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80.擬態とこれから



消費魔力量は大丈夫だろうか、と考えている間にも、ルクスは魔術の説明を始めた。


「転移魔術は思い浮かべた場所に移動する魔術です。転移先は具体的に想像する必要があり、実際に行ったことがある場所でなければなりません。また転移先に変化があった場合でも、その場所の位置が変化していなければ転移できます。つまり、同じ景色であっても、移動中の馬車には転移できませんし、違う店構えの市場であっても、同じ位置であれば転移できます」

「移動中の馬車に行くために転移魔術を使っても、発動しない?」

「いえ、発動はします。しかし、行ったことのある位置に転移しますので、そこには馬車がなく、唯々、道の上に転移してしまうことになります」

「ふーん。じゃあ、行きたいお店があって、そこに転移しても、お店が移転してたら、移転先じゃなくて、移転前の場所に転移してしまう?」

「はい。それと、転移魔術はどこでも使用できますが、転移先は指定された区域内にしか、行ってはいけません」

「指定された区域内?」

「はい。基本的には街の外であれば、どこでも大丈夫です。街の中ですと、転移の間として役所に登録した場所ですね。それと国境域である最果ての森、リーゲ山脈、これらの場所への転移は禁じられています」

「えぇと、国境域以外の街の外と、街中の転移の間には、転移していい?」

「はい。その通りです」


転移魔術はどこにでも行けるからこそ、色々と制限があるようだ。



「そして、転移魔術の消費魔力量の計算についてですが、転移魔術は移動距離ではなく、移動するものの魔力量によって変化します」

「魔力量、魔術階位でもなく?」

「はい。魔力量が多い物ほど、移動させるために多くの魔力を込めなければなりません。重い物を移動させる時に、より大きな力が、労力が必要になるのと同じ感じです」

「なるほど」

「転移魔術の消費魔力量についての詳細は、追々、魔術書をお渡ししますが、簡単にご説明しておきますと、自分より魔力量が多いものや、魔術階位が高いものを運ぶ際には、上のものから少量の魔力を徴収します。人の場合は転移の許可を求め、それを了承すると簡易的な契約が結ばれ、移動の対価として徴収されます。物の場合は自動的に奪います。ですので、その場で一番魔力量が多い、もしくは魔術階位が高い人が転移魔術を使用した方が、手間や負担を考えると効率が良いです」

「ふーん」

「それでは、まずはお一人で、この訓練場の端まで転移してみてください。その後に、私と一緒に転移してみましょう」

「うん」


私はまず、ここからでも見える、訓練場の端に転移してみた。

これは行ったことのある場所、とは違うと思うのだが、見えているのでそういう話でもないのだろう。


本当に思った通りの場所に移動している。

そこから、略式詠唱、無詠唱でも発動できることを確かめて、今度はルクスを連れて転移をしてみる。


自分より階位や魔力量が下のものであれば、許可なく転移しても良いようだ。



その理由をルクスに聞くと、別に上のものでも許可なく転移はできるらしい。


そもそも物であれば許可なんて取れないし。


けれどそれでは、動く意思がないものを強引に動かすほどの力が必要になってしまうということらしい。


相手の同意なく転移をする際には、許可のある時に上から徴収するのと逆で、強引に移動させる負荷が、発動者にかかるらしい。


それは自分より下のものを移動させる時にもかかるらしいが、その負荷量が魔力量や階位によって違うそうで、どちらにしても許可はあった方が良いということだった。



あと、普通に許可なく誰かを転移させると、誘拐になるので、そう言った意味でも良くない、と。


魔力的な貸し借りがない方が良い関係性であれば、個別に転移するのだとか。


「それでは最後に、お待ちかねの擬態魔術です」

「うん」

「擬態魔術については最初にご説明した通りですが、一つ注意点を挙げるとすれば、ディグセのように容姿を変化させるだけでなく、魔力量にも制限をかけるということに注意してください」

