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78.召喚状と対策


翌朝。いつものように身支度と朝食を終えた私は、小会議室でカルメとお勉強を始めた。



今日の一冊目の本は『外国事情』。


以前カルメに軽く教えてもらった他の大陸の国についても書かれている。


国名、首都の名前、誰が一番偉いのか、どんな言語を使っているのか、有名なものは何か、サタロナ王国とはどういう関係なのか。


そんなことが簡単に分かりやすく書かれていた。


私はふーん、なるほど、と内心で頷きながら、重要な部分を紙に書き留めて、本を読み終えた。



二冊目は『詳述外国事情 中央大陸篇』。


先程と同じ著者の本だが、一冊目よりも詳しく書かれている。詳述という題名の通りだ。


内容は中央大陸の国についてだけだが、先程の本よりも少し分厚い。一冊目で得た知識があるので、すらすらと読めている。



三冊目は『詳述外国事情 東大陸篇』。


うん、そうだろうと思ったよ。こちらも同じようにすらすらと読み、重要な部分だけを書き留めていった。




読み終わったところで、休憩の時間になった。私はカルメに本を返して、紙とペンを片付ける。


ルクスの執務室に戻ると、ジュネとルクスは一緒に何かの書類を読んでいるところだった。



私は邪魔にならないように、静かに応接用の机まで向かい、長椅子に座った。


カルメが用意してくれたお茶とお菓子を頂いて、一息吐いていると、ジュネとルクスがこちらにやってきた。


二人も仕事が一区切りついたのだろうかと、ちらりと窺うと、二人は一様に暗い表情をしていた。


「ルクス、ジュネ?」

「オデット様………………」


心配になって声を掛けると、二人ははっとしてこちらを見て、そしてまた落ち込んだような表情になる。


どうしたのだろうか、と首を傾げていると、ルクスが躊躇いながら口を開いた。


「実は、先程、王城から使者の方がいらっしゃいまして…………その、私とオデット様への、召喚状を、渡されたのです」

「召喚状、誰から?」

「…………国王陛下からです」


おぉー。国王陛下、ってこの国で一番偉い人だよね?何故、そんな人が私を呼び出しているのだろうか。


「何で?」

「恐らく、ラヘテ子爵の報告を受けて、その真偽を確かめるためでしょう」

「真偽?」


真偽も何も、ラヘテ子爵はその目で見ているのだ。

それとも、ラヘテ子爵の言葉だけでは信じられない、ということなのか?


「ラヘテ子爵の報告内容は推測するしかありませんが、白階位の人間の召喚に成功した、というだけでも、大変なことです。名目は事件の聞き取りとなっていますが、実際にはオデット様を陛下に差し出すようにと言われるでしょう」

