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76.回復と応用



私が問題なく、魔術を行使できているのを見て、ルクスは次の魔術を教えてくれた。


「回復魔術は中級、上級、特級でも、詠唱は同じくヘラニゴになります。これが少々ややこしいところなのですが、回復魔術において、難易度の区別は魔術行使の難易度ではなく、結果を実現する難易度によって分けられています。例えば、軽い切り傷を治せたことを以て、それは下級の回復魔術であったと判断するのです」

「じゃあ、目に見えない部分を治癒した場合には、どの程度の回復魔術を使用したのかは自己申告になる?」

「はい。そして、どこにどれほどの回復魔術をかける必要があるのかを知るために、医師がいます。ただ闇雲に回復魔術を使用しただけでは、完治しないことも多いですし、無駄な魔力消費が多くなります」

「なるほど」


更にルクスが説明してくれたことによると、王国には治癒師、医師、薬師という主に三つの職業の人が、治療に携わるらしい。



治癒師は回復魔術を専門とする魔術師。

医師は病気や怪我の診断をする人。

薬師は薬を調合する人。



大抵の治癒師は、医師や薬師の資格も持っていて、兼任のことが多いようだ。


というのも、医師の資格があれば、診断してそのまま回復魔術を使えるし、薬師の資格を持っていれば、薬を調合して、回復魔術でもそれを補える。



そして不思議なことに、医師や薬師になるには資格が必要なのに、治癒師には資格が必要ないそうだ。


理由は、魔術師であれば回復魔術が使えるから。治癒師の資格を設けても、無資格の治癒師が増えるだけだそうだ。



ただ、国によっては治癒師の資格が設けられているそうで、資格の有無にも厳しいところがあるのだとか。


再び話が逸れてしまったが、私は回復魔術をきちんと無詠唱で行使できていることをルクスに確認してもらった。


「はい。それでは、その他の回復系の魔術についてお教えいたします」

「うん」


ルクスはさらりと軽く、沢山の回復系の魔術を教えてくれた。


色々な状態異常を引き起こす魔術と、それに対応する状態異常の回復の魔術。

傾眠には覚醒と浄化、麻痺には浄化というように。


それを聞いた私は、大抵の状態異常や毒には、取り敢えず浄化すれば良いのでは?と思ってしまった。


しかし、状態異常とはそんな単純なことではないらしい。詳しくは医学や薬学を学んでから、ということになった。


うん、やはり魔術は奥が深いな。


「次は基礎魔術の応用です。水は状態を変化させることで、氷や水蒸気になります。火はご存知の通り、高温の火や高魔力の火になります。土は材質を変化させることで、特定の鉱物や岩を生成できます。風は使い方次第ですが、生み出した風を空気として、自由に操作できます。この空気操作は慣れてくると、浮遊や飛行をすることができるようになります」

「浮いて、飛ぶ?」

「はい。足元に空気の壁を作って足場にしたり、強力な風で飛んだり、ですね」

「…………ふーん?」


その話を聞いて思ったのは、今の私でも似たようなことができるのではないか、ということだった。


私は早速、目の前に障壁を出現させて、触ったり叩いたりしてみる。


うん、硬いな。魔力で出来ている壁だが、触れるし、物を防げる。


「障壁や結界は魔力でできている?」

「はい。魔力からできているのは間違いないのですが、どのようにして固体化しているのかは解明できていません」

「まぁ、術式は神の領域、だからね」

「はい。それで、何か気付かれましたか?」

「うん」


私は障壁の強度を上げて、階段の上の面のように並べた。そして、それを上る。


「うん、できた」


私が障壁の上に立っているのを見て、ルクスは目を見開いている。


「ルクス?」

「素晴らしいです、オデット様!」

「ルクスも乗ってみる?」

「いえ、自分で作ります!」


ルクスはいそいそと障壁を作り、階段状に並べた。


そして忙しなく上ったり下りたりして、どのくらいの強度が必要なのか、階段の高さは、反射の障壁ではどうなるのか、など色々なことを調べている。


「ルクス、どうかな?」

「はい。これは素晴らしいですね。風の魔術によって浮遊したり飛行したりするのは、それなりに難易度の高い技術なのですが、これは障壁をある程度の強度にまで上げられる者であれば、簡単に習得できます」


