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55.可愛さと練習


「い、いえ…………その、私もオデット様のお力になれて嬉しいです」

「私もルクスに何かしたい。ルクスは何をして欲しい?」

「オデット様が、お側に居て下さるだけで十分ですよ。オデット様がいらっしゃってから、毎日がより楽しく感じるようになりました」

「でも…………」

「オデット様も私と同じ気持ちなのでしょう?」

「うん。でもやっぱり、私ばっかりしてもらってるだけだと、私が重さに耐え切れないよ」

「今は仕方ないと思いますよ。オデット様がご成長されれば、今よりも重さに耐えられるようになりますし、できる事も増えて返すこともできるでしょう」

「うん。じゃあ、今はこれだけ」


私に目線を合わせるように跪いてくれているルクスに近付いて、囁くようにそっと告げた。


「オデット様?」

「ルクス。大好き」

「っ…………」


どうかな?伝わったかな?


そっとルクスの顔を窺うと、ルクスは頭で必死に今の言葉を理解しているのか、呆然としてから、段々と顔を赤らめた。


そんなルクスの様子を私はどこか感動を覚えながら見ていると、ふとぱちっとルクスと目が合った。



あっと思った瞬間には、ルクスはしゃがみ込むようにして、顔を隠してしまった。


やっぱりルクスは可愛い。


そう思ってしまった私は追い打ちをかけるように、ルクスに話しかける。


「ルクスは私のこと、好き?」

「…………はい。大好きです」


消え入るような声だったが、しっかりと私の耳に届いたその言葉に、私は嬉しさと喜びと興奮と高揚といった色々な感情で、頬が緩んでしまうのを感じた。


しかしそこで、好きではなく、大好きだと言ってくれたルクスに、私は何故か負けず嫌いのような反骨精神のようなものが出て来てしまった。


「私もルクスが大好き!」

「っ…………」


私の言葉にルクスは両手で顔を覆ってしまった。その耳や隙間から見える頬は当然真っ赤だ。そんなルクスに私は勝利を確信した。


やった、私の勝利だ!


そう思った私は、それまで生暖かい雰囲気で私たちを見守ってくれていたジュネとカルメに宣言した。


「ふふふっ。勝ったよ」

「はい。オデット様の勝ちですね」

「オデット様は流石です。ルクス様に早速勝利されるとは」

「ありがとう。ジュネ、カルメ」


何とか呼吸を整えて、表情を取り繕うとしているルクスの横で、ルクス様可愛い談義をする。その話を又聞きしたルクスは、再び取り乱した。そんなルクスを見て、私たちの可愛い談義は更に盛り上がる。