「ルクスに言うの?」

「我々はオデット様の同意の上で保護していますが、他者から見れば一方的に、もしくは協会に都合が良いように吹き込んで取り込んだという考えもあるでしょう」


そうなのか。まぁ事情を知らない人から見れば、そうなのかもしれない。

それにラヘテ子爵とかいう人も、陛下に私を献上するとか何とか言っていたし。


それにルクスが王国や神殿にとって不利、いや協会にとって有利な説明をしたというのは事実だ。

まぁ、王国や神殿での待遇について、ルクスが言った内容も事実なのだけれど。


説明や事実がどうであれ、私はこのままここに居たいということには変わりない。


ただ、絶対的に身分が上である国王陛下に、私を差し出すようにと、ルクスに告げる、ということについては何か対策をしなければならない。


断れない相手からの一方的な通告であれば、ルクスにはどうこうすることもできないだろう。


ならば、そうされないようにするか、そうされた上での対処を考えなければならない。



「ルクスは国王陛下に私を差し出す?」



前提を確認するために問いかけると、ルクスたちは驚いて身を揺らした。


そんなに驚くことを聞いただろうか、と思って直ぐに、自分の聞き方が悪かったことに気が付いた。



これではまるで、私がルクスを大切に思っていないみたいではないか。



どうしようとわたわたしていると、ルクスは何かを決意した表情で私をひたりと見つめた。


その瞳の澄明さに、私は息を呑む。


「協会長の立場としては、そうしなければならないのは、承知していますが…………私は、オデット様に、このままここに居て欲しいです」


ルクスにしては珍しく、はっきりと思いを示した直接的な言葉に、私は嬉しさで頬が赤くなってしまう。


しかし、ルクスの言葉とは裏腹な、思い詰めたような表情から、同情のような悲しみや辛さも伝わって来る。恐らく、自分に重ねているのだろう。



ルクスが私を国王陛下に差し出せば、昔の自分が歩まなかった、いや逃げ出した道を、私が歩むことになる。

こうして、国王陛下から狙われ、利用されようとしている状況にも、自分と重なる部分があるのだろう。


しかも、それを自分が成してしまうことになる、と。




全く、ルクスにこんな顔をさせるなんて。


それだけで私の中での国王陛下への評価はかなり下がった。

まぁ、これは私の不躾な質問の所為でもあるのだけれど。



一番の目的は私を手中に収めることだ。そして、協会長であるルクスに差し出させる形を取ることで、ルクスをも支配下に置こうとしているのかもしれない。


国王陛下は私を人質に、ルクスに何かしらの要求をするかもしれないし、私もルクスを人質に恭順を求められるかもしれない。



どちらにしても、そんなことは許せない。

そんな嫌な気分になる話をされるのであれば、行きたくない。

だが、こうして召喚状を受け取ってしまった時点で、お断りすることもできないし。



ルクスの立場としては、私を差し出した、と言えるところまでしなければならない。


であれば、私が一度、国王陛下側に行った上で帰って来る、というのはどうだろうか。



うーん、でも、簡単には帰してくれないだろうなぁ。自衛もままならない今の私では、敵地からの帰還は難しいだろう。


それでは、ルクスが差し出し、国王陛下が受け取る、その前に私がお断りすれば良いのか?


「ルクス。取り敢えず、召喚には応じる?」

「そう、ですね」

「で、ルクスは私を差し出す」

「え、いえ、それは…………」

「で、私が国王陛下の側に行くことを拒む」

「それでは、オデット様に矛先が…………」

「それとも、本人の要請を受けて保護している、って言う?それだとルクスが」

「いえ、私のことはお気になさらず。オデット様の方が優先されるべきです」

「それは嫌だ。やっぱり私がお断りするよ」

「いえ、オデット様を犠牲にはできません」

「犠牲にはならないよ。私は大丈夫…………多分」

「多分?」


ルクスが目を細めて、私を射抜くように見つめる。そんなルクスを宥めるように私は慌てて手を振った。


「えぇと、困ったら助けてほしいけど、それまでは見ててほしい」

「…………分かりました。ですが、その時は私も容赦いたしませんよ?」

「うーん。そうならないように頑張る…………いや、ルクス。一緒に頑張ろう」


私が言い換えると、ルクスは驚きに目を瞠ってから、ふわりと嬉しそうに微笑んだ。


「はい。頑張りましょう」

「うん。それで、いつ、どこに行くの?」

「三日後、12月13日の午前中に、王城へ向かいます」

「三日後、王城に?」


王城って、隣の領地の王都の中心にあるんだよね?

今から出発しても間に合うのかな?

それとも、近くまで転移できるのか?


そう首を傾げていると、ルクスは問題ないと説明してくれた。


「王城にはいくつか転移の間がありまして、その内の一つに使用許可が下りています」

「ふーん、じゃあ、その日に出発?」

「はい」


何だ。それなら、当日まではゆっくりしていられるな。


一先ずやるべきことがないと分かった私は、思考を切り替えた。


「ルクス、今日のお仕事は終わった?」

「いえ、もう少し残っていますね」

「それなら、あの魔術書を読みたい」

「はい、え?し、しまった。召喚状の所為で仕事が進んでいませんでした。今日は、私の、授業日、なのに、仕事が、終わって、いない…………」


悄然としてぶつぶつと呟きながら項垂れているルクスを、私はじっと見つめた。


私の視線に気付いたルクスは、棚までとぼとぼと歩いて、本を取りに行く。


「…………オデット様、どうぞ」

「うん。ルクス、お仕事頑張って」

「はい。午後までには必ず」


ルクスはキリッとした表情で、そう告げると、早速仕事に取り掛かった。


私はそれを見送ってから、応接用の長椅子に座ったまま、魔術書を開く。前回の続きだ。



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