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56.読書と魔力感知


少し休憩をしたところで、夕食を食べるために私たちは食堂に移動した。


ウィテハが担当した夕食を食べ終えて、食後のお茶も終えて、私は自室に戻った。


当然のようについて来たカルメに、少し申し訳ない気持ちになる。


まぁ、書斎で寝た私が悪かったんだけど。ってこれ、昨日も同じことを思ったな。



書斎で日記を書き、お風呂と歯磨きを終えた私は、直ぐに寝台に横になった。

私が寝台に入ったことを確認したカルメは就寝の挨拶をして出て行った。

それを見送った私は、寝台の上で今日の出来事を振り返っていた。



今日も色々なことがあったな。

子爵に会ったり、ルクスを揶揄ったり、勉強もしたし、魔力制御の練習もした。


魔力制御の時の魔石を持ったルクス、何だか活き活きとしていたな。

普段からは考えられないような動きをしていた。

というか、今までに見たことがないくらい動いていた。



ルクスは基本的に優雅というか、穏やかで、仕事をしている様子しか思い浮かばない。

動いている、と言っても、廊下を歩くとか、食事をするとか、魔力回復薬を作るとか、普通の動きだ。



そんなルクスが部屋の高いところに魔石を掲げたり、身を低くして魔石を隠したり、魔石を持って歩き回ったり、魔石を投げたりしていたのだから、今日のルクスはかなり動いていた、と言えるだろう。


改めて思い出すと、今日のルクスは何だか面白かったな。


そんな少し失礼なようなことを考えながら、私はゆっくりと眠りに落ちて行った。





翌朝。いつものように、身支度、ブラカの朝食を終えた私は、小会議室で勉強に取り掛かった。


今日の一冊目の本は『夕暮れの橋』。

題名から何も想像できなかったが、読み始めてみると、物語のようだ。

世界中を旅している吟遊詩人がサタロナ王国を訪れ、この国の色々な場所を見て回り、見たこと、聞いたこと、感じたことを文章にしている。その語り口は繊細で優美だ。



これは勉強というより読書では?と思いながらあらすじや比喩表現を書き留めていく。

思ったことや気になったことも合間に書いていると、何だか、感想文のようになってしまった。



カルメにこの本について聞くと、これは著者の実体験を少し脚色して書かれた本で、旅行記らしい。


少し前から王国で流行っていて、他国にも広まっているらしい。

この主人公の台詞や行動をなぞるのが流行りで、この本を引用したものが多くあるらしい。


例えば、主人公がとある街で食べた郷土料理が、その話の舞台になった街では名物品として売り出されている。

そんな一冊目を読み終えて、私は二冊目を手に取った。




二冊目は『黒姫と白王子』。

これも物語だが、こちらは創作であるらしい。


魔術階位が低く、親兄弟に虐げられていた少女が王子に見初められる恋愛物語だ。

少女は最初は、魔術階位の高い王子を妬み、僻み、反発的な態度を取っていたが、徐々に王子の優しさに心を動かすようになった。

そして最終的に二人で苦難を乗り越えて、結ばれる、と言う顛末だ。



これも先程と同様に、気になったこと思ったことを書き留めるが、一冊目よりは少ない。

何と言うか、そんなことがあるんだな、と思うだけで、特にそれがおかしいことなのか、凄いことなのかがよく分からなかったからだ。



カルメの話を聞くと、この物語は劇になったり、詩人が歌にしたりと、幅広く広まっているそうだ。

設定や世界観を少し改変した似たような話も沢山あるそうで、とても人気で昔からある一般的な物語、ということらしい。


「特に、王子が少女に求婚する台詞は、この国ではよく使用されている代表的で庶民的な求婚の言葉ですから、覚えておいた方が良いでしょう」

「へぇ。私の色を受け入れて欲しい、白と共に歩みます?」

「それです」

「ふーん」


まぁ、気になったことは後でルクスに聞いてみよう。


そう心に留めておいて、私は今日の勉強?を終えた。

『黒姫と白王子』の本を持って、休憩を始めていると、直ぐにルクスもこちらに合流した。

私が机に置いている本を見て、ルクスは懐かしそうな、微笑ましそうな表情を見せた。



ついでに私のことも、王子に夢を見る年頃の少女を見守るかのような目で見て来る。

私はその視線をばっさりと無視して、気になっていたことを聞いた。


「ルクス。これって、有り得るの?」

「庶民と王子が結ばれる話が、ですか?」

「いや、そっちじゃなくて、黒階位の女性と、白階位の男性が結婚する、って話」


あぁなんだ。と落胆にも見えるような、意外なことを聞いたというような表情をするルクスに、私は軽く息を吐いた。

しかし、直ぐに魔術の話をする時の真剣な表情になったルクスに、私は耳を傾ける。


「結婚自体は階位に関係なく、契約や届け出によって、することができます。しかし、この物語の最後に描かれているように子宝に恵まれる、ということは難しいでしょう。子どもを宿すということは、女性の階位が重要になります。姫が黒階位ですから、赤、もしくは危険を承知で紫くらいまででしたら、許容量として触れることができるでしょうが、流石に黒と白では無理ですね」


