表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西の院の姫君  作者: 竹宮 潤
秋祭り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/27

お披露目

 舞台と見物人の席ができて、やれやれと休憩をしていると、もう、馬の足音がしてきた。最初に来たのは拙の親父殿だ。

「おお、ちゃんと支度できとるな。席はこっちか。」

 報謝を払えない村の人は、特別席の後ろの綱を張ってあるところより後ろから立ち見である。もうだいぶ人が入ってきているのだが、例によってその人波をかき分けてずかずかとやってきた。

「親父どの、いい席には横から入るところがあるよ。間違えないで案内してくれよ。」

「ほうか。それじゃ、お前は馬の方を頼む。そろそろ光時さまと千代どのが二人乗りで来るはずじゃ。」

「へいへい。」

 まったく人遣いが荒い。馬つなぎ柵で待っていると、昨日使いに行ってくれた坊主がやってきて、ペコッとお辞儀をした。今日はここの手伝いをするらしい。後ろに同じような年恰好の奴らが3人ついてきた。いずれも昨日飼葉用の草刈りをやってくれた奴らだ。

「お前たちも見に行きたいだろう。馬がみんなそろったら、見に行っていいからな。」

と言ったらみなもじもじしている。ひとりが

「おいらたちは、さんざん稽古を見てきたから、もういいや。」

と言った。祭りの裏方仕事を一丁前に頼まれるほうがうれしいらしい。

 そこへ、光時さまと千代どのがやってきた。馬を下りるなり千代どのから

「弥太どの、昨日はお知らせを頂きありがとうございました。大奥様にもちゃんとお伝えしましたから。」

と言われた。光時さまからは、

「で、わしの席はどこになる。」

と聞かれた。今日は折り目の通ったまだ新しい直垂(ひたたれ)を着て、腹巻よろいを着け、なんだか派手なつかの刀を差している。

「刀は父上からの借りものじゃ。どうせ抜くことはないだろうから、目立つほうがよいと言われてな。」

 なるほど、姫君を覗きに来る程度のやからを脅すだけなら、この格好で立っているだけでも十分だろう。姫さまと顔を合わせると、また湯治の時のようになって面倒くさいから、先に床几しょうぎの置いてある場所にご案内する。お茶は神主の家の女衆に声をかけて持って行ってもらった。そうしている間に、馬は次々やってくる。拙たちは俄然忙しくなった。

 そこへ笛方の子供がパタパタとかけてきて、神主の家に入った。何やら大声で呼ばって、女衆に叱られている。出てきたところで、村の坊主どもが

「小吉、気張ってやれよ。」

と声をかけていた。いよいよ始まるらしい。姫さまが、卯木さまに付き添われて、社殿の横手から席に着かれた。大奥様を先頭に、女子衆もいそいそと席に向かわれる。

「惣兵衛、惣兵衛はおるか。」

 その時、血相を変えた豊資どのが境内を大きく回って駆け込んできた。何事、とくっついて親父殿のところまでいくと、勢い込んで叫んだ。

「おまえ、二十人分といったであろう。数えてみい、ちと多いぞ。」

「ああん、一人や二人多くても座れるじゃろ。」

「おまえは勘定が仕事のくせに、こういう時は緩いのじゃな。見てみい。」

 数えてみると二十八人いた。これは誰が見ても多すぎるだろう。だいたい最初に頼むときに二十人分で足りるんだろうかと拙は内心心配していたのだ。加えて大殿の近くには誰も詰めないから、変にぎゅうぎゅう詰めのところと、すかすかに空いたところができている。

「二十人と言って五十人入れたというのでなし、このくらいはおまけしとけ、豊資。あんまり細かいことをぬかしておると、神様にあきれられるぞ。」

「たわけか。ご領主さまじゃとて人数は人数じゃ。ちゃんと報謝を貰わにゃわしは出水の衆に申し訳が立たん。」

やいのやいの大声でやりあっているものだから、天の声が降ってきた。

「惣兵衛。」

 大殿である。こちらへ顔だけ向けている。さすがの親父殿も口を閉じた。

「そうケチをつけずに、払ってやれ。今日は亀井の嫁御の姫君がお披露目の、ハレの日ぞ。つまらんことで台無しにするでない。神主殿、後払いで悪いが報謝は倍にして支払う。穏便にしてやってくれ。」

 大殿に言われたのでは、二人とも引き下がるを得ない。だがこのいざこざの隙に、実はもう一つ事件が起こっていた。

「なーんじゃ、おひめさまなんぞ、どこにも見えんじゃないかあ。」

「寅助ぇ、神楽のうらから回ってみようぜい。」

「おう、こっちから行けば、すぐじゃあ。」

 祭りのふるまい酒を先に飲んで気が大きくなったらしい村の若いのが何人か、姫さまの近くに寄ろうとしていたのだ。拙が親父殿に気を取られていたものだから、馬つなぎ柵のところにおいてきた村の坊主が一人、知らせに来てくれた。あわてて社殿の方へ行こうとしたが、人混みが多すぎて通り抜けられない。やむなく

「光時さま! 後ろ。」

と大声を上げた。光時さまは拙の声を聞き分けると、振り向いて立ち上がった。社殿の横手の、姫さまのお席に通じる小道を歩いていた奴らは、突然よろい姿の若武者が現れて、「ひぇっ」と立ち止まった。

「声を立てるな。」

光時さまは抑えた声で言うと、刀に手をかけた。

「これ以上姫に近づいたり、大声をあげたりしようものなら、わしがただではおかぬ。」

男たちは「あわわ…」と言いかけた口を自分の手でふさぐと、黙って、回れ右をして戻っていった。酔いなんぞいっぺんに覚めたことだろう。松の木の蔭から頭の上の姫君をうかがっていた不埒者たちもいたらしく、何人かの男がこそこそと立ち去るのがわかった。

「姫、騒がせて申し訳ありませぬ。」

床几に座り直して、光時さまが小声で言うと、

「いいえ、光時さま。ありがとう思います。」

りんとしたお声が返ってきた。ぱあっと、光時さまの顔に笑みが浮かぶ。

(この良き日を忘れまいぞ。父上にも母上にも姫を認めていただけたのじゃから。)

 正装した栄資どのが恭しく御幣を振り、短い祝詞をあげた。神楽の始まりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