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70.基礎と消失


私はそこから、何度も水球を生成したり、消失させたりした。


どんな大きさのものでも無詠唱で生み出せることも確認しながら、練習を重ねた結果、術式を操作する感覚にも慣れてきて、すっと出したい位置に、出したい大きさの水球を出せるようになっていた。


範囲は自分が魔力を操作できるところまでしかできないが、その範囲内であればどこでもできる。



「はい。このくらいの発動速度であれば、問題ないでしょう。それでは次は、火球を生成する詠唱をお教えいたしますね」

「うん」

「我は世界に求める。この魔力を糧に生み出せ。フィーレ・バレ、です。さぁ、どうぞ」

「我は世界に求める。この魔力を糧に生み出せ。フィーレ・バレ」


私はルクスの真似をして、同じように火の球を生み出した。


「これも同じ詠唱、エテーレで消すことができます。火球の術式の感覚は分かりましたか?」

「うん、多分」

「それでは、略式詠唱、無詠唱でやってみましょう」


私は無詠唱で火球を消し、フィーレ・バレとだけ唱えて火球を生み出した。

それをまた無詠唱で消し、今度は無詠唱で火球を生み出す。


うん、火球の術式の感覚は問題なく掴めているようだな。


「うん。分かった」

「それでは、右手に水球、左手に火球、これらを同時に出せますか?」


ルクスのお手本を見て、私は驚いた。


それは違うことを同時にするということだろうか。

それとも、水球の術式を操作してから、直ぐに火球の術式を操作しているのだろうか。


私は内心で首を傾げながらも、まずはやってみようと、水球と火球の術式を同時に操作してみた。


「うん」

「出来ましたね。それでは、次は風球の詠唱をお教えいたします。前半は同じで、最後がウィーナ・バレとなります」


私は教えられた通りの詠唱、そして略式詠唱と無詠唱でと、三回、風球を出現させて、消した。


うん、術式の感覚は掴めているな。


「それでは、右手に火球、左手に風球、目の前に水球、これらを同時に発動させてみてください」


ルクスが出した課題に、私は少し考え込む。


これまでは両手を使って同時に操作する感覚だったのだが、三つ目となると、どれかを発動させてから次のもの、という感じになってしまう。


いや、術式だけ操作して準備しておいて、その三ヶ所に、同時に魔力を込めれば、三つ同時に発動させられないだろうか。


「…………できた?」

「はい。お見事です。次は土球の詠唱です。先程の最後の部分を、エラト・バレに変えて詠唱してください」

「うん」


段々とどのように術式の感覚を掴めば良いのかが分かって来た。私はこれまでと同じように、詠唱、略式詠唱、無詠唱で土球の魔術を発動させた。


「それでは右手に風球、左手に土球、目の前に水球、足元に火球。これらを同時に発動させてみてください」

「うん」


先に術式を準備しておく、というやり方で問題無いのであれば、やることは同じなので簡単だ。私はそれぞれの場所に術式を用意して、魔力を同時に込める。


「うん。できた」

「はい。素晴らしいです。次は、私が発動したものを、出現させた場所、魔力の大きさ、魔術の種類を同じように揃えて、できる限り早く、発動させてください」


そう告げると、ルクスは魔力を動かした。

その量は100くらい。場所は頭の上。種類は火球だ。


ルクスが魔術を発動させたのを見て、私も同じ火球の魔術を発動させる。

私が同じようにできていると頷いたルクスは火球を消した。


今度は、右手と左膝に火球と土球、魔力量は70だ。

私も火球を消して、二つの魔術を同じように発動させた。



種類、数、位置、魔力量。

それらを変えながら、絶え間なく、生成と消失を繰り返すルクスに、私は必死に真似をし続けた。


額に汗が浮かび、集中力が切れかかって来た頃、漸くルクスは魔術の発動を止めた。

それを感じ取った私は、ルクスの方を窺う。


「ルクス?」

「素晴らしいです。このくらいの速度で発動できるようになれば、一先ずは合格と言えるでしょう」


どうやら、ルクスの基準で合格を貰える程度になったらしい。

そう告げたルクスは至って涼し気な表情だ。


私はほぅっと息を吐いて、緊張を解いた。


「お腹が空いた」

「ふふふっ。そうですね。そろそろ夕食の時間になるでしょう」


私たちは微笑み合って、練習を見守っていたジュネやカルメたちのところに向かった。


その後はウィテハの夕食を三人で食べた。疲れた身体に染み渡る優しい味に、私はひっそりと息を吐いた。


うん、やはり疲れているようだな。



食後のお茶を早めに終えた私は、部屋に戻り、先にお風呂と歯磨きを済ませた。


書斎で日記と覚書を書いて、うとうととし始めているところを、カルメに運ばれそうになりながら、何とか自分で寝台に入った。




そこまでしか記憶になく、気が付けば朝になっていた。


すっきりと疲れが消え去っていると、気持ちもしゃきっとする。

そんな感覚を覚えながら、身支度を整えて、カルメが持って来てくれた服に着替えた。



今日のローブとドレスは青色だった。

