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62.フィラセ


「協会が暖炉ではなくフィラセを主に使用している理由は幾つかあるのですが、その中でも大きな理由は建物が大きく部屋数が多いということと、建物自体で結界の魔術を構成しているから、ですね」


大きな建物で設置する暖炉の数が多くなると、煙管を作って管理するのが大変らしい。


フィラセであれば、個々の魔石を手入れするだけなので、暖炉を多く設置したい場合はフィラセにするところが多い。



そして二つ目の理由。こちらの方がかなり重要なのではないだろうかと思うのだが、協会の建物は、敷地に張り巡らされた結界、建物を覆うように施された結界、そして建物自体を媒介として効果を発動させている結界があるのだそうだ。


前者二つは、いつでも発動、解除ができるものだが、後者はそれができないらしい。



と言うのも、建材を組み立てることで魔術が発動しているので、建物が一つの魔術具のようになっているそうだ。


つまり、建物が壊れない限りは結界が発動し続けるし、建物が壊れれば結界が発動しないものなのだ。


それを建物全体、各部屋というように組み合わせて複雑な結界を作り出しているらしい。



「大きな球の中に幾つもの小さな球が入っている様子を想像してみてください」

「何と言うか、ちょっと気持ち悪いよ?」

「ふふふっ。いえ、まぁ、えっと、私の例えが悪かったですね。でも実際に、沢山の結界があって、何重にもなっているのですよ」

「で、その結界が?」

「あぁ、はい。その結界を構築しても、煙管を作ると穴が空いてしまうのです。そうなると、建物自体の結界の作用も弱まってしまいます」

「建物以外の結界だけじゃ駄目なの?」

「この建物自体の結界というのは、色々な効果を持たせたもので、建物以外の結界はそれほどではないんです」


先程魔術具と言っていた通り、魔術で効果を発動させている建物以外の結界よりも、建物自体の結界の方が複雑で多様な効果を持たせているらしい。


同じことを魔術でやろうとすると、かなりの技術と魔力が必要になる。


「勿論、建物以外の結界にも魔術具を使用していますが、仕組みが全く異なるのです。結界の魔術を込めた魔術具に協会の敷地全体を覆うように発動させるのと、協会の建物自体を魔術具として建物に結界を発動させるのでは、魔術具自体が異なる、ということが何となくわかりますか?」

「うん。でも、それって協会の建物の増築とかは出来ないの?」

「いえ、できますよ。既にある大きな球の周囲に小さな球を沢山くっつけます。それを更に大きな球で覆うというような感じですね」

「うん。やっぱり、気持ち悪いよ」

「ただ改築が難しいですね。部屋の模様替えくらいであれば良いのですが、部屋の配置や大きさを変更するのは難しいです。術式の構成が変化してしまいますからね。今のこの建物も、これまでの建設に携わってきた人たちの集大成のようなものですから、崩してしまえば、同じような物を作るのは難しいです」



協会長が代々引き継いでいる建物の結界の術式を書き起こした本というか書類があるらしいのだが、それがまた難解で、ルクスでさえも、今は読み解くのが精一杯で、書き足す、つまり増築しようというところまでは考えられないのだとか。



