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6.報告と判断(閑話)

今回は閑話です。


「それでは報告をお願いします」

「はい」



ここは魔術師協会本部の中でも大きめの部屋。協会長の執務室だ。



目の前にはこの本部の長、ルクス様が執務机に肱をついて両手を緩く組んでいる。


ルクス様の背後には補佐官のノヴェラエ様と護衛騎士のリグネウス様が控えている。ルクス様の従者、ノヴェラエ様の従者と護衛は席を外している。



厳重に人払いされたということは、それだけ今回の事態を重く見ているのだろう。


自分の判断は正しかったのだと安堵する気持ちと、どれほど重要な案件に関わってしまったのだろうと不安に思う気持ち、そして今日という一日はまだ始まったばかりなのだという、気が遠くなるような絶望が心を占めていた。


「本日4時頃、最果ての森の北東、ダルク洞窟にて魔術地震が発生したことを感知致しました。ヴァラレ支部の魔術師とヴァラレ砦の兵士に最果ての森への警戒を指示し、私とブラスが現場に向かいました。現場到着時には地震は収まっておりましたが、膨大な魔力圧が感じられましたので、現場の探索を続行しました。ダルク洞窟内にて、魔術師と思わしき不審人物二名が死亡しているのを発見しました。そして、ルヴェファ様がその奥の魔術陣の上にいるのを発見し、保護しました」



私の報告にルクス様は真面目な表情で頷きながら、聞いてくれている。


「現場の魔術残滓は?」

「現在、調査中ですが、現段階では生贄を用いた召喚魔術が行使されたと推測しております。現場に残っておりました魔術陣も解析中ですが、召喚魔術陣を一部改変したものと思われます」


私の返答に、ルクス様は暫く無言だった。



考えを纏めておられるようだが、この重苦しい沈黙は不安な気持ちになる。


しかしルクス様にとっても、俺にとっても、今回の召喚事件は想定していた中で最悪の出来事と言えるだろう。


何せ白階位の人間の召喚に成功しているのだ。証人がほぼいない状況が幸いと言える。



「分かりました。今朝の迅速な対応、ルヴェファ様と他者の接触を最小限にして、ここまでお連れしたこと、素晴らしい働きです」

「ありがとうございます」


笑みを浮かべて、そう褒めて下さるルクス様に俺は礼をした。



だが、ここで浮かれてはいけない。気を抜いてはいけない。


それは魔術師らしい勘と経験による警戒だった。

何せ褒めて頂いただけで、指示や対処はこれからなのだからな。



「そして今後のことですが、現場の調査、不審人物の調査は私が引き継ぎます。ルヴェファ様については他言無用でお願いします。召喚魔術は失敗、召喚者は死亡、身元は調査中ということに」


ルクス様がそこまで仰るということは、余程、ルヴェファ様の存在は危険なのだろう。


俺も短い間しかお会いしていないが、本人の性格がどうであれ、あの魔術階位の高さだけで、下手をすればこの国で内乱が起きかねない。



それを直ぐに理解した俺は素直に頷いた。


元々協会は、完全に王国の物という訳ではないのだ。我々の上司はルクス様であって王族ではない。


「はい。承りました。しかし、ブラスはルヴェファ様のことを知ってしまっております。申し訳ございません」

「大丈夫ですよ。そちらにも手を回します。むしろルヴェファ様をここにお連れするまでに、貴方たち二人にしか見られていないということは素晴らしい成果でしょう」


その言葉に、こちらに刺さる三人の視線に、俺の背中には冷や汗が流れた。


もし何かあれば俺とブラスは処分される。そういう意味も含んでいるのだろう。


「…………ありがとう、ございます」


口の中が乾いていたが、何とか言葉を絞り出す。




「そう言えば、貴方は魔術師になって何年目でした?」

「?…………七年目になります」

「そうですか。そろそろ本部に戻って来る気はありませんか?」

「はい?」


ルクス様の突然の提案に俺は首を傾げる。


なぜ今、その話になったのだろう?



「何ならブラス・ホネテと共に二人で戻って来てもらっても良いのですよ?」

「それは…………」

「昇進、ということです。あぁ、ご心配なく。監視のためではありませんよ。私には疑いを晴らすくらいの力はありますから」


何と言うことはない軽い調子で、いつもの笑顔で明るく告げるルクス様に俺は肩を強張らせた。


この人は確かに貴族なのだ。そう肌で感じた。

いやこの威圧感は、協会長という立場から漏れ出るものなのだろうか。



「有難いお話ですが、今すぐという訳には…………」

「そうですね。引き継ぎもありますから、三か月後くらいでどうでしょう?」

「はい。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。良いお返事を聞けて良かったです」



そして、俺はルクス様に朝食に招待された。

その場にはルヴェファ様もいらっしゃったが、なぜこの場に俺も呼ばれたのだろう。


そう思いながら、緊張と共に、美味しいはずの朝食を頂いた。



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