私たちがルクスにわざと聞こえるように話している、とルクスが気付くのは更に数分後だった。



ナントカ子爵。

いや最初から名前を覚える気がなかったので、心の中で適当にそう呼んでいるだけなのだが。


取り敢えず、子爵からの聞き取りと対面という調査は終わった。


ルクスとしては予想の範囲内の勝利のようだ。

今後の陛下からの接触の可能性などを考えると気分が沈むが、一応、一段落だ。



その後、ルクスに思いを告げたり、告げられたり、揶揄ったりして、それらが落ち着いたところで、私たちは昼食に向かった。


ルクスには疲れた表情で恨みがましい視線を向けられたが、私がもう一回する?と言うと、慌てて顔を背けていた。

それがやはり可愛くて面白いので、今度は別の方向から揶揄ってみることにした。


「ごめん。私が言い過ぎた」

「オデット様?」

「ルクスは気を遣って、そう言ってくれたんだよね。私、調子に乗ってたみたい」


眉を下げて、悲しげな表情を見せて、そう言うと、ルクスは慌てて首を振った。


「いえ、そのようなことはありません!私が先程申し上げたことは全て本心です」

「ふふふっ。ありがとう」

「オデット様~!」

「ふふふっ。ルクスは可愛いよね」


ルクスの言葉が嬉しくて、やっぱり頬が緩んでしまう。


私がにんまりとした表情をしていることに気付くと、ルクスははっと我に返って、自分は何を言っているんだろう、と呟いた。まぁ、私が言わせてるんだけどね。



ふふふっと、にやにやしながら、ルクスを見ていると、ルクスはまた恨めしそうな目で私を軽く睨んだ。


頬を赤らめた状態で、若干涙目になって、睨まれても全く怖くないのだけれど。可愛いな。



そんなぬるま湯のような空気で昼食と食後のお茶を終えた私たちは、ルクスの執務室に戻った。そのまま、私とカルメは隣の小会議室でお勉強、ルクスたちは執務だ。



私は覚書の紙とペンとインクを用意して、カルメが持って来てくれた本を手に取った。


一冊目の題名は『平面と立体』。

どういうことだろう、と中を開いてみると、広さや大きさを求める計算方法が書かれていた。


なるほど。ここの部分の数字とここの部分の数字を掛けると広さになるのか。

そうして新たな知識を得て、本に書かれていた練習用の計算問題を解いた。カルメに答えを確認してもらってから、次の本を手に取った。



次は『平面と立体2』。

続きがあったのか。同じ分野で続きの話と雖も、内容は目新しいものに感じる。球体や結晶のような形の体積や表面積を求めるという内容だった。


なるほど。ここでこうして分けて考えれば、求められるのか。そうして再び練習問題を解いて、カルメに合格を貰えたところで、休憩することになった。



執務室に戻ると、ルクスたちはまだ仕事中のようだ。まぁ、午前中はナントカ子爵の応対をしていて、あまり仕事には手をつけていないようだったからなぁ。


先に休憩を始めて、ゆっくりとしていると、突然、ルクスががたりと音を立てて立ち上がった。


「オデット様。終わりました!」

「うん。お疲れ様」


期待と興奮を目に浮かべて、こちらに足早に寄ってくるルクスの勢いを、私は慈愛の微笑みを浮かべて受け止めた。


「はい。オデット様もお疲れ様でした。それでは早速、魔術の練習をしましょう」


当然のようにそう告げたルクスに私はと首を傾げた。


ん?今、仕事が終わったばかりだよね?休憩はしないのだろうか。


そう問いかけると、ルクスはやや見当違いの返答をした。


「オデット様はもう少し休憩なさりたいですか?」

「いや、私のじゃなくて、ルクスの休憩は?」

「私は問題ありません。それよりも、オデット様の練習時間が減る方が問題です」


至って大真面目な表情でそう告げるルクスを見て、私はこれは大丈夫なのだろうか、とジュネに視線で助けを求める。

しかし、ジュネには首を横に振られてしまった。


あぁ、駄目か。仕方ないな。ここは流れに乗って練習を始めよう。


ルクス本人が何より楽しそうで、息抜きになっていそうだから、私が休憩を強制するまでもないよね。そう思って頷くと、私の前の長椅子に座ったルクスは説明を始めた。


「前回は、身体の周囲や部屋全体を魔力で満たしました。今回はそれを一か所に発現させるようにしましょう。私が色々な場所に空の魔石を持っていくので、その魔石にだけ魔力を込めて下さい」

「うん」


私が頷いたのを見て、ルクスは腰に付けている小さな鞄から空の魔石を取り出した。


目の前に掲げられたそれに、私は線で繋ぐように魔力を伸ばして、魔力を込めていった。満杯になったところで、ルクスが頷いたのを確認して、私は魔力を回収した。


「もう少し練習しましょうか。まだ霧散してしまっている魔力が多いようです。大体の感覚で魔力を操作するのではなく、視線で射抜くように、より正確に繊細に操作してみてください」

「分かった」


私はルクスに助言してもらった通りに、はっきりときっぱりと自分の魔力とそうではない部分を区別して、魔力を込めた。


ふわりと煙を中に入れるような、水を入れるような、火で満たすような、霧のような魔力操作ではどうしても零れてしまう魔力がある。


しかし、線を引いたように、物と物の境界のように、自分の魔力がある場所とない場所を明確に意識すれば、零れて霧散してしまう魔力は格段に少なくなり、満杯にするために必要な魔力量が減った。




それから数回、魔石の位置を変えて、魔力を込めて、回収してを繰り返した。


「それでは、これはどうでしょう」


ルクスは魔石を包み込むように握った。ルクスの掌に収まってしまう程の小ささの魔石は、ルクスの手にすっぽりと収まってしまい、こちらから見ることはできない。


魔石の位置は分かるが、状態が見えない。だが、込める量は今までと同じで良いだろう。そう考えて、その位置にだけ魔力を込めた。


ルクスの手がある部分には物に弾かれたように魔力が通らなかったので、指の隙間から霧や水のように魔力を入りこませて、魔石の位置に収束させた。



私が魔力を込め終わったのを見て、ルクスは握っていた手を開いた。

そこには、今までと同じように私の魔力に染まった魔石があった。

そして、ルクスはもう一度、手を握った。私は同じようにして魔力を回収した。




その後は、移動している魔石に魔力を込める練習になった。


ルクスの背や手、長椅子や人に隠れていたり、歩きながら、魔石を持つ手を動かしながらだったりしたが、視線で追える限りは視線で射抜くように、追えない時は減速した瞬間や軌道を予測してその位置に魔石が来た時、といった一瞬で魔力を込めるようにした。



私が速さに慣れてきたことを感じたのか、ルクスは更に速くすると言って、護衛のリグネウスの名を呼んだ。


ルクスの呼びかけに応えたのは、普段は無口で無表情なルクスの護衛だ。

扉の側に立っていたリグネウスはこちらに来て、ルクスから数歩離れた位置で立ち止まった。


「魔石を投げるので、受け取ってから、投げ返して下さい」

「承りました」


先程までは、ルクスが右手から左手にぽんっと投げたり、上にぽーんと投げていただけだが、今度はリグネウスに向かって投げるようだ。



私は魔力を込める心構えをしながら、ルクスの体勢を見て、軌道を予測する。


あの構えは、下から斜め上に向かって、弧を描くように投げるようだ。であれば、少し上の空中で、魔力を込めよう。



そう考えていると、ルクスが不意に魔石を投げた。概ね予想通りの位置に来た魔石に魔力を込める。そしてリグネウスの手に渡った魔石は色を変えていた。



そして今度はリグネウスが魔石を投げる。私は魔力を込めた時と同じ要領で魔力を回収した。ルクスの手に渡った魔石は、空になっている。



それを見たルクスはにこりと笑みを浮かべて、構えを変えた。下からではなく、上からほぼ直線に魔石を投げるようだ。先程より宙にある時間は短いが、軌道の予想範囲は狭くなる。



ルクスが投げ、私が魔力を込め、リグネウスが受け取る。

リグネウスが投げ、私が魔力を回収し、ルクスが受け取る。


段々と速度が速くなっているが、突然ではなく段階的なので、私は難なく魔力を操作できている。


「っ、ふう。ここまでですかね。リグネウス、ありがとう」


意外と運動になっていたのか、ルクスは少し息を乱している。

対するリグネウスはいつもと変わらない表情だ。


ルクスも直ぐに息を整えて、長椅子に座り、お茶を手に取っている。

リグネウスは会釈をして、再び扉の側に立っていた。



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