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第八章:もっと上手く

天使たちが放つ神聖な光は、輝く矢を生み出し、ヌノキとメニィに降り注ぐ。


メニィは、その攻撃に対し、微塵も恐れる様子を見せない。いつもの子どもっぽい笑顔は消え、その顔には死神としての冷たい集中力が宿っている。彼女は何も無い空間から、鎌を取り出した。


「おっと、と…しょうもない攻撃しないでよ、面白くない。」

メニィは軽やかに身を翻し、光の矢を紙一重で避ける。その動きは驚くほど素早く、滑らかだ。地面を蹴る音もなく、風に乗るように舞う。


「今度はこっちの番だよ!」

メニィは鎌を構える。彼女の鎌は、天使たちの放つ光の波を切り裂き、その勢いを削ぐ。鎌に触れた光は、不浄なものが浄化されるのではなく、歪んだ音を立てて散逸した。


ヌノキは天使たちの攻撃を全身に受けそうになり、力を出そうと試みた。その瞬間、体から、黒と紫が混じり合った、不穏な影のようなものが噴き出した。噴き出した不穏な影は、天使たちの攻撃と衝突する。神聖な光と混沌の力がぶつかり合い、空中で歪んだ火花を散らす。


「…っ!待って、駄目…!」

ヌノキは、自らから溢れ出した力の奔流に、苦痛と驚きを見せる。天使たちは、ヌノキから放たれた力の異様さに目を見開く。


「この力…一体…!?」

天使の一体が驚愕の声を上げる。他の天使たちも、目の前の少女が、単なる人間の子供ではない事に、ようやく気付いたようだった。


メニィは、ヌノキから噴き出した力の凄まじさを感じ取り、ニヤリと笑う。


「やっぱりコイツは使えるな、でもこれは…おっと!」

メニィは、ヌノキの異常に気づいた。だが悠長に話を続ける程の余裕はなく、ヌノキの力の波に乗りながら、鎌で天使たちの攻撃を捌く。だが命を奪おうという姿勢までは見せない。


ヌノキは、自身の内から溢れ出す力を抑えようと必死だ。その力は、自分のものにしているというより、暴走している。彼女の意思とは関係なく放たれる力は、無作為に周囲を破壊する。影は形を成して、大きな手のようになり、地面を抉り、天使の一人を掴んだ。それは、町を滅ぼした時と同じ力だった。


「…違う…そうじゃないの…!お願い…!」

ヌノキは悲鳴にも聞こえる声を上げる。しかし、その力の放出が、天使たちの攻撃を防いでいることも、彼女は理解している。


ヌノキの傍らにいたレークスは、戦いの渦中にありながら、奇妙な静けさを保っていた。天使たちの放つ、攻撃的な光。メニィの冷徹な動き。そしてヌノキから噴き出す、破壊と苦痛が混じり合った混沌の力。これら全てが、彼女にとっては非現実的な光景だった。恐れは、やはり湧かなかった。ただ、目の前で起こっている事を、レークスは静かに観察していた。


天使たちは、対峙している相手が予想以上に手強いことを悟り、連携を強化する。影に掴まれた仲間を救出し、声を荒げる。


「やはり貴様らは存在してはいけない!消え去れ!」

天使たちの声が、空に響き渡る。彼らの放つ光が、収束された一本の槍となる。


メニィは、その強力な一撃を前に、表情を引き締める。


「ちょっとやばいかもねぇ…ヌノキ、もっと派手にやってもいいよ!」

メニィはそう言いながら、ヌノキの方を見た。


ヌノキは、メニィの声に、本能的に反応した。形を成した影は、鈎爪を持つ無数の手のようになり、天使たちの光の槍と真正面から衝突した。ヌノキの力は、爆音と衝撃波と共に霧散した。


爆煙が晴れると、天使たちの姿はなかった。一時撤退したのか、存在を抹消されたのか、定かではない。だが彼らは、ヌノキとメニィの危険性を、身をもって理解しただろう。


そして、ヌノキは、その場に膝をついていた。全身から力が抜け落ちたようにぐったりとしている。内なる力の過剰な使用は、彼女の肉体と精神に大きな負担をかけていた。彼女の周りには、彼女が解放した力によってできた、新たな破壊の跡が広がっている。


メニィは、ヌノキの傍に歩み寄る。


「…あんなに意気込んでたのに、結局制御できてないじゃん。ま、勝てたからいっか!」

メニィは楽観的にそう言った。だがヌノキの内側にある途方もない力は、メニィの想像を遥かに越えていた。これは利用できる。そう、メニィは確信した。


ヌノキは顔を上げる。その瞳は濁っていた。


「…ごめんなさい…思った通りにできなかった…。」

ヌノキは、力なく謝罪する。


レークスは、二人の元へ静かに近づいていく。

戦いは終わった。この戦いが、ヌノキの力の途方もなさを証明したのだと、傍観者として理解した。


メニィの手を借りて立ち上がったヌノキは、息を整えて言った。


「次は上手く、使ってみせるわ。」


その言葉を聞いたメニィは、一言呟いた。


「期待してるよ。」


そうしてまた歩き始めた。レークスはヌノキを気にかけながらも、静かにその後を追う。ヌノキは一呼吸置いてから駆け出し、レークスを追い越した。メニィの横に並ぶヌノキは、再びボロカと会話を始めた。


三人の旅は、まだ、始まったばかりだ。

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