どうやら、障壁はいかに強力な攻撃を効率よく防げるか、という方向にしか、考えられていないようで、障壁を使って何かをする、ということはこれまでになかったらしい。


一通り考え尽くしたところで漸く落ち着いたルクスは、達成感に満ちた息を吐いて、私に満面の笑みを向けて来る。


どうやら、何か期待されているらしいのだが、そんな簡単に色々なことを思い付く訳ない。どうにもできないので、私は話を戻すことにした。


「基礎魔術の応用」

「あ、はい。そうでしたね。えー、それでは、それぞれの詠唱は後で覚えて頂くとして、まず水の温度を変えられますか?」


ルクスに言われて、私は何となくで出した水を凍らせる。


これだけで良いのか、とルクスに視線を向けると、彼は微笑んで頷いた。


そこから私は更に、氷水、水、お湯、水蒸気と変化させていった。


何と言うことはない、水をぎゅっと押し固めたら氷になっていたし、水を小さく細かく分けて広げたら水蒸気になっていたのだ。


一通りの変化をさせたところで、更に火、土、風の応用も習得する。


土の応用である鉱物の生成については、私が鉱物の種類をほとんど知らなかったことであまり練習できなかったが、これは追々、図鑑でも読んで覚えよう。


風の応用は、風の球を生成して、それを動かすことがほとんどだった。風の強弱を付けたり、流れや温度を操作したりする。


うん、風の形を掴むのには少々時間がかかったが、問題なく操作できるようになった。


そこで再び、思い付いた私は、両手を水の魔術で濡らして、温かい風を当てる。


「乾いた」

「はい。ただの水であれば、他の方法もありますよ」

「他にも?」

「はい。こちらの方が難易度が高いのですが、濡れた水の部分だけを認識して、それらを消失させるのです。ただし、適切な量の水分を残しておかないと、乾燥してしまいます」

「うーん、こう?」

「はい、できていますよ」


これで水を零してしまったり、物を濡らしてしまったりしても、直ぐに乾かせるのだな。


まぁ、まだ一人で魔術を使用してはいけないのだけれど。


「そして、水蒸気を細かく広げると、このように霧になります」


もわりと霧を広げたルクスは、ぱっとそれを消した。


簡単そうにしているのだが、実際には難しいと思う。


水蒸気の操作は風の操作と似たような感じで、感覚を掴むのに少し時間がかかる。

それを自在に操っているのだから、ルクスはやはり凄い。


そんなことを考えながらも、ルクスに視線を向けられた私は、同じように霧を発生させて、それを操作し、消失させる。


うーん、やはり広範囲で細かい操作が必要になるので、難しく感じてしまうな。


「更に、土と水を合わせると泥、特定の鉱石と水で、その鉱石との混合液ができます。風と水で嵐、風と土で砂嵐もできます」

「へー」

「この嵐は、水の嵐や風の嵐とは別物で、術式もそうですが、難易度や威力も異なります。更に、天候操作魔術というものがありまして、そちらの嵐とも異なります。水球から水の槍を作るのと、最初から水の槍を作るというような違いですね。風と水で嵐を生成できますが、天候操作の嵐の魔術によって、同じものが最初から生成できます」

「天候操作の魔術…………?」

「はい。そちらはまた後日お教えいたしますね」

「分かった」


なるほど。組み合わせて、更に色々なことができるんだな。


一先ずはそのように納得しておく。そこでふと思いついた。


「ルクス。風の魔術を使えば、調合道具がなくても、魔力回復薬を作れる?」

「はい、その通りです。風で器を生成し、そこに魔力を注ぎながら、材料を入れて、融合させればできます。この場合、器の維持、攪拌、融合を同時にこなさなければなりません。そして、融合の際には余計な魔力が入らないように注意しなければなりません。ですので、緊急時なら兎も角、平時ではやりませんね」

「出来るんだね。じゃあ、それもできるようになりたい」

「ふふふ。分かりました。それでは調合に慣れてから、そちらもお教えいたしましょう」

「うん」


いつだって調合道具を持っている訳ではないからね。できるようになっておいて損はないだろう。



それにルクスができるのなら、私もできるようになっておきたい。


そう思ったのだ。何故、そう思ったのかは分からないが。



よく分からない思いに内心で首を傾げたが、直ぐにそんな疑問はどこかに行ってしまった。


目の前の魔術の練習に集中していたからだ。慣れるには時間がかかったが、他の魔術と遜色ないレベルで発動できるようになった。


練習を終えた私たちは、ウィテハの夕食を頂いた。ほうっと落ち着けるような優しい味の夕食だった。


そうして一息つくと、何だか疲れが一気に押し寄せて来た。


先程までは意識していなかったが、今日は沢山の魔術を使ったし、魔力操作も頑張ったのだ。


私は食後のお茶を早めに切り上げて、部屋に戻った。



先にお風呂と歯磨きを済ませてから、日記と覚書を書いた。


それも、うとうととしながら、ぎりぎりで書き終えた感じだ。


カルメからの視線を感じて、はっと目が覚め、書き物をして、またうとうとする、ということを繰り返して、何とか書き終えた私は、自力で寝台に横になり、ぱたりと眠ってしまった。



次話は閑話となります。

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