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82.材料と計量



私がルクスの説明に理解して頷いていると、ルクスは話を戻した。


「回復薬の材料のうちの二つは、下級、中級、上級の三種類、つまり六個しかありませんから、覚えやすいと思います。というか、実質二種類です」

「ん?」

「一つ目は魔力を回復させる効果を持つ、レダ・シキィ、という薬草です」


ルクスは棚から赤色の草を取り出した。乾燥させてあるのか、全体的に萎びて、干からびている。


「中級はこちらのベル・シキィ。上級はこちらのヨーレ・シキィです。これらは全てシキィという種類の薬草です。周囲の生物の魔力を取り込んで、それを自分のものにする性質が強く、それを利用して魔力回復の効果を持たせています」


ルクスは棚から更に、青色の薬草と、黄色の薬草を取り出して並べた。


なるほど。シキィという薬草を、下級、中級、上級といった回復薬の階位に合わせて、使い分ければいいんだな。


「シキィはこの三色だけ?」

「はい。寧ろ、このシキィの階位に合わせて、魔力回復薬が出来たとも言えます」


そうなのか。確かに、魔力回復効果を持つとなれば、シキィの価値は高そうだ。


「他の植物でも、周囲の生物の魔力を取り込むの?」

「いえ、一般的な植物であれば、空気中、地中、雨、日光などに含まれる魔力を取り込んで、生命維持をします。ですが、このシキィは周囲の植物、動物の死骸、そういったものからも、魔力を取り込みます。勿論、必要量しか取り込まないので、周辺の生態系を乱すほどの力はありません。シキィの色の違いは、階位、魔力許容量の違いです。そして、その違いが、魔力回復薬にした時の、回復量の違いにもなります」

「へぇ」


それでは例えば、ヨーレ・シキィが群生していたら、その土地の生き物は少なくなってしまわないのだろうか。


流石にそのようなことはなさそうだけれど。


植物だから、動物のように自分で移動できるわけではない。周囲の生き物を全て死なせてしまえば、結局自分も死ぬことになる。


だから、自分も周囲も生きていけるような、ちょうど良い量を取り込んでいるのだろう。



「二つ目は中和剤です。これも下級は茶色、中級は紫色、上級は緑色になります」

「中和剤は何?」

「下級の物であれば、動物の血液から必要な成分を取り出して、作られたものです。上級は植物からですね。中級はどちらか、もしくは混合されたものです」

「血?」

「はい。血液中に、取り込んだ魔力を自分の物に変換する成分があります。これはロメルスと言います。この成分は植物にも含まれていて、それだけを取り出して、粉末状にしたものが中和剤です。中和剤を入れることで、一時的に急増する取り込む魔力の、変換の手助けをします」

「手助け、なんだね」

「はい。人間も空気や食べ物から魔力を取り込み、それを変換するロメルスが血液中にあります。魔力回復薬では、一時的に大量の魔力を取り込むことになるので、元々あるロメルスだけでは、その変換が追い付きません。ですので、中和剤でその手助けをします」

「同じ成分なの?」

「はい。ですので、人間に使用する回復薬であっても、動物や植物から精製した中和剤を使用しても問題ありません」

「回復薬以外の魔力回復はどうなってるの?」

「活動しない時、つまり寝ている時や休憩している時には、回復量が増えます。これは活動量が減り、消費魔力よりも、回復する魔力の方が多くなることで、回復しているということです。魔力回復はこれが全てではありません。魔力の源となるものが身体にあって、そこから常に魔力が流れ出てきていると考えられています。この魔力の源については、原理が解明できていないので、神の御業とされています」

「へぇ」


血液から作ると聞くと、少し怖く思ってしまうのだが、機能としては必要なものだと分かる。


そして、魔力の源、か。また神という言葉が登場したが、本当に仕組みが分からないことを神の御業と呼んでいるのだな。


魔力の源についても、術式と同様に、神の領域の話なのだろう。


「つまるところ、魔力回復薬の材料は、取り込む魔力が入った物。その魔力量に合わせた種類と量のシキィと中和剤、ということになります」

「わかった」

「そして、魔力回復薬の調合法がこちらです。これは調合魔術の魔術書に書かれている、一般的なレシピです」


おぉ。配合が分かりやすく書かれた紙が出てきた。


この通りに材料を選んで、量を計算して、計量して、調合すれば、回復薬ができるんだな。


期待を抱きながら、ルクスに渡された紙を読むと、意外と難しいことが書かれていた。




まず、取り込む魔力が入った魔石などの物。


次に、その物の体積の二倍の、完全なる透明な水。これは魔力が含まれていない水、ということらしい。


そして、魔石の魔力量に対して、0.5倍の重さの中和剤。これは魔力量10000分の5を0.1グラムで計算するようだ。


最後に同じく、魔石の魔力量に対して、0.25倍の重さのシキィ。


これらを融合の魔術を掛けながら、混ぜ合わせる。そうして、魔力回復薬の完成だ。




「これは一般的なレシピですが、研究者によっては、シキィの産地や含有魔力量、中和剤の原料などにこだわって、独自の配合を考案している人もいます」

「えぇ」

「ふふふ。それでは、この魔石に合わせて、魔力回復薬の調合をしてみましょう。まずは調合魔術を掛ける前までの、計量からですね」


そう言って、ルクスは茶色の魔石を取り出した。私はそれをちらりと見て、手元の紙に視線を戻す。


えっと、先に魔力量と体積を量っておかないといけないんだよね。


「魔力量は何で量る?」

「こちらの1刻みで10000まで量れる放出魔力計測器で量りましょう」

「うん」


私は茶色い魔石を、黒い石板の上に乗せた。目盛りは4505。それを紙に書き留める。次は……


「体積はどう量る?」

「これは幾つかの方法に分けられます。魔力が漏れ出しやすい物か、そうでない物か、で二通り。液体に浸しても良い物か、そうでない物か、で二通り。合計で四通りですね。他にも、単純な形であれば、大きさを測って算出する、というやり方もあります」

