表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/71

69.礼儀作法と水球



翌朝、ウィテハの朝食を頂きながら、今日の予定について話す。


「今日から、魔術の練習は基本的に午後に行います。私に予定がある時には、何か、魔術の本をお渡ししておきます」

「うん」

「そして、午前の授業ですが、前半は今までと同じようにカルメから授業をしてもらう形になります。後半は…………」

「うん?」

「実は我々の間で意見が分かれておりまして。その、私は魔術の授業をしたいと考えているのですが、反対派は常識や教養に関する授業をした方が良いと…………」

「どっちも大事だと思う。交互にする?」

「そう、ですね。そうなりますよね」


ルクスは暗い表情になってしまった。


私は中間的な意見を出したつもりだったのだが、ルクスの希望とは違っていたようだ。そんなに魔術の授業をしたいのだろうか。


うん、それなら、ルクスのためにも私のためにも、頑張ろう。


「その分、頑張るよ」

「本当ですか?分かりました。オデット様のご期待に応えられるように、素晴らしい授業にしてみせます!」


うん、やっぱりね。ルクスの機嫌は直ったけれど、こうなると思ったよ。


ジュネやカルメたちに放っておけばよかったのでは?という目で見られたが、それはできない。


私がルクスに笑顔で居て欲しいと思ったのだから。


そのためなら、ルクスの魔術の授業が長くなろうと、難易度が高くなろうと、頑張ってみせるよ。

ルクスだって、私のために魔術の授業をしてくれているのだし。




こうして、常識を身に付け、擬態の魔術と魔力制御をできるようになる、という当初の目標よりも、本格化した授業が始まることになったのだった。


ルクスの執務室を経由して、授業を行う小会議室に入った。筆記具と紙を用意して、カルメから今日の本を受け取る。



一冊目は『リタン語 上級編』だ。


これは昨日の続きだな、と私は昨日の内容を思い出しながら、本を読む。


魔術の授業の所為ですっかり忘れてしまっていたが、読み進めていくと段々と昨日の内容を思い出せてきた。カルメからの確認問題を解いて、次は二冊目だ。



題名は『古代魔術語1』だ。


遂に来たか。これまで色々なところでその名を聞いてきたのだが、全く理解できなかった言語だ。


魔術の詠唱に使われている言語で、本を読んでみると確かに聞いたことのある単語が多かった。


だが文法は全く知らなかった。あれはそういう意味だったのか、と納得感を得ながら、確認問題まで終えて、三冊目を手に取った。



題名は『古代魔術語2』だ。


まぁそうだろうなと思った。これも二冊目と同じように読み進め、確認問題を解いたところで、休憩の時間になった。



ルクスの執務室に戻ると、ルクスはまだお仕事中だった。


私は邪魔をしないように、そっと静かに長椅子に座ってお茶を頂く。



この様子だと今日の後半の授業は魔術じゃないな。そう思いつつ休憩を終えて、小会議室に戻った。


さて、先程の続きかな。と思っていると、カルメは本を用意せず、私の前に立った。


「カルメ?」

「はい。本日の午前の後半の授業は、礼儀作法をお教えいたします」

「…………礼儀作法」


何と言うか、嫌な予感がする。これまでにカトラリーの使い方しか気にしたことがなかったが、それだけではない、ということだろうか。


「えっと、礼儀作法は常識?」

「はい」


一も二もなく頷かれてしまった。カルメの様子が何だか、おかしいぞ?


「カルメが教えてくれるの?」

「はい。オデット様に接触する人物は出来る限り少なく抑えるというルクス様の方針によって、オデット様に礼儀作法をお教え出来るのは私だけですから。そして、私は一応、貴族の出ですので、一通り、お教えすることはできます」

「カルメ、貴族なの?」


え、何それ。初めて知った。


私がカルメからの新事実に驚いていると、カルメはふっと視線を逸らした。


「昔の話ですので、どうぞお気になさらず」

「あ、うん」

「それでは、まずは立つ姿勢、歩き方、この辺りからお教えしましょう」

「あ、歩き方?」


何だそれは?貴族は変な歩き方をしないといけないのだろうか。

ん?というか、私って貴族じゃない、んだけど?


「カルメ。私に貴族の礼儀作法を教えようとしている?」

「この程度は礼儀作法にも入りません。初歩的な内容です」

「私、貴族じゃないよね?」

「今後、オデット様は貴族と関わる可能性が高いです。そのために、貴族の方とお会いすることになっても、失礼にならない程度の振る舞いを身に付ける必要がございます」

「私が貴族と会う?」

「はい。ラヘテ子爵ともお会いになられましたし、遠からず、他の方とも会うことになるかと」

「えぇー」

「それでは始めましょう。まずは姿勢からです。オデット様は姿勢はほぼ問題ありませんが、もう少し毅然と胸を張りましょう」

「こう?」

「肩は上げずに、少し顎を引いてください」


カルメに言われるままに、頭や身体を動かすが、何だろうこれ。何か、息苦しい?いや、堅苦しい、っていうのかな。


「カルメ。ずっとこの姿勢?」

「そうですね。貴族の方の前では、この姿勢を維持しなければなりません」

「何か、苦しい…………?」

「これは魔力制御と似ていると思います。この姿勢を基本として定着させれば、楽にできるようになります」

「うーん。じゃあ、定着出来たら、普段はしなくてもいい?」

「そうですね。はい。オデット様は貴族ではありませんし、そのような振る舞いが求められる立場でもありませんから。ただ、知っておく、それができる、ということは一つの手札になるでしょう」