なるほど。やはり、こういった物語に現実性を求めても仕方ない、というか面白みがなくなってしまうんだろうな。


「そう言えば、階位が低いのに、許容量が大きい人はいるの?」

「珍しいですが、いますよ。まぁ、オデット様ほど珍しくはありませんが」


そう言って微笑んだルクスに、私はそれもそうか、と頷いた。

やはり、白階位の人間は相当珍しいようである。




そうして休憩を終えた後は、魔力制御の練習の時間だ。


「今回は、ご自身以外の周囲の魔力を感知できるようになりましょう。オデット様は魔力結晶の針や、年齢計測器の魔力波の魔力は感知できていますから、これも直ぐにできるようになると思います」

「うん」

「それでは、まず私の魔力を感知してみてください。はじめは分かりやすいように身体を魔力で満たしてみますね」


ルクスはにっこりと笑みを浮かべて、そう言った。その髪は風もないのにふわりと揺れている。魔力で満たされているとそうなるのかな。


「触ってもいい?」

「はい。どうぞ」


私は差し出されたルクスの右手を取った。目を閉じて集中するが、分からない。自分の魔力は分かるのだが。


そう言えば、魔力結晶の針や魔力波は、私の魔力に別の魔力が接触していたから、その差を、境界を感じていたような気がする。

そう思い付いて、私はルクスの手を取っている私の右手の周囲に自分の魔力を広げてみた。


「ん?」


ルクスの右手がある部分だけに、魔力が通らない。

これは昨日の魔力制御の時にも感じた感覚だ。

その輪郭を辿り、形と大きさをなぞる。これがルクスの魔力なのだろうか。


「ルクス。魔力を動かしてみて欲しい」

「はい」


ルクスの魔力だと思われる何かにぶつかるような遮られる感覚は、ルクスの身体の中心に向かって行った。しかし、魔力がなくなったはずの、ルクスの右手には魔力が通らないままだ。


取り敢えず、ルクスの魔力を追って、私は右手から中心に自分の魔力を動かす。私が追い付いたところで、ルクスの魔力は中心から左手に向かって行った。


「お分かりいただけましたか?」

「多分?」

「それでは、私がこの部屋の色々な場所に魔力を移動させます。その場所を当ててみてください」


私は目を閉じたまま、部屋全体に意識を向けて、薄く周囲に魔力を広げた。

そうすると、昨日までは気にしていなかったが、幾つもの別の魔力を感じて、驚きの声を上げてしまった。


「え」

「どうしましたか?」

「分かったかも?」


私は目を開いて、別の魔力を感じた場所を確認する。

そこにはカルメやジュネ、ルクスやジュネの護衛たちの位置とぴったりと重なっていた。


そんな私の様子を見て、ルクスは私が何に気付いたのかが分かったのだろう、褒めるような微笑みを浮かべた。


「それでは、始めますね」


そう告げると同時に、私は背後に魔力を感じて、驚いて振り返る。

凄い。全然、移動させている間を感じなかった。

突然、魔力が現れたような感覚に、私は興奮してルクスを振り返った。


「ふふふっ。正解です」

「ルクス、凄い!」

「ありがとうございます。位置は問題なく把握できているようなので、今度はその量を当ててみてください」


いつの間にか背後の魔力は消えていて、今度は扉の近くにルクスの魔力を感じた。


「2000?」

「はい。それでは、次です」


勘で言ったのだが、合っていたらしい。

自分の勘を褒めるべきか、適当に言ったことを反省するべきか。

と思っているうちに、今度は足元に魔力が現れた。今度はキリの良い数字ではなさそうだ。


「1225?」

「惜しいですね。1223です」

「これくらいが、1223ね」

「はい。では、次です」


何回か練習を続けて、私は正確に素早く、魔力の位置と量を当てることができるようになっていった。


「最後に、これは?」

「1076」

「お見事です。そして、こうして内側に収めると?」

「分からなくなる」

「そうです。戦闘時にはこうして自分の魔力量を隠したり、逆に外側に溜めておくことで魔力量を偽ったりすることもできます」

「なるほど」


内側と外側の境界をはっきりさせる練習した時にも聞いた話だが、こうして別の魔力を感知できるようになってから、改めて考えると、内側に魔力を収めるというのは重要なことな気がする。変装や戦闘で大いに役立つだろう。


「お疲れ様でした。昼食にしましょうか」

「うん。ルクスもお疲れ様」



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