60.図書室での温もり(閑話)
今回は閑話です。
僕が学院に入学して、暫く経過した頃。僕は突然の不安感に襲われていた。
何故だろう。急にこのような悲しい気持ちになったのは。
僕は図書室で一人、魔術について調べていた。
毎日のように通う僕を、司書の先生はいつも微笑んで出迎えてくれた。
それでも、誰も僕には触れない。
それは魔力制御を覚えてからも、変わらなかった。
何故だろう。僕が急に魔力を解放するとでも思われているのだろうか。
そこまで考えて、先程の出来事まで思い出してしまった。
廊下を歩いていると、とある生徒がハンカチを落とした。それを拾おうと、僕は手を伸ばした。
同時に相手も、こちらに手を伸ばしていた。けれど、僕の方が近いし、拾って渡せば良いだろう。
そう思っていたところに、鋭く大きな声がかけられた。
「近寄るな!」
「えっ」
「お前の魔力制御次第で、こっちは怪我するんだぞ!そんな奴に触られるこっちの身にもなれ!」
「…………」
僕はどうすることも出来なくて、何て言えば良いのか分からなくて、その場からただ逃げるように離れた。
向かった先は図書室。
ここなら、一人になれる。
気持ちを落ち着かせられる。
そう。いつだって、一人なんだ。
そう気付いてしまった瞬間、僕の目からは涙が溢れていた。
「まぁ、どうしたの?」
「っ、いえ、何でもっ………………」
まずい。司書の先生に見つかってしまった。
僕は慌てて涙を拭うが、涙は止まるどころか、溢れてくる。
「っ!?」
「こちらへいらっしゃい」
司書の先生に手を取られて驚いている間に、僕は司書室に連れられた。
その手の温もりは、何だか温かくて、それでいて不安になる。
この手が冷たくなったり、壊れたりしてしまわないだろうか。
そう考えて、僕は手を離そうとしたが、先生に逆にしっかり握られてしまった。
「そのまま、魔力を抑えていてね」
そう言って、司書の先生は僕を椅子に座らせ、その隣に座った。
それさえも、僕にとっては初めての経験だった。
席分け、椅子分けは僕にとっては必須だったから。
そして、更に驚くべきことに、司書の先生に抱きしめられたのだ。温かさが体を包み込む。
あぁ、これだけで、何だか不安がすうっと消えて、温かな気持ちが湧いてくる。
司書の先生は不思議なことに僕の背中をぽん、ぽんと一定の間隔で優しく叩いてくれた。
何だろう、これ。これで何か、体内の異物を排出する術式でも発動させているのだろうか。
だって、そうされると、さっきまで心の中を占めていた不安な気持ちが消えていくのだから。
「ふふ。もう大丈夫そうね」
「ありがとう、ございます、先生。宜しければ、後学のために、先程の魔術を教えて頂いても?」
「ふふふっ。魔術じゃないのよ。寂しい時には、こうするものなの」
「寂しい…………」
その言葉は不思議と先程のもやもやとした気持ちをよく表していた。
「まぁ、あんなに分かりやすい顔をしていたのに、気付いていなかったのね。いいわ。また寂しくなったら、ここへいらっしゃい。幾らでも抱きしめてあげる」
「っ、先生!幾ら先生でも、異性に対してそのように寛容な姿勢は誤解を招きます!」
「ふふふっ。ルクス君は意外と揶揄い甲斐があるわね」
「…………」
先生の言葉に僕は何も言えなくなる。しかし、先程と違って、嫌な気持ちではなかった。
「いい?寂しい時には、寂しいと言いなさい。無理して溜めこまないこと」
「…………はい」
それから、先生は偶に司書室に招いて下さり、一緒にお茶をする仲になった。
オデット様を抱きしめて、その背中を優しく叩く。
してもらったことは数回くらいだし、人にしたことはないけれど、オデット様には効いてくれたようだ。良かった。
しかし、オデット様もこれを魔術だと思ったということは、やはり何か魔術的な要素があるのだろうか。
確かめたい気もするが、何分、そんな機会はほぼないので、難しい。
まぁ、次にオデット様を宥めることがあれば、魔術残滓をよく見ておこう。
活動報告を投稿しました。
内容はこれまでの振り返りとちょっとした予告です。
宜しければ、ご覧ください。




