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85.希少さと覚悟



ルクスの魔力量や階位についての説明は更に続いた。


「そして、魔力量は血統とは関係無く、変化します。しかし、通常は母体の許容量以下の魔力を持つ子どもが生まれます。そのため、一部の国や貴族の間では、母親の魔術階位の高さが求められることがあります。その方が、階位の高い子どもが生まれる可能性が高い、と。今では古い因習に囚われた考えですが。実際に統計上では、許容量以上の子どもを身籠る例は、30%近くあるそうです。まぁ、そこまで許容量と子どもの魔力量が乖離していなければ、命に別状はありません」

「ルクス…………」


ルクスは話をしていて、段々と表情を曇らせた。


それはルクス自身が、これまでに何度も調べて、探し求めていたことでもあるのだろう。



自分が母親を殺してしまったのか、と。



結果はルクスの所為ではあるが、ルクスだけの所為ではない、といったところだろうか。

ルクスは自分で、生まれてくる階位を選べなかったのだし、そのことでルクスを責めるのはおかしいと思う。


けれど、ルクスの両親が悪いわけでも、他に誰かが悪いわけでもないのだ。


ルクスにそう言えたらいいのだが、ルクスはこれまでに何度も自分を責めて来たのではないだろうか。

それに自分の階位のことで傷付いた経験も、少なからずあるだろう。


そんなルクスに、私が安易に、ルクスの所為ではない、とは言えない。




「えぇっと、子どもを宿すには、相手との階位を考えなければなりません。しかし、この話はオデット様には、まだ早いので、いつかお話ししましょう」

「う、うん」


どうやら、違ったようだ。


苦笑しながら、話を逸らそうとするルクスは、唯々気まずい表情をしていた。



うん、ルクスの中で整理できているのであれば、良かった。



そんな話をしたところで、昼食の時間になった。私たちは移動して、食事を取った。その後は、ルクスの研究室に向かう。


昨日と同様にジュネたちと分かれて、実験室に入った。


「それでは、今回は傷薬を作成してみましょう。傷薬にも、下級、中級、上級と種類があります。手順や考え方は魔力回復薬と似ています。材料が違う感じですね」

「分かった」

「傷薬では、下級で軽傷、中級で中等度、上級で重傷の怪我を治すことができます。これは主に外傷に使用します。継続する病気、慢性的な肩こり、頭痛、耳鳴り、というようなものに対しては、一時的に症状を改善するような効果しかありません。原因が解決したわけではないので、直ぐに元の状態に戻ってしまうのです。また症状も完全に良くなるわけではないので、病気や慢性的な症状に対しては、医師が治療にあたります」

「傷薬は普通に出回っているの?」

「そうですね。回復魔術を魔術師に行使してもらうよりは、安い価格で手に入ります」

「回復魔術って高いの?」

「実は回復魔術を使用できる者は、それほど多くないのです。そのため、必然的に回復魔術にかかる費用は高くなってしまいます」

「多くないの?魔術が使えるのに?」

「はい。回復魔術の行使には医学的な知識も必要になりますから、切り傷程度を治せる魔術師は多いのですが、それ以上となると、少なくなります」

「そうなんだ」

「はい。魔力量がそれなりにあって、回復魔術が使える者、となると、村に一人、町に三、四人といった程度ですね。このマギシアには一般的に高階位と呼ばれる人たちが多く集まっていますから、珍しいものではありません。ですが、余所の村や町では珍しいそうですよ」

「じゃあ、傷薬も高いの?」

「下級の物が一家に一本、中級が村に一本、上級が町に一本、という程度でしょうか。あ、これはマギシアではない、一般的な領地での話です」


うーん。それは結構、高い気がする。


「もしかして、魔力回復薬も?」

「そちらはより高価になります。下級が村に一本、中級が町に一本、上級が大きな街に一本、という程度です。まぁ魔力回復薬が必要になる場面が、普通の村では少ないのでしょう」


おぉう。もしかして、結構貴重な物を昨日、普通に作成してしまったのではないだろうか。


まぁ魔術師は個人的に作って、所有しているのだろうけれど、領民のために備蓄されているのはその程度、ということだろう。


「じゃあ、原材料も高いの?」

「いえ、そちらは比較的簡単に入手できます。森や草原でも採取できますし、栽培されていますから。回復薬に加工せずに、すり潰したり、絞り汁にしたりして、それを傷口に塗るという、民間療法、というか、一般的な応急処置の方法があります。私も試してみたことがあるのですが、確かに僅かながら、回復効果がありました」

「へー」


そうか。それなら、そちらの方がお金がかからなくて良いのかもしれないな。




そこから私は、机に並べられた材料の解説を聞いて、効果や色を紙に書き留めた。


その後は実際に傷薬を作成した。手順は似たような感じで、使う魔術も同じだったので、無詠唱でささっと上級まで作成して、覚えた。


そして、早々に今日の授業内容を終えてしまったので、私は応接室に移動して、魔術講義を少ししてもらった。



魔術階位とその大体の人数、協会に所属している魔術師の数といった話をしてもらった。


魔力回復薬や傷薬、回復魔術が珍しいということを知ってから、どれだけ高階位の人間が珍しいのかが気になったのだ。


結果、私はかなり珍しい存在だということが分かった。大陸に一人、という程度だ。


中央大陸には白の聖女と呼ばれるヴィロイ階位の女性が、東大陸には白銀騎士と呼ばれるウィテハ・シヴァレ階位の男性がいるそうだ。


「オデット様には、どのような二つ名がつくのでしょうね」

「二つ名はいらないかな。何か恥ずかしいし」


そうして、充実した一日が終わった。




その日は、この場所に来て初めて、カルメに起こされる、ということを経験した朝だった。


いつもよりも早い時間に、カルメに揺すり起こされた私は、寝起きのぼんやりとした思考のままで、顔を洗い、髪に櫛を通して、カルメが用意してくれた青緑色のドレスとローブに着替えた。


ディグセを発動させて、鏡で確認し、部屋を出て、食堂に向かう。

そんないつも通りの道のりは、いつもより人が少なく感じた。



まぁ、こんなに朝早い時間だからなぁ。



食堂に入る時、ちょうど窓から、朝日が射し始めていた。



食堂に入ると、ルクスやジュネたちが既に来ていて、少し驚いた。



皆、早起きなんだな。もしかして、今日はそんなに急いで行かないと間に合わないのだろうか。

昨日は全然、そんなことは一言も言っていなかったのに?



