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64.同席と秘密


この報酬と内容での依頼にこれだけの物を出してやってるんだから、それで満足できないのなら出直して来いって、突き返す形になるのだそうだ。


「このフィラセを私が製作したことは、大々的に公表はしていませんが、調べれば分かりますからね。依頼人がどういう反応をするのか、見物です」

「おぉ」


1級の協会長が製作した物を、もっと良い物はないのか、と見下すような人物は、逆に周囲に依頼人の底の浅さ、見る目の無さが知られてしまうということらしい。



これ以上はフィラセを専門で開発している魔術師に指名依頼をして、特注品を作ってもらうくらいしかない。

というか、欲しい性能を聞き出して、それに合わせてフィラセを開発、改造、作成するという、もはや新商品開発、新事業になってしまうようだ。



それは一商人の買い物の範疇ではないような。と、ほへぇと口を開けて感心してしまう。

ルクスの悪い笑み、腹黒い微笑みに、何と言うか、依頼人にご愁傷様とそっと肩を叩いてあげたくなる。

まぁ、そんなことをする価値もなければ、理解もされないような頭脳の持ち主だろうけど。


「このフィラセは、実際に性能としては凄い物なの?」

「術式は普通ですよ。一応、最新の最高効率のもので、あとは浄化機能付きで、発火と消火の時間指定もできます。そして一番の目玉は魔石の容量ですね。昨日、オデット様に作成して頂いた空の魔石を使用しているんです。あの最後にお作り頂いた黄色の丸い魔石です」

「え、あれを?どこに?」

「燃料の部分です。納品時には空のままお渡しして、向こうで設置してから試運転をさせますので、魔力は込めないのですが、あの魔石だと満杯まで入れるのは、大変でしょうね」


うん、そうでしょうね。

だって、私の全力の7割くらいまでは入った感覚があったもの、あの魔石。

私はそれを取り戻して空の魔石を作っただけだから良いけど、消費するために満杯まで込めるのなら、結構、無理めなのでは?

私でだって、満杯まで込めるだけでその日の仕事終了って感じになるよ?


「本部でも達成できませんでした、で終わるのも良いですけど、この性能のフィラセを見せて、それでも満足できないと言えるのかが、実に見物です」

「えっと、仕様書とかは?」

「依頼人の要望書の機能は備えていますよ。ただ、性能がそれ以上なだけで」

「それはそれで大丈夫なのか、心配」

「大丈夫です。要望書より性能が上回る場合は、追加報酬を出すってありますから」

「えっと、毟り取る感じ?」

「はい。取れるところから取るのが良いでしょう?」

「…………うん。そうだね。えっと、このフィラセを作るの、楽しかった?」

「はい!これほどのフィラセの製作を実践できたのは勉強にもなりました。知識として知ってはいたのですが、やはり実際に作ってみると色々と発見があって面白いですね」

「うん。ルクスが楽しかったなら良いかな。また空の魔石を作ろうか?」

「そうですね。今回のフィラセの応用で、色々な物の大型化や効率化を試してみたくなりました。ですが、あれほどの魔石は中々入手できませんからね…………いっそ、狩りにでも行きますか。オデット様の魔術の授業も、もう少しで実践が必要になってきますし…………」