「ふーん」

「魔力が漏れ出しやすい物の場合は、魔力が漏れ出さないように、魔力で満たした水や砂を用います。逆に、そうではない物には、魔力を含まない水や砂を用います」

「魔力で、満たした?」

「はい。魔石のように魔力を込めて、定着させた物のことです。魔力を含まない物は、空の魔石を作る時と同じ要領で作れます。どちらも時間経過によって、魔力量は減ったり、蓄積されたりするので、手入れが必要になります」

「どうやって、魔力が漏れ出しやすいかを見分けるの?」

「魔石に少しだけ、魔力を入れてみてください。感触を確かめたら、直ぐに回収してくださいね。その時に、反発があれば、魔力が漏れ出す心配はありませんが、するりと入っていくようであれば、漏れ出しやすいです」


その解説を聞いて、私は目の前の茶色の魔石に少しだけ、魔力を入れてみる。


ちょろっと入れただけなのだが、何の抵抗もなく、吸い込まれるように、魔力が入った。


私は慌てて、魔力を回収して、ルクスを見上げる。


「これは漏れ出しやすい」

「はい。ですので、今回は魔力で満たした砂か水を使います。今回は石ですから、濡れてしまっても問題ないので、魔力で満たした水を使います」

「うん」


ルクスは棚から、白みのある黄色の液体が入った透明な瓶を取り出した。


「魔力で満たした水にも階位があります。これは私の階位、プレ・ヨーレの物です。オデット様もご自分の階位の物を作れるでしょう」

「自分の階位の物を作るの?」

「これは私の趣味のようなものですね。一般に出回っている最上級の物でも、階位は黄緑か、黄色くらいですから。これは私が自分用に作ったものです」

「私も作ってみたい」


私がそう告げると、ルクスは名案だ、というように、目を輝かせて、頷いた。


私は少しやってみたいな、というだけの思いだったのだが、ルクスにとってはかなり嬉しいことのようだ。


弾んだ足取りで、席を立って棚に向かうルクスを見て、まぁ楽しそうだからいいか、と諦めのような納得をする。


ルクスは別の棚から、黄緑色のカップに入った、透明な水と砂を用意してくれた。


「こちらに魔力を入れるだけ入れて下さい」

「うん」


私は目の前の砂と水に魔力を込める。量としては800を過ぎたあたりから、入り難くなってきて、900を超える直前くらいで、全く入らなくなってしまった。


「ルクス。900くらいしか入っていないけれど、白色?」

「はい。水や砂にも許容量がありますからね。白色とは素晴らしいです。それでは定着させましょう」

「うん。えっと、マギカパーレ・セタリス」


私が魔力を定着させたことで、魔力で満たされた水と砂が出来上がった。


それを見て、私はそう言えば、これってどうすれば良いのだろう、と思ってしまった。


管理?保管?とか、よくわからないし、書斎に置いておくのも何だか違う気がするし。


「これはルクスが持ってて」

「良いのですか!?」


丸投げする形でルクスに託すと、彼は目を輝かせた。


「うん。私には管理できないから」

「分かりました。それでは、こちらは私が管理させて頂きます」

「うん」


私は水と砂をルクスに渡して、魔力回復薬の調合に思考を戻した。


えっと、魔力を満たした水で、体積を量る、だったよね。


「ルクス。体積を量る」

「え?あぁ、はい。そうでしたね」


私が作った魔力で満たした砂と水を、恍惚とした表情で眺めているルクスに、私は躊躇いなく声を掛けた。

恐らく後で、好きなだけ眺めるのだろうから、今は授業をして欲しい。


それにまだ、眺めるだけなら良いのだ。流石に、頬擦りとかされたら、少し引いてしまう。



ルクスは魔力で満たされた水が入った瓶を渡してくれた。


私はそれを秤の上に乗せる。最初の値は198グラム。


そして魔石を入れると、306グラムになった。ということは、魔石が108グラムだ。


水は1グラムが1立方センチメートルだから、魔石の体積は108立方センチメートル。


私は体積を紙に書き留めておいた。




えぇと、材料の完全なる透明な水は、魔石の体積の二倍だから、216グラム。


中和剤は、魔力量4505を魔力量10000分の5に対して、0.1グラムで計算して、90.1グラムの0.5倍の量だから、45.05グラム。


シキィはその半分だから、22.525グラム、だね。


私はそこまで計算してから、数字を書いた紙を見ながら、ルクスに話しかける。



「ルクス。45.05グラムの中和剤が必要」

「はい。この場合は45グラムで問題ありません」

「いいの?」

「はい。0.5グラム以内の誤差でしたら、出来上がりに影響はありません」

「シキィも22.525グラムじゃなくて、22.5グラムで大丈夫ってこと?」

「はい。そうです。秤も0.1グラム刻みですから」

「分かった」



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