一先ず、おはようと挨拶を交わして、席に着く。ウィテハの朝食を食べて、私はいつも通りにルクスとジュネに解説を求める。


だが、二人の雰囲気はどこか固い。


しかし、それも最初だけだった。徐々に普通の空気になってきて、私たちはこれまで通りに食事を終えた。



さて、食後のお茶だな。と談話室に移動して、ゆっくりとしている私とは反対に、ジュネとルクスは何かしらの書類を見ながら、話し合っている。


「子爵の奏上の写しでは、オデット様の階位については書かれていませんね」

「恐らく、直接、陛下に申し上げたのでしょう」

「となると、馬鹿正直に白、とだけ報告されている可能性がありますね」

「完全なる白だと断定されていないのであれば、まだやりようはあるかと」

「あちらの要求は、私にオデット様を差し出させることでしょうから、何とかそれを躱せれば良いのですが」

「あちらの発言次第ですね」

「そうですね」


うん。どうやら、今日の謁見について話し合っているようだ。


私は最悪を想定して、ある程度の覚悟はしているのだが、ルクスたちは心配事が尽きないらしい。


私はむしろ、覚悟を決めたことで吹っ切れたというか、割り切ったというか、心が穏やかになったのだが、やはり心配と不安はどれだけでも湧いて来るものなのだろう。


「ルクス。今日のいつ、出発するの?」

「食後のお茶を終えて、暫くしたら出発します」

「いつ頃、終わる?」

「…………正確な予想はできません。もし、オデット様が王国側に引き取られることになれば」

「ルクス、大丈夫。任せて」

「オデット様?何か、秘策をお持ちなのですか?」

「ううん。ぶつかってみるだけ。いざという時は容赦しない」

「そう、ですか…………?」

「うん。困ったら、任せて」

「…………分かりました。その時は宜しくお願いいたします」


ルクスはどうなるのかと、不安そうな顔をしているけれど、私は多分、大丈夫だろうな、と思っていた。それが何かの予感なのか、私の願望なのかは分からないけれど。



食後のお茶を終えて、私はルクスから簡単に、王城の説明を受けていた。


転移の間は王城の入り口近くの建物にあって、そこで身体検査と荷物検査を受けてから、馬車に乗って、王城まで行くらしい。


後は案内役の人に付いて行って、応接室か執務室、大事になっていれば、広間や謁見の間に連れて行かれる。そこで陛下とご対面、というわけだ。


ディグセを着けているということ自体は、身体検査の時に申告しないといけないらしいが、着けたままでいいようだ。


後は王城の幾つかの部屋には、解術の魔術陣が刻まれた部屋があるので、そういう部屋に通された時には、自動的にディグセは解除される。それまでは発動したままでいい。


そういった部屋でなければ、ディグセを解除するように言われるから、その時に解除すればいい。


「帰る時には、またディグセを発動させていい?」

「はい。陛下にお目見えした部屋を退出する時に、発動させて良いですよ。もしくは陛下からそのようなお声がけがあれば、発動して大丈夫です」

「分かった」


一通りの説明を聞き終えたところで、出発の時間になった。



ルクスは私に視線を合わせるように、膝をついて、肩に手を置いた。



「オデット様。何かあれば、協会長としてでも、レデブ公爵家の者としてでも、ただのルクスとしてでも、どのような形でも、お助けいたします。ですから、どうか、諦めないでください」



ルクスは既に悲し気な表情をしていた。



私がその意味をよく理解できないのは、未熟で、経験が少なくて、知識が足りていないからなのだろう。


私は何となく、大丈夫だろうと、思ってしまっている。


けれど、私よりも色々なことを見通せて、色々なことを考えられて、色々なことを知っているルクスたちは、大丈夫だとは思わないらしい。



ならば、私は大丈夫だと言えるように、行動しよう。


無知で馬鹿で、浅はかに、そのままに、私は自分とルクスたちを守ろう。


無謀で短慮で、蛮勇に思えるかもしれない。


けれど、それでも、それで攻撃が通るのであれば、私はそうしよう。


今の私にはそのようなやり方しかできないのだから。


だから、私は大丈夫だという成果を得るための行動をしよう。


あぁ大丈夫だったね、と言って、一緒にここに戻れる努力をしよう。



「ありがとう、ルクス。私もルクスのこと、助けるよ」

「ふふふ、ありがとうございます」


私が真面目に頷いて答えると、ルクスは何故か、笑みを零した。


それはとても嬉しそうな笑みで、同時に悲しそうな笑みでもあった。



うん、やっぱりルクスはもっと、誰かに大切にされる、ということを学んだ方がいいと思うな。


だって、今の私たちは、お互いに守りたいと思いながらも、自分のことは後回しにしようとしているのだから。



次話は閑話となります。

また閑話が二話、続きます。


活動報告を投稿しました。

内容はちょっとした、今月の振り返りと、来月の予告です。

宜しければ、ご覧ください。

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