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67.魔術の講義


少し新鮮な感じのする朝食を終えて、ルクスたちと執務室で別れた私は、小会議室でカルメから本を受け取った。



まずは一冊目。題名は『リタン語 初級編』だ。


リタン語はこの国で三番目に有名な?使用されている?言語だそうだ。


一番目は私たちが普段使用している王国語。二番目は古代王国語。

そして三番目がリタン語と、この本には書かれているが、この順番は著者が決めたもののようで、本当にそうなのかは怪しい。



うーん。言語は一度読んだだけでは、身に付けるのは難しいだろう。

カルメからの問題は簡単だったのだが、逆にその程度で良いのかと心配になってしまう。



そんなことを考えつつ、次に手に取ったのは、『リタン語 中級編』だった。


うん、何となく、そんな気がしていたよ。


私はリタン語の本を読んで、単語を紙に書き留めたり、自分で文章を作ってみたりして、何となくリタン語について理解していく。


本当に何となくなのだが、カルメの確認問題は難なく解けたので、これで良いのだろう。


さて、次は上級編だろうか。そう思って次の本を探すように、机に視線を滑らせたところで、カルメから休憩時間だと声をかけられた。


上級編はまた今度のようだ。私は勉強を切り上げて、ルクスの執務室に戻った。




まだ仕事をしているルクスたちを横目に、私は長椅子に腰かけて、お茶を頂く。


この後はルクスと魔力制御の練習だと思うので、このまま待っていよう。

昨日、新しいことを始めると言っていたから楽しみだな。



お茶のお替りをしようかと悩んでいた時、仕事を終えたルクスたちがこちらにやって来た。


「お待たせいたしました」

「お疲れ様。大丈夫?」

「はい。今日はきちんと時間を空けたかったので、いつもより少し時間がかかってしまいました。ですが、しっかり調整しておきましたから、大丈夫ですよ」

「…………?そうなんだね」


よく分からないが、大丈夫だと言うのであれば、そうなのだろう。

適当に頷いた私は、ルクスにお茶が用意されるのを見て、やはりお替りをもらうことにする。


もう少しゆっくりとした休憩の時間だなと思っていると、ルクスは早めにそのお茶を飲み干してしまった。


そんなに喉が渇いていたのだろうか。それとも、急いでいるのか?と首を傾げる。



「オデット様。本日の練習では、実際に魔術を使用します」

「魔術?」

「はい。これから魔術について、初歩的な解説をいたしまして、午後から実践したいと思います」

「実践?」

「はい。まずは、魔術の説明を致します」


まだ何も知らないのだが、いきなり魔術の実践とは大丈夫なのだろうか。


そう不安に思っていると、ルクスは早速、説明を始めてしまった。私は慌てて、目の前の話に思考を戻す。


何だか、長くなりそうな予感がしているが、初歩の知識だ。しっかり聞いておいた方が良いだろう。



「魔術とは、魔力を使用して、術式によって、ある現象を起こすこと、というのが、一般的な定義です。ですが、実際にはそうではない場合も含まれます。例えば、昨日お話ししたフィラセがあります。フィラセには、空の魔石に術式を刻印して、魔術の煙を吸引する、という装置がありましたよね。これは魔石の性質と術式を使用したもので、魔力を消費しているわけではありません。ですが、魔術の煙を吸収するという現象は起きています。ですので、魔術の詳細な定義については議論の分かれるところですが、重要な要素として、魔力と術式があります。このどちらかは必須ですね」

「うん」

「魔力については、これまでの練習で、その動かし方、操り方はお分かり頂けているかと思います。そこに術式を使用することによって、大抵の魔術は発動できます。術式には主に詠唱と陣の二種類があります。この詠唱と陣は術式の形態の一つではありますが、必須のものではありません」

「そうなの?」

「はい。魔術師にとっての一つの通過点として、無詠唱魔術、無陣魔術と呼ばれるものがあります。これらはその名の通り、詠唱や陣を使用せずに魔術を発動させることを指します。これらは戦闘時や緊急時に大きな利点があります。相手に発動する魔術を分かりにくくする、口や手を動かせずとも発動できる、というような点です。その前段階として、略式詠唱魔術、略式陣魔術というものもあります。この無詠唱魔術と魔力操作を練習すると、この程度のことは容易にできるようになります」


徐に左手を挙げたルクスはそれぞれの指先に小さな火、水、風、土の球を出現させた。それを見て、私は目を輝かせる。


凄い。魔力を移動させたのが分からなかった。そのくらい少量で無駄がない魔力操作ということだろう。


「凄い!」

「ありがとうございます。オデット様もこの程度は直ぐにできるようになりますよ」


感嘆の息を漏らしながら、私がぽつりと呟くと、ルクスは照れたように頬を染めて、照れ隠しのように話した。


「それではまず、詠唱魔術の基本的な詠唱をお教えいたします」

「うん」

「火はフィーレ、水はウェトル、土はエラト、風はウィーナです。これだけでも発動できますが、より効果を高めたい時や、魔術を学び始めたばかりの方はきちんと詠唱した方が成功率が高まります」