「魔力量はどのくらい?」

「赤階位で5000以上、青階位で7000以上、白階位で10000以上です。色の階位と魔力量については、また改めて詳しくお教えいたします」

「分かった」


擬態魔術。


初日に使えるようになりたいと願った目標が目の前にやってきたことに、少し緊張してしまう。


だが、これまでに色々な魔術を身に付けたことで、その目標が遥か遠い、手の届かないものではないと、今の私は知っている。



私はこれまでと同じ要領で、詠唱を唱えた。


魔術が発動した感覚がして、髪の毛は今日の服よりも少し暗い青色になっている。


ルクスの方を見ると、頷いてくれたので、瞳の色も同じようになっているのだろう。



そしてこれが、魔力量7000くらいの感覚か。

確かにいつもよりも物足りない、というか、何かを失ったような感覚がある。

まるで背が低くなったように、世界の色が精彩を欠いている。



何だか、もっと上を見上げることができるのに、そうできないように押さえつけられているような感覚に、少し不安というか苛立ちを覚えてしまう。


取り敢えず、擬態魔術を略式詠唱、無詠唱とできるようにしていった。覚えた後は直ぐに解除して、ディグセを発動させた。



うん、やっぱり、擬態は一時だけで良いかな。魔力量と色を変化させられることも確認したが、やはり不安を感じてしまう。



これを目標に頑張ってきたのだが、何だか意外と使えない、というより、進んでやりたくないな、という魔術だった。


どうしても擬態でなければならない時以外は、ディグセで良いだろう。


という結論に至ったところで、当初の目標は達成されてしまった。


その過程でかなりの魔術を覚えることになったのだが、常識でもあると思うので、身に付けて良かったと思う。


「ルクス。擬態できるようになった」

「はい、おめでとうございます、オデット様」

「うん」

「…………あまり嬉しそうではありませんね?」

「いや、えっと、その…………擬態魔術、というか、擬態したまま過ごすのが、ちょっと苦手、かも」

「あぁ、それは正常な感覚ですので、あまりお気になさらないでください。本来の魔術階位、魔力量ではないので、違和感、喪失感、圧迫感といったものを感じることは、研究で判明しています。確か、東大陸では、身の丈に合わない、と言うそうですよ」

「うん…………うん、確かに、身の丈に合わない感じ」


何だ、良かった。この変な感じは、私だけのものではなかったのか。


少しほっとして、私はルクスを見上げた。


「その、これからも、色々と教えてほしい」

「はい。勿論です」


嬉しそうに笑みを浮かべて返事をしてくれたルクスを見て、私も嬉しくなる。



これからも。


そう言った私の言葉に、幸せそうに笑ったルクスに、安堵と嬉しさを抱いた。


当然のように、その未来を受け入れてくれたことに安堵した。


そして、それでもその未来がどれほど得難いものなのかを分かっていて、それを享受してくれたことに嬉しさを感じたのだ。




ほぼ全ての魔術を身に付けたところで、今日の午後の授業は終了した。


ジュネやカルメたちと合流して、ブラカの夕食を頂き、いつも通りに自室の寝台で眠りについた。




翌朝も至ってこれまで通りに、朝食を終えて、カルメと小会議室に入った。



昨日で当初の目標であった擬態魔術を身に付けるということは達成したのだが、その後の、魔術師として独り立ちするとか、誰かに師事してお世話になるとか、王国や神殿に引っ越すとかは、今は考えていない。



私は相変わらず、ここでお世話になるつもりだ。


難民として協会に保護されているので、基本的には自由に過ごせるし、擬態魔術を身に付けた今となっては、本当にどこにでも行けるのだが、ルクスの傍に居たいと思っているし、まだまだ常識が不足しているので、暫くはこのままの生活を続けるだろう。




カルメが持って来てくれた本、今日の一冊目は『概略 魔術史』。本の題名を見て、私は首を傾げた。


「カルメが魔術史?」


魔術に関係することと言えば、第一人者というか、説明したがりというか、適任が隣の部屋に居ると思うのだが、彼の許可は得られたのだろうか。


いや、彼が勧めたのかもしれないが、いやでも、彼がこんな好機を逃すだろうか。


私が色々と疑問を浮かべていると、カルメは分かっているというように頷いた。


「はい。ルクス様よりご許可を頂いております。基本的な事項については、こちらの本でも問題ないでしょう。できれば私がお話ししたいのですが、私が知る魔術の全てを、一からお伝えするには時間が足りず、不甲斐ないです。と仰っておりました」

「全て…………」


ルクスの求めるレベルが、いや理想像が、かなり遠くにあるのだとはっきりしてしまったな。本当に初歩から最先端まで教える気なのだろうか。


この本は、どうやら、これで先に勉強しておいてほしいということらしい。

後で質問に答えてくれたり、解説をしてくれたりするということなのだろう。


ということは、これまでのカルメが担当していた魔術以外の勉強はなくなるのだろうか。


「えっと、魔術以外の勉強は?」

「そちらは、私にお教え出来ることは一通り、終了しております」

「え?」


カルメの答えに私は唖然とする。



え、もう終わったの?二週間弱で?



私が不思議そうにしていると、カルメは補足してくれた。


「ルクス様の蔵書は魔術に関係するものが多く、オデット様にお教えするための一般的な学問書が少ないのです。オデット様にご興味がございましたら、その分野に関する書物を、協会の図書室から探しますが、なければ新たに取り寄せて、購入するしかありません」


なるほど。実にルクスらしい理由だった。


まぁ、公爵家に居た時には、そういう学問書があったのだろうけれど、自分で持っておくほどではない、ということかもしれないな。


しかし、そうなると、後は自分で気になることを調べて知っていくという形になるのか。



うーん、気になること、気になること………………



やばい、魔術に関係することしか思い浮かばない。

私、ルクスにかなり影響されているのだろうか。


だって、肝心の魔術階位のこととか、調合魔術とか、魔力回復薬とか、教えてもらっていないことが沢山ある。


それなら、当面は、魔術の基本的な知識を、ルクスの蔵書から学ぶっていうのは、私の望みにも合っているな。


うん、納得。


「分かった。魔術の勉強する」

「はい」



お読み頂いている皆様、いつも、ありがとうございます。

先日、2026年3月16日(月)に、この作品が累計4,000pvを達成しました。

誠にありがとうございます。

活動報告と、番外編を投稿しましたので、宜しければご覧ください。

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