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75.反射と無効化


「オデット様。素晴らしい歌声でしたよ」

「私には良し悪しが分からない」

「オデット様の歌声は透き通っていて、お心の清らかさが表れています」

「ルクス?」


何故に突然、褒め出したのだろう。


首を傾げている私に構わず、ルクスは話を続けた。


「オデット様は魔術の才だけではなく、音楽の才もお持ちとは、素晴らしいです。ところで、昨日の魔術の続きにご興味はございませんか?」


あぁ、何だ、そういうことか。


私はルクスの話の行先に溜息を吐いてしまった。


何と言うか、魔術好きなところは全くぶれない。流石だね。


「興味はある。今日の午後に教えて」

「はい。今日の午後に、え?いえ、その、これから、宜しければお教えいたしますよ?」

「今日の午前の前半は、カルメの授業。順番だし」

「いえ、その、昨日は私がお教え出来なかったので…………」

「それはルクスの仕事が終わらなかったから仕方ない。また明日」

「オデット様ー!」


私がはっきりと告げると、ルクスは悔しそうに私の名を呼んだ。


そんな顔をされても困るのだけれど。


「ルクス。今日の午後の授業、楽しみにしてる」

「は、はい!必ずや、ご期待に応えて見せます!」


うーん。今日の午後が犠牲になったけれど、まぁいいか。ルクスに大人しくしてもらうためだし。


ジュネとカルメたちには感心したような目で見られているが、逆に二人は今までどうしていたのだろう。まぁ、その感じだとあまり参考にならなさそうだけれど。




休憩を終えた後は、再びカルメの授業だ。一昨日の礼儀作法の続きのようだ。


お茶とお菓子が用意され、その飲み方、食べ方、それから食事の礼儀作法。


なるほど。一番立場が上の人が頂きますと音頭を取るんだな。確かに、いつもルクスが言っていたけれど、理由があったのか。


それに身分や階位が上の人に跪づく時の姿勢、礼の種類と使い分け。

これもよく分かっていなかった。礼なんて全部同じだと思っていたし。


それらの説明と実践を終えて、カルメからの合格が貰えたところで、午前の授業は終了した。



私はブラカの昼食で元気を補給することになった。


礼儀作法の授業は何と言うか、気力のようなものをごっそり持って行かれる感覚があるんだよね。


ルクスは午後からの魔術の授業が楽しみなようで、いつもよりも早く食べ終えていた。本人は無意識のようだった。




食後のお茶も早々に切り上げた私たちは、第三屋内訓練場に来ていた。


「それでは、魔術の授業を始めます」

「うん」

「昨日お読み頂いた詠唱魔術総覧。この中の調合魔術は、改めて調合をお教えする時にその都度、お教えいたしますね」

「調合魔術?」

「下級ですと、融解、融合といったものですね。調合や工学で使用するので、そのような俗称があります」

「なるほど」

「基礎魔術の中級、上級の詠唱は追々覚えていってください。オデット様は詠唱をせずとも出来ていますので、覚える程度で良いでしょう」


魔術には下級とか中級以外にも、調合魔術とか基礎魔術とかいう分類があるんだな。


「それでは本日は、基礎魔術の応用、回復魔術、結界魔術、このくらいでしょうか」

「多くない?」

「大丈夫ですよ。必ずこなさなければならないものではありませんから。それでは結界魔術から」

「うん」

「障壁は覚えていらっしゃると思います。障壁を全方向に張り巡らせたものが結界となります。その形は立方体、球体などがあります。これは使い分けですね。結局は障壁を変化させたものなので、変化のさせ方は自由にできます。詠唱も同じバレリエですし」