私たちが食堂に向かうと、ルクスとジュネはまだ来ていないようだった。

私は持って来ていた覚書を読みながら、二人を待つ。



程なくして、二人が入室してきたので、私たちは三人でブラカの朝食を頂いた。


昨日の疲れも取れて、朝食で元気いっぱいになった私は、ふとルクスやジュネの表情が暗いことに気付いた。


暗いというよりは、真面目な、真剣な感じだ。


何があったのだろうか。


「ルクス、何かあった?」

「えぇ、その、先程、事件の調査に当たっている協会の魔術師から報告がありまして………………」

「事件?」

「オデット様が召喚された事件です」


その言葉に、私ははっとして、能天気な思考から真面目な思考に切り替える。


「…………何か、分かった?」

「はい」


そこからルクスは、私が召喚された時のことについて詳しく話してくれた。


「事件は王国暦392年11月28日午前3時30頃に発生しました。召喚魔術を執り行った術者は二人。二人とも完全なる青の階位です。二人はとある組織に所属する魔術師です。協会でも魔術師登録はしてありましたが、魔術師としての活動はそのとある組織でのものが主なようですね。協会の方の魔術師としての活動記録はほとんどありませんでした。まぁ、登録だけしておく、という人は偶にいます」

「その組織は何?」

「所属していた組織はソラレ・セリセ。魔術の実験をする魔術師が集まっている組織で、その実験には非人道的なものが多いとか」


なるほど。そんな危ない組織の人たちに、無理矢理呼び出されたのか。


「オデット様が召喚された、地面に残されていた魔術陣の解析も終わりました。気付けていない要素がなければ、その構成も全て分かっています。あの召喚魔術陣は、術者の魔力を術式の行使に使用し、生贄の存在、その魔力を対価としています。魔術陣には十二名分の、真名の意味と思われる言葉が刻まれていました」

「真名の意味…………」


その言葉に私は呆然としてしまう。


真名の意味はとても大切で重要なものではなかっただろうか。


使うことはないと思って、心の奥底に仕舞ってあるのだが、それを魔術に使用するとは、どうなる、いやどうやっているのだろう。


「はい。真名の意味をどのように明らかにしたのか、そこまでは分かっていませんが、恐らく非道な手段でしょう」


そうだろうな。自分の意志では明かすはずのないもの、そして自分しか知らないものを、手に入れるのだから、それは当人の意志に反するものだっただろう。


「そして、生贄にされた十二名の身元は不明です。真名の意味だけが分かっても、戸籍からは探せませんから。それに戸籍が無い者や、海外から密輸入された奴隷の場合もあります」

「奴隷?」

「はい。このサタロナ王国では奴隷は禁止されていますが、他国では認められているところもあります。そういった者たちだった場合には、身元の特定は更に難しくなります」


奴隷がどのようなものなのかは、大まかにしか分かっていないのだが、兎も角、生贄となった人たちの身元が分からないということは分かった。



しかし、十二名か。


十二名の人間は、私が召喚されると同時に、消えてしまったようだけれど、それはどういうことなのだろうか。私の居た場所と入れ替わったのだろうか。


「生贄はどうなる?」

「生贄の存在は、今回の召喚魔術の場合であれば、消失します。魔術を使用した際に、魔力が消費されるのと同じです。本来の召喚魔術であれば、生贄の保有する魔力が消費されることになりますが、今回は陣に、真名の意味が刻まれていましたから。それは生贄の存在そのものを対価にしている、ということになります」

「消失、したの?」

「はい。オデット様と、術者の死体以外に、あの洞窟には何もありませんでした」


そうか。この世界のどこにも、もう居ない。

それだけの対価を払って、私を召喚したのか。

そんなことをした彼らは、私を召喚して何がしたかったのだろう。


「術者の目的は?」

「恐らくは実験の一環でしょうね。そして良いものが召喚できれば、それを更に実験の材料にする、という程度の計画だったと思います」

「実験…………」


それは少し怖いなと思いつつも、そこまで動揺することはなかった。



自分がここに来ることで失われた命がある、ということは理解しているが、それは私の所為ではないし、私が責任を負うことでもない。


術者の目的についても、あぁそうなのか、という程度だった。結果として、術者たちは死亡しているからだ。



今、脅威に晒されている訳ではなくて、何かに困窮している訳でもない。

ここに来てから、周囲の人たちは皆、優しくて、私は恵まれた生活をしている。



だから、誰かを責めたくなるような不安や焦りはなかった。


皆が私を受け入れて、歓迎してくれていることに、唯々、ここに来て良かったという嬉しさと安堵を感じている。


術者の目的がどうであれ、失われた命があったとしても、私のやりたいことは変わらない。


皆に恩と優しさと思いやりを返したいのだ。



次話は閑話となります。


ブクマ、ありがとうございます。

お読み頂いている皆様も、いつも、ありがとうございます。

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