説明しながら、火、水、土、風、と左手に次々と出現させているルクスを見て、私は期待が高まる。


「それでは詠唱についてですが、これは何をするかによって変化します。例えば、ディグセを作成する時にオデット様にも詠唱して頂いた、我らは世界に求める。汝にこの魔力を与える。マギカパーレ・セタリス。これは、私とオデット様の二人で魔術を発動させていることから、我ら、となります。世界に求める、とは魔術を発動させる、という意味合いです。汝に、はディグセの魔石を指し、この魔力、とはあの時に魔石に込めた魔力を指します。それを与えると命じ、最後にマギカパーレ・セタリス、古代魔術語で魔力定着を意味する言葉を唱えます。つまり、魔石に込めた魔力を定着させる魔術を二人で発動させる、ということになります」

「へぇー」


なるほど。あの時は何を言わされているのか、よく分かっていなかったのだが、きちんと意味がある言葉だったらしい。


「この言葉は少々、順番や表現が異なっていても、意味が同じであれば、同じ効果が発動します。一人で発動させる時は、我は、になりますし、対象が複数であれば、汝ら、となります。このように応用させていくのが、詠唱魔術です」

「ディグセを作った時は、私は魔力をルクスに引き出された感じがしたけれど、魔力を込めないと発動しない?」

「はい。あの時は、仰る通り、私がオデット様の魔力を少しだけ引き出し、いえ、押し出しました。今、こうして詠唱をしても何も起こらないのは、私が術式を操作していない、そして魔力を込めていないからです」

「術式を操作する、のはどうする?」

「一般的には、想像することだと言われています。実際には想像することによって、術式の操作を補っています。例えば、手を握る時に力を入れたい時は、そのように力を込めればできます。術式の操作も似たような感じです。術式の感覚を掴み、それを操作するということは、個人の体感になります。どうすれば、手を握れるのか、どうすれば力を込められるのか。言葉で説明すると煩雑になりますが、感覚を掴めれば簡単です。その感覚を掴むためには、実際に魔術の使用経験を積む必要があります」

「それは、魔術には術式が必要だけれど、術式の感覚を掴むためには魔術を使ってみないといけない、ということ?」

「はい。そのために、魔術の効果を想像することが、効果的だと言われています。魔術の効果を想像することで、術式操作をしやすくなり、魔術の効果を想像した通りのものに近付けることができます」

「なるほど」


それでは魔術も使えなければ、術式の感覚も分からないのではないか、と思ったが、効果を想像して詠唱することで、多少なりとも魔術が使用できるらしい。


そうして魔術の使用経験を積むことで、術式の感覚が分かるようになってくる。そうすれば略式から無詠唱で魔術を使用できるようになるのだとか。


「それと、魔術や魔力が安定して使用できるようになるまでは、お一人で魔力を使用しないようにしてください」

「一人で?」

「はい。オデット様には最初に魔力制御を覚えて頂きました。普通は下級の魔術を練習しながら、魔力制御を覚えていきます。オデット様に最初に魔力制御をお教えしたのは、生活に不便だからというだけではなく、危険だからです。強大な魔力を持つオデット様が、その魔力を全て注いで、例えば火の魔術を発動させてしまいますと、この協会の建物が崩壊してしまうほどの威力が出てしまいます」

「そんなに?」

「はい。先程、私が掌に浮かべた火球は30程度の魔力しか使用しておりません。その300倍以上の火球、となると、想像もつかないほどです」

「確かに、そうかも」

「ディグセのように一定量の魔力を自動的に消費するのではなく、自分の匙加減で変化させられるのです。間違って魔力暴走などが起きてしまえば、被害は甚大になります」

「魔力暴走?」

「はい。魔力圧は感情の昂りや魔力の制御が疎かになることで、魔力が体内から漏れ出て、周囲に圧力となって感じられることです。その状態が悪化すると魔力が暴走した状態となります。理性が失われ、感情の赴くままに、魔力が魔術として、或いはそのままに周囲に発散されてしまいます。これは周囲への危険は勿論、本人の命にも関わります。通常は理性が働いて、生命維持に必要な魔力を温存しようとするのですが、魔力が暴走した場合や暴走するような状況に陥った場合には、温存することなく魔力を使用してしまいます。」

「そうなるのは珍しい?」

「そうですね。怒りで我を忘れる、という以外にも、感情が昂り過ぎるとそうなることがあります。例えば、戦場で恐怖のあまりに呆然自失となった兵士が周囲を巻き込んで自爆した。初めて魔術を使用した少女が興奮のあまり、魔力を抑えられず、魔力暴走を起こして、焼死体になったという例もあります。大抵は前段階として、魔力圧が漏れ、それが抑えられず収まらず、魔力暴走に至ります。魔力量が多い人ほど、魔力制御が重要になりますから、十分に魔術を身に付けるまでは、お一人で使用しないでください」

「わかった」


何だか、とても怖い話を聞いてしまった。一人で魔力制御の練習や魔術の練習はしないようにしよう。


うん、絶対。



お読み頂いている皆様、いつも、ありがとうございます。

先日、2026年2月13日(金)に、この作品が累計3,000pvを達成しました。

誠にありがとうございます。

活動報告と、番外編を投稿しましたので、宜しければご覧ください。

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