86.二つ名(閑話)
今回は閑話です。
「ルクスには二つ名はある?」
「…………」
私は今、オデット様に、白階位の人間がどれ程珍しいのか、という話をしていた。
その過程で、他の白階位の人間には二つ名があるということを知ったオデット様は、私にも無邪気にそう尋ねてきた。
思わず、言葉に詰まってしまった私の表情を見て、ジュネが意味ありげな含み笑いを浮かべる。
これはどう返事をしたものか。
そう悩んでいると、先にジュネが口を開いた。
「ルクス様は、詠唱の魔術師と呼ばれています」
「…………」
「詠唱の魔術師…………?」
私にそれは本当なのか、と問うような視線を向けてくるオデット様に、私は気恥ずかしい気持ちのまま、頷いた。
私の気恥ずかしい思いを笑うジュネとは違って、オデット様は大真面目な表情で頷いた。
「確かに、ルクスは詠唱の魔術師だ」
「ぶっ」
「…………ジュネ」
オデット様の言葉にジュネは耐え切れないというように吹き出して笑った。そんなジュネをオデット様は不思議そうに見ている。
「だって、詠唱分離と詠唱詩だから、だよね?」
「えぇ、まぁ、そうですね…………ジュネ?」
まだ笑いが収まらないのか、肩を震わせているジュネを、語気を強めて呼ぶと、ジュネは誤魔化すように咳払いをした。その咳払いにはまだ笑いが混じっているが。
「等級外魔術の名前も二つ名も、私が決めたわけではないのですよ」
一応、言い訳をしておくと、オデット様は、それはそうだろうと頷いてくれた。
「二つ名は世界中の魔術師協会の協会長同士の会議によって決められます。また、協会長同士で正式に決められる前から、巷で呼ばれている名前があれば、それがそのまま採用されることもあります」
「ふーん」
そう。二つ名や等級外魔術の名前は意外ときっちりと決められるのだ。
「そして、世界中の協会長同士の会議によって、各階位の色の名を冠する魔術師が決定されます」
「色の名を冠する魔術師?」
「はい。白はいませんが、黄の魔術師、緑の魔術師、青の魔術師、紫の魔術師、赤の魔術師、茶の魔術師、黒の魔術師がいます」
「茶や黒にも魔術師がいる?」
オデット様は驚いた様子で、私にそう尋ねた。私はそれに頷いて、答える。
「現在の茶の魔術師、黒の魔術師は、魔術相反の魔術師です。人間に魔術相反が現れた珍しい例です。まぁ、白階位の人間よりは珍しくないのですが」
「人間にも、魔術相反が現れる…………」
「はい。黒の魔術師は白階位程ではありませんが、相当の魔力量があると言われています」
「ルクスと比べるとどのくらい?」
「そうですね。魔力量は私よりは少ないですね。しかし実戦では、状況次第で負けることもあり得ると思います」
私が負ける可能性があると口にしたことが、余程衝撃的だったようだ。
オデット様は見事に固まってしまった。直ぐに復帰したオデット様は、更に質問を続けた。
「黄の魔術師は誰?」
「現在の黄の魔術師は中央大陸の老齢の男性です。私と同じ階位で、魔力量も同じくらいですね」
「ふーん。ルクスは黄の魔術師にならない?」
「どうでしょうね。世界中の黄階位の魔術師の中から選ばれますから、可能性が全くない訳ではありませんが」
「そう」
私が曖昧にそう微笑むと、オデット様は少し気落ちして、頷いた。
「俺は、次代の黄の魔術師はルクス様だと思っていますよ」
「そうなの?」
と、そこで、漸く笑いが落ち着いたのか、ジュネが会話に入って来た。
ジュネの言葉にオデット様は目を輝かせる。
「はい。魔力量も技術も人格も問題なし。若くして等級外魔術を二つもお持ちのルクス様です。かなり近いところに居ると思いますよ」
「人格?」
「魔術師には時折、人として大きな問題を抱えている者がいるのですよ。戦闘狂いだったり、実験狂いだったり」
「ルクスは?」
「ルクス様はまだまだ常識的な人ですよ。協会にはそのような魔術師を管理する役割もあります」
「へぇー」
オデット様、ルクスは?というのはどういう意味でしょうか。
私が常識的でないと思う部分でもあるのでしょうか。
そして、ジュネ。まだまだ常識的な人ですよ、とは本当にどういう意味で言っているのでしょうかね。
私に常識的でない部分でもあるかのような。そんな、まさかね?
詠唱の魔術師。
サタロナ王国で名の通ったその魔術師は、将来、黄の魔術師として世界に名を馳せることになる。
しかし、彼の魔術師としての道は、まだ始まったばかりだ。
次話は閑話となります。
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