「へー」


それなら簡単かもしれない。あとは強度や形が問題なのか。


「結界は障壁が元になっていますから、応用が利きます。一つ、例を挙げるとすれば、これでしょう」


そう言ってルクスは身体を覆う大きさの球体の結界を発動させた。


「オデット様、軽く火球を当ててみてください」

「うん」


見た目からでは違いが分からず、首を傾げているとルクスから許可が出た。


私はそれに頷いて、火球をぽーんと放った。


すると、火球がぶつかった結界は、ぽよんと弾ませて、それを受け流した。


どうやっているのだろうと目を輝かせると、ルクスは何てこともないような態度で説明してくれた。


「これは小さな障壁を組み合わせて球体にしたものなのです。障壁の強度は普通なのですが、繋ぎ目を緩くすることで、衝撃を受け流します」


なるほど。ただの球体に見えるのだが、小さな障壁が集まってできているのか。

それに衝撃を受け流すというのも面白い。

それならば、魔力量依存の強度上げをしなくとも、攻撃を防げる。


「それ、消費魔力量と術式操作が大変になる?」

「そうですね。ですが、魔力量に余裕がないのであれば、技術で補うのも一つの手ですよ」


そうなのか。魔力を多めにして強度を上げた結界よりも、この結界の方が、強力な攻撃も防げると。

うん、消費魔力を節約して、効率良く強力な攻撃を防ぐためには、それが良いのだろう。


そう納得した私は早速、ルクスの真似をして、受け流す結界を作ってみる。


ルクスに火球を撃ってもらい、強度を確かめたのだが、確かにこれくらいの難易度でより強い結界なのであれば、十分に便利だろう。



「次に、結界魔術の上級と言えば、反射になります」

「反射?」

「オデット様、火球を軽く当ててみてください」

「うん」


私から少し距離を取ったルクスは正面に障壁を展開した。それを見て、私は言われた通りに軽く火球を放つ。


すると、それはキンと硬質な音を立てて、火球を文字通りに反射した。


こちらに跳ね返って来た火球を、慌てて消失させて、私はほっと息を吐く。


これも面白いな。


「ルクス、これ、遊べる?」

「遊ぶ、ですか?」


私はルクスに思い付いたことを説明する。それを聞いたルクスは、楽しそうな笑みを浮かべて頷いてくれた。


「確かに、それは面白そうですね。反射の魔術の練習にもなりそうです。もし当たってしまっても怪我をしないように、水球にしてやってみましょうか」

「うん」


私たちは少し離れてから、向かい合った。



ルクスが水球を浮かべたのを見て、私も反射の障壁を浮かべる。


私の用意が出来たのを見て、ルクスは早速水球を打って来た。それを私は反射させて打ち返す。


水球は一度も地面に落ちることなく、私とルクスの間を行き来する。



水球の打ち合いに少し慣れて来たところで、私は更に水球をもう一つ浮かべた。それを見て、ルクスも反射の障壁を増やす。


そうして段々と球の数が増えていき、それに合わせて障壁も増えて行った。いくつもの水球と反射の障壁を操作して、私たちは打ち合いを続けた。



球を目で追って、そこに障壁を動かして。そろそろ疲れて来たのだが、数個の球を相手に打ち返すことで精一杯で、球を止める余裕がない。


どうしようか、と不安に思い始めたところで、先に私の集中が切れてしまった。障壁の移動が間に合わず、水球が後方で地面に落ちてしまったのだ。


それを皮切りに、ルクスも水球を地面に落とした。そうして私たちは障壁を消して、大きく溜息を吐いた。


少し乱れていた呼吸を整えてから、私はルクスに駆け寄った。


「ルクス、楽しかった」

「はい、私も楽しかったです。まさか、反射の障壁でこのように遊べるとは。これは良い練習になりますね。またやりましょう」

「うん」


ルクスと感想を交わしながら、私たちは一度休憩を挟むことにした。


動いていないとはいえ、魔力操作が大変だったので、意外と疲れを感じている。

遊んでいる間はあまり疲れを感じていなかったのに、止めた途端にどっと疲労が押し寄せて来たのだ。



訓練場にある休憩室で、お茶とお菓子を頂く。


ジュネとカルメからは呆然としているような、物言いたげな雰囲気を感じているのだが、ルクスが全く気にしていない様子なので、いいのかなと私も気にしないことにした。




休憩の後は、再び魔術の授業だ。


「反射の障壁でかなり遊んでしまいましたが、後半も何か思いついたら、遠慮なく仰って下さい」

「うん」

「それでは、結界魔術の続きです。これまでの障壁や結界は物や魔力を防ぐものでしたが、その種類を変えることによって、有用性が高まります」

「種類?」

「はい。一つは遮音、もう一つは遮像、これらを組み合わせて隔離、更に発展させて隠蔽と隠密があります。」

「遮音と遮像は覚えた」

「その二つの効果を持つ空間を作り出すのが、隔離の魔術です」

「どちらも。同時に発動させる?」

「いえ、一つの魔術です。隔離の詠唱はシーロ。カネラで解除となります」


私はまず、ルクスに教えてもらった詠唱を唱えて、隔離の魔術の術式の感覚を掴む。


これまでと同じように、略式詠唱、無詠唱とこなしたところで、ルクスは問題ないというように頷いた。


「隠蔽は隔離魔術を特定の物にかけた時、隠密は自分や人物にかけた時の魔術を指します。どれも魔術の残滓がありますから、そこから見破ることができます」


そう説明したルクスは、右手を私に見せてから、隠密の魔術をかけた。

透明というか、何も見えなくなった右手を見て、私は首を傾げる。


これを全身にかけたら、どこにでも入り放題ではないだろうか。


ルクスに確認すると、彼は苦笑して首を横に振った。


「侵入されて困るような場所には大抵、魔術を無効化させる陣が刻まれています」

「魔術の無効化?」


何と、そんな陣、いや魔術があるのか。


もし実戦でそれを使われてしまえば、魔術師としては致命的な状況になってしまうのではないだろうか。


私が不安そうにしているのが、ルクスにも伝わったらしい。ルクスはそうではないと説明してくれた。


「魔術の無効化をする陣、とは、解除と消失の両方が陣に組み込まれたものです。この二つはオデット様も簡単に行使できるようになりましたよね?」

「うん。でも、他人の魔術を無効化することとは違うと思う」

「はい。他人の魔術を解除、消失させることはできない、いえ非常に難しいとされています。理由は他人が発動させた魔術は、発動させた当人にしか、魔術の程度が把握できないからです。込められた魔力量や、どれだけ正確に術式を操作したのか、ということは本人にしか分かりません。ですので、どれほど正確に魔術残滓を読み取ることが出来たとしても、完璧に無効化することは難しいのです」

「ふーん」

「そして、魔術を無効化する陣ですが、これは魔術を発動させた人が、その陣に触れると、漏れ出た魔力を利用して、無効化する術式が発動する、というものになります。この時に対象となる魔術は体外で発動しているものに限りますので、体内魔術は無効化されません」

「回復魔術や身体強化は?」

「それらは自分自身に使用する場合には無効化されませんが、他人に使用する場合には発動しません。ですので、そのような場では回復薬を用意しておくことが推奨されています」

「回復薬は体外から摂取するのに?」

「はい。その効果は体内で発揮されますから、体外魔術には分類されません」

「へー」

「それでは、隠蔽はコセラ、隠密はセテラです。発動させてみてください」

「うん」


少し寄り道をしてしまったが、私はルクスに教えられた詠唱を唱えて、隠蔽と隠密の魔術を習得した。



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