それは最初の日に、ルクスからも言われた言葉だった。ルクスやカルメはこうして、私の手札を増やしてくれている。


こうして色々なものをくれるのは嬉しいし、大切に持っていようと思う。


けれど、そうして色々と備えをしてくれるのは、いつか、その手札を使う時が来る、ということなのだろうか。ルクスたちには、その時の想像が付いているのだろうか。


もし、その時が訪れたら、私はルクスたちの期待に応えられるのだろうか。自分の手札をきちんと活かせるのだろうか。



いや、応えられるように、活かせるように、しっかりと身に付けなければ。



そう思った私は、カルメが教えてくれる礼儀作法の授業にしっかりと集中した。


立ち方、座り方、歩き方、手の動かし方に、視線の意味。色々なことを教えてもらったところで、昼食の時間になったようだ。


礼儀作法の授業を終えた私は、見事に精神的に、そして身体的にも、疲れてしまっていた。

何だか、普段と違う姿勢を取ると、普段使わないところが疲れるのだ。


「オデット様。お疲れですか?」

「礼儀作法は疲れる」

「ふふふっ。確かに、慣れないことをすると、疲れますよね。私たちの前では、気楽にして頂いて構いませんよ」

「うん。ありがとう」


ブラカのしっかりと重めの昼食を食べて、元気を取り戻した私は、食後のお茶の時間を終えて、ルクスたちと共に、第三屋外訓練場に向かった。


「それでは、今日は略式詠唱、無詠唱で魔術を行使できるようになりましょう。一つの魔術でその感覚が掴めれば、他の魔術を覚えるのも早くできるようになります」

「うん」


私の隣に立ったルクスの説明に、私は頷いた。


魔術が何個あるのかは知らないが、確かに、その全ての詠唱を覚えてから、練習をしていたのでは、時間がかかるだろう。


「まずは昨日、お教えいたしました水球の魔術を発動してみてください」

「うん。我は世界に求める。この魔力を糧に生み出せ。ウェトル・バレ」


私は昨日の復習から始めたルクスの言葉に従って、水の球を生み出す詠唱を口にした。

私の右手の上には、思い浮かべた通りの大きさ、形の水の球が浮かんでいる。


うん。昨日、何回もやったからね。このくらいは問題ない。


「それでは消してください」

「我は世界に求める。汝はこの魔力と引き換えに消え去れ。エテーレ」


うん。これも簡単だ。そんな私を見て、一つ頷いたルクスは今日の本題に入った。


「それでは、略式詠唱のウェトル・バレ、だけで発動させてみてください。詠唱ではなく、魔力と術式によって、魔術が発動されているということに注意しながら、術式の感覚を掴みましょう」

「分かった」


私はルクスに言われた通りに、詠唱を唱えることに専念するのではなく、魔力を操作し、術式によって、現象を引き起こす、という魔術の過程の、術式の部分の感覚を掴むことに集中して、略式詠唱を唱えた。


「ウェトル・バレ…………できた!」

「はい。おめでとうございます。今の術式の感覚をよく覚えてくださいね」

「うん」

「それでは、水球を略式詠唱で消してください」

「うん…………エテーレ」

「はい。お見事です」


私はその後、何回も略式詠唱で、水の球を出したり消したりを繰り返した。


昨日も同じようなことをしたのだが、昨日は魔術とは何かということに集中していた。

しかし今日は術式の感覚を掴む、ということに注意して、魔術を行使している。



暫く、水球の生成と消失を繰り返して、漸く術式の感覚のようなものが掴めて来た。


そうして、私が慣れて来たところを見計らって、ルクスは次の段階に進むように声をかけてきた。


「それでは無詠唱で、水球を出してみましょう」

「うん」


私はルクスの言葉に頷いて、魔術を発動させる。


まず、生み出したい水球に必要な量の魔力を、内側の内側から取り出す。

そして先程掴んだ術式の感覚を想像して、術式に魔力を込める。


「はい。出来ていますよ」


ルクスの言葉と共に、いつの間にか閉じていた目を開くと、私の目の前には想像した通りの、水球が出現していた。


「それでは、無詠唱で消してみてください」

「うん」


これも同じように、術式を想像して、それに魔力を込める。


うん、確かに魔力が消費されているな。と思って、目を開けると、水球は跡形もなく、綺麗に消えていた。地面に水滴が散っていることもない。


「はい。それでは、水球の生成と消失をもう少し、手際よくできるようになるまで、練習しましょう」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