ぶつぶつと呟きながら、口元に手を当てて考え込んでしまっているルクスに、私は首を傾げる。


うん、これは暫く、考えが纏まるまで放置しておいた方が良いかな。



見守る姿勢でルクスの意識が戻って来るのを待っていると、ルクスは意外にも直ぐに我に返った。


「はっ…………取り敢えず、魔石が入手できないので、空の魔石は作成して頂かなくて大丈夫ですよ」

「分かった」

「そう言えば、明日からはオデット様の魔術の授業も新しい段階に移るので楽しみにしていてくださいね」

「新しいこと?うん、楽しみ」


それ以上、授業の内容を教えてくれることはなかったが、これまでの内容で何か一区切りがついたのだろう。明日からの授業も楽しみだ。



フィラセの見学を終えて私たちは再び応接室に戻った。


ルクスの隣に座って、一緒にお茶とお菓子を頂く。お菓子は夕食前なので、軽めの物だが。



暫く、取り留めのない会話をしていると、研究室のドアがノックされた。

カルメが応対に出て、こちらをちらりと窺ってジュネ様ですと言った。その視線にルクスが頷いた。


「失礼します。ルクス様…………オデット様?」

「ジュネ、お帰り」

「あ、はい。只今、戻りました。って、オデット様が何故、こちらに?」

「暇だったから?」

「そうでしたか。ルクス様、お昼はきちんと召し上がられましたか?」

「はい」

「それならば良いです…………ん?」


ルクスに何だか託児していた子どもを迎えに来た保護者のようなことを聞いているジュネに私は少し引いてしまう。


ジュネ、苦労しているんだね。そしてルクスも、そんなに酷いんだ。普段の生活が。



安心したように頷いたジュネは、そこでふと首を傾げてから、目を瞠った。


「オデット様とルクス様が同じ椅子に座っていらっしゃる?」


ジュネがぽつりと呟いた疑問に、私たちは顔を見合わせて、ルクスが苦笑して答えた。


「えぇ、まぁ、成り行きで」

「成り行き?」

「ジュネ。ルクスと仲良くなったんだよ」


私が寂しくて泣いてしまったことをぼかしてくれたルクスに合わせて、私も話を逸らす。


今振り返って考えてみれば、泣いてしまったことと言い、抱き締められたことと言い、先程のあれこれについて説明するのは何だか気恥ずかしいのだ。



「え、仲良く?」


それって、もしや、これまでは仲が悪かったのか?というような意外そうな表情をするジュネに私は間髪入れずに訂正した。


「うん。前から仲は良かったけどね。もっと仲良くなったの」

「え、急に?そう、なんですね」


納得がいかないというような物言いたげな表情で取り敢えずぞんざいに頷いているジュネに私は畳みかけるように声をかけた。


「私、ジュネとももっと仲良くなりたい」

「え?あ、ありがとうございます。俺も仲良くなりたいですよ?」


少し寂し気な雰囲気を一瞬見せたので、それを振り払うように思い切って告げたのだが、ジュネは困惑した表情になってしまった。


うん、仲良くなるって何だろう。具体的には、どうすれば良いのだろうか。


ジュネがそう考えていることが伝わって来たので、私は嬉しさと期待から輝くような笑みを浮かべた。


「それでね、一緒の机でご飯を食べたいの」

「遂に、ですか!?」

「ん?遂に?」

「あ、いえ、何でもないです」

「あと、ルクスも一緒だよ?」

「る、ルクス様も?」

「うん。あ、ルクスと一緒は嫌だった?」

「いえ、それはないですけど。というか、もし本当にそうだったら、ここでは言えませんよね?」

「あ、ごめん。えっと、大丈夫?」

「ふふふっ。はい。大丈夫ですよ。喜んで同席させて頂きます」

「うん、良かった」


ルクスが一緒だと聞いて、ジュネの笑みが引き攣ったものになってしまったのを見て、私は慌てて声をかける。


そんな私たちの会話にルクスが苦笑していたことには気付かず、私はジュネから了承を得た。


「それでは、私が明日の朝から同席できるように伝えておきますね」

「うん、お願い」

「はい」


ルクスの言葉に私は笑顔で頷いた。



その間にジュネはふと表情を真剣なものに変えて、何かを考えていたようだが、私はそんなジュネの様子には気付かなかった。


「俺が一日居なかった間に、何でこんなに仲良くなってるんだ?もしかして、俺だけ、仲間外れにされてる?いや、でも同席には誘って下さったし」




その後の夕食はいつものように三人で食べた。やはり一人ではなく、皆で食べた方が楽しいし、より美味しく感じる。


そして、その日の夜は直ぐに眠気が来て、早めに寝台に入った。


泣くのって疲れるのだろうか。そんなことを考えて答えを出す前に、意識は眠りに落ちてしまっていた。




翌朝、身支度を整えて食堂に向かうと、直ぐにいつもとは様子が異なっていることに気付いた。ルクスは言っていた通りに準備を頼んでくれたようだ。



大きな一つの円卓に、三つの席が設けられている。

クロスや食器、椅子は分けられているが、机が同じだ。


何だか、今までよりも距離が近くなったような気がする。

そのことが嬉しく、私は弾んだ気持ちで自分の席に着いた。


「おはようございます、オデット様。昨夜はよく眠れましたか?」

「うん。おはよう、ルクス。泣いたから疲れてたのかな?」

「泣いた!?」

「そうですね。私も泣いた後は、いつもよりもよく眠れたような気がします」

「泣いた!?」


ちょうど食堂に入って、こちらに来たジュネはそんな私たちの会話に驚いて、その視線は何度も私とルクスの間を行ったり来たりする。


「ジュネ、おはよう」

「おはようございます、オデット様。その、な、泣いた、というのは…………」

「ふふふっ。秘密」

「えぇー。ルクス様、泣いたということについて」

「すみません。たった今から、守秘義務が発生したようです」

「えぇ…………」


ルクスは私に合わせて、昨日のことを秘密にしてくれた。


やっぱり、後から考えても、何だか恥ずかしいからね。



「また俺だけ?やっぱり、仲間外れにされてる?昨日の一日で一体何があったんだ?」


ジュネが悶々と何かを呟いていたが、私は面白そうなので、放って置くことにした。



次話は閑話となります。

また閑話が二話、続きます。

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