなそれぞれに弁当を持ってきていて、それを肴に神社の振る舞い酒に酔うのである。

 米一俵が二俵に増えたので、豊資どのはほくほく顔であった。栄資どのや手伝いの者にいいつけて、神楽舞台の真ん中に菰樽をおいて、一升徳利や湯飲みに()ぎ分けては配っていく。

「豊資、お前、見越しておったな。えらく酒の支度が多いではないか。」

「報謝の半分は今日の酒で消えてなくなるのよ、惣兵衛。ささ飲め飲め。今年もまあまあの豊作じゃ。良い祭りができたし、神様にもわしらの喜んでいるところを見せねばのう。」

 さっき大喧嘩した二人も、大殿の横で笑顔である。よろい姿のままの光時さまも秀時さまのとなりに座られた。館の女衆が作った重箱が広げられる。拙も湯飲みを持たされて、御相伴にあずかる。

「姫は、家の中か。」

と秀時さまがたずねられた。

「そうです。母上や千代と仲良くやってくれているとよいのですが。」

「しかしよくあそこまで出て来られたのう。こんなに男の声もしておるのに、ちゃんと演奏なされたではないか」

「笛のこととなると、いつもとは違う人のようになられるので。」

そして、その通りだったのである。


 神楽の曲が全て終わって、人々の喜ぶ声や手を叩く音が聞こえてきたときはとてもうれしかった。一緒に演奏してくれた皆さまがわたしのところまで上がってきて、

「ありがとうございました。よい神楽ができました。」

とお礼を言ってくださった。いいえ、わたしのほうこそ。無事にできてようございました。お礼の言葉を口に出そうとしたとたん、喉の奥がくっと絞められたようになった。手が震えてくる。

「あ、ありがとう、思いまする…。」

かすれたような声をしぼりだして、お辞儀した。卯木がすぐに気がついて助けに来てくれた。

「皆さま、姫さまは言葉にならぬほど喜んでおられまする。無事終わったことで安心なされたのでございましょう。お疲れが出ております。皆さまにはわずかですがお礼を用意しておりまする。どうぞお納めくださいませ。」

 手早く紙に包んだ銭を渡して、皆を遠ざけてくれた。

「卯木どの、姫のご様子は。」

囁くように光時さまがお聞きになる。だいじょうぶです、と返事したいのに、体がふるえて固まって、顔を上げることもできない。

「殿様、申し訳ございませぬが、八条と茜を呼んできていただけませぬか。あちらの家に居るはずでございます。」

 結局呼んできてもらった八条や茜の手を借りて、ふらふらしながら神主の家に戻った。中食を、と言われたけれど、起き上がる元気もなく、そのまま少し休ませてもらった。

 目が覚めたら、少しすっきりしていた。一刻ほど眠っていたという。卯木についてもらって中食を少し食べた。

「七日あまり、神楽の演奏のために毎日出かけておいでだったのでございますから、お疲れになって当然でございますよ。」

「でも、おなかがすいております。ご飯がおいしい。」

「食べられるなら、しっかり召し上がって元気になってくださいませ。千代さまはじめ、亀井の方々は、そろそろお帰りになられるそうでございますよ。お目通りできそうなら、ごあいさつを。」

 それではと、少し食べた後で皆さまのおられる部屋へ出ていった。

「姫さま、大丈夫なのでございますか。」

千代さまが心配してくださる。

「ご心配をおかけいたしました。」

とお姑さまの前でお辞儀をする。

「姫さま、施餓鬼会の時と言い、今日と言い、本当に良いものを聞かせていただきました。良い祭りができて皆、感謝しておりますぞ。」

「ありがとう思います。今のお言葉が一番の誉れでございまする。」

 あれ、何だか、わたし、とてもうまく話せてる。もう「笛の修練のわたし」は終わったはずなのに。

「では、わたしどもはこれで帰らせていただきまする。卯木様、姫さまのお体、お大事になさってくださいませ。」

「お気遣いありがとうございます。大殿様始め、ご家中の方々にもよしなにお伝え下さいませ。」

もう帰り支度はできていたものらしく、お二人とも立ち上がられる。ふと気がついてもう一言つけたした。

「千代さま、光時さまに今日はありがとう、奏子が礼を申しておりましたとお伝えくださいませ。」

「まあ」

千代さまと卯木がそろって声を上げて驚く。変な言い方してなかったと思ったのだけど、何かおかしなところがあったのかしら。


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