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第六章:記憶の欠片

町の外に出ると、風景は変わらず、単調な荒廃が続いていた。枯れ果てた大地、ひび割れた地面、鉛色の空。吹き抜ける風は冷たく、生命の匂いはどこにもない。世界の悲鳴のような静寂だけが、彼らを包む。


メニィは先頭を歩いた。その足取りは軽く、迷いがない。彼女は時折、周囲の気配を探るように視線を動かすが、その顔に恐れの色はない。死神として、世界のどんな淀みや危険にも対応できる自信があるかのようだ。


ヌノキはその少し後ろを歩く。彼女は故郷を出て、外の世界を歩くのが久しぶりなのだろう。周囲の荒廃した風景を、どこか興味があるように見渡している。内に宿るボロカとの対話は続いているようで、時折、独り言のように何かを呟いている。


レークスは、二人のさらに後ろをついていく。彼女は、この旅の目的が自分の願いとどう繋がるのか、まだ完全には理解できていない。ただ、メニィとヌノキという、目的を持つ存在と共に、この終わりのないような荒廃の中を進んでいく。そのことが、彼女にとっては、自分が前に進んでいることのように感じられた。世界に取り残された亡霊としてではなく、何か意味のある旅の一部として存在していること。


三人の間に、共通の話題は少ない。それ故に沈黙が続くが、メニィがヌノキの“一人会話”を面白がって、話しかける事があった。ヌノキは、今ボロカが何を言っているのかなどは教えなかった。まるで、存在を独り占めできる事に幸福を感じているように。


そんな旅は、レークスに考える時間を与えた。少ないが会話のある旅は、メニィとの二人旅よりずっと賑やかで、自然と傍観者の立場になっていたレークスに刺激を与えた。


少し歩いた頃、レークスに、微かな過去の記憶の断片が蘇り始めた。

大切な記憶を拾い集めるように、訥々(とつとつ)と呟く。


「…空…色…?どうして…今は暗いの?」


レークスが、鉛色の空を見上げて言った。かつて見た、青い空の色を求めて。

メニィは、レークスの呟きを聞いて、フッと鼻で笑う。


「空色?あ〜… 今の世界の空に、そんなものないよ。」

彼女の反応は、レークスの素朴な認識への、死神らしい冷徹さだ。


ヌノキは、レークスの呟きを聞いて、僅かに首を傾げる。そして納得したように言った。


「小さい頃は確かに、そんな色をしていた気がするわ。もう覚えていないけれど。」


それは、世界の悲惨さとは対照的な、奇妙な始まりだった。


「…人…今はいない…。」

「…何も無い…あったのに…。」


度々レークスが呟く言葉は、失った世界の彩りを取り戻したいような、そんな願いが含まれていた。だが、不鮮明な言葉は、ただレークスの頭の中を通り過ぎるだけで、空虚感だけが残る。終焉を目指す二人は、果てなき荒廃の上を、ただ進んでいくだけだった。


レークスだけが、どこか取り残されているような、そんな気持ちを抱いていた。

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