最初は簡単で単純な術式だったようだが、何百年とかけて書き足されていった結果、とんでもないものになってしまっているようだ。


そして百年に一度くらいの頻度で天才が現れ、術式の整理や単純化、書き足しや書き直しが行われているらしい。


「複雑で難解ではありますが、実に精緻で精密な美しい術式なのですよ。私もいつか、術式を書き足せるようになるのが目標、というか夢なのです」

「私もいつか見てみたい」

「ふふふっ。それでは、いつかお見せしましょう。その時は術式についてご意見をお聞きしたいです」

「うん。その術式が理解できるようになるために、勉強を頑張るよ」

「はい。私も応援しますよ」



何だか良い感じの雰囲気になったところで、私ははっと我に返って、目の前のフィラセに視線を戻した。


見た目は私の部屋にある物と似ているので、見慣れた形なのだが、素材や細工などが違うので、雰囲気が異なる。


そんなものが研究室の一角にどすんと置いてあるので、その所為でも違和感がかなりある。


「このフィラセには魔術の煙を吸引するだけでなく、浄化する機能も付けています」

「浄化?」

「はい。一般的なフィラセであれば、魔術の煙を空の魔石に溜めさせて、その魔石を交換、または取り外して浄化する必要がありますが、このフィラセには魔術の煙を溜めた後でそれをそのまま浄化できるように術式を付け足しています」

「空の魔石なの?」

「はい。空の魔石に術式を刻印することで、勝手に対象物を吸引してくれるのです。そして少量の魔力を流すことで浄化の術式が発動するようにしています」

「ふーん。協会ではフィラセを使ってる部屋が多いんだよね。暖炉の方が良いことってあるの?」

「はい。まず、フィラセの方が高価なのです。そして火を焚く魔力を込めた魔石への魔力補充、魔術の煙を吸引する魔石の手入れ、これらに必要な魔力量はそれほど多くは無いのですが、日常生活や仕事をする上でやはり魔力が必要になりますから、フィラセにそれほど魔力をかけられない人が多いのです。魔力補充と魔石の手入れを依頼に出したり、そういうことをしてくれる業者もいたりしますが、継続的にお金がかかるとなると、一般家庭では少々厳しいかもしれません。なので、暖炉を選ぶ方が多いですね」

「薪と煙管の手入れの方が安いんだね」

「はい。これも場所と場合によって使い分けられています。あとは財力を誇示するためにフィラセを使用する人も一定数います」

「協会みたいにフィラセが多い所は珍しいの?」

「まぁ、一般的ではないですよね。王城や貴族の館、あとは魔力補充に困らない協会の施設、くらいですかね」

「協会では誰が魔力補充をしているの?」

「主には職員と研究員ですね。研究や仕事で魔力を必要とすることも多いので、皆の余力を少しずつ集めて補充しています」

「へぇ」


協会では雑用とされているようだが、それでもかなりの魔力が集まっていると思う。


やっぱり、協会には魔力量が多い人が多くいるのかな。



「協会では、非常用にフィラセを備蓄しているんです。災害が発生したり、不作不況になったりした時には、基本的に領主や王国が備蓄している物資が使用されるのですが、それでも木材などの価格が一時的に高騰してしまいます。そのような場合に備えて、フィラセを貸し出したり、魔力を補充できる人員を派遣したりするんです」

「それって、協会にはどんな利益があるの?」

「まず王国の経済が安定するという点、王国や領主に恩を売れる点、それに協会は魔術の発展や保護を目的として活動していますから、国が繁栄するということ自体が魔術の、学問や技術の発展に繋がるのですよ。魔術が発展すれば、協会の利幅が増えますし。それに豊作の時や王国が豊かな時に材料を安価で購入して、不作の時に製品を定価で売るだけでもかなりの利益になりますよ」

「そこは高値で売らないんだね」

「まぁ、物によりますが、日常生活に必要な魔術具が多いですからね。高値では売れません」

「何か、商人みたい」

「ふふふっ。協会は商業ギルド、冒険者ギルド、職人ギルドなどの色々なところと取引がありますからね」

「協会に関係しないものってあるの?」

「ふふふっ。王国で王国に関係ないものは、と言うのと同じくらい難しい質問ですね」

「やっぱり腹黒い?」

「さぁ、どうでしょうね。ここだけの話ですが、神殿よりは腹黒くないと思いますよ?」

「うわぁ」


それって、腹黒いのでは?というか、神殿ってどれだけ腹黒いんだ?


そんな怪訝な表情をする私に、ルクスは悪戯を仕掛けた時のような怪しげな笑みで答えてくれたのだった。



活動報告を投稿しました。

内容は新作投稿についてです。

宜しければ、ご覧ください。

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