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50.年齢計測


ルクスの口から出たのは、魔力制御の話ではなかった。そのことに驚き、そして、それは何だろうと聞き返す。


「年齢計測?」

「はい。私の研究室に計測器がありますので、これから向かいましょう」

「う、うん」


ルクスは説明をするのではなく、急かすように、お茶を飲み干して立ち上がった。私もそれに頷いて、立ち上がる。




ルクスに先導されて着いた部屋は、ルクスの研究室の中の実験室だ。


ルクスの研究室に来るのはこれで三回目だが、この部屋に入るのは初めてだ。

実験室は、応接室よりも色々な物が雑多に置かれていた。


「オデット様は、そちらの長椅子に横になってください。あ、ディグセは解除して、机の上に置いておいてくださいね」

「うん…………カネラ」


私は言われた通りに、ディグセを解除して机に置き、長椅子に横になった。


寝るには狭いが計測をするだけならば十分だろう。

実験室に寝台があるわけがない。長椅子があるだけでも十分だ。

それに研究室の中には仮眠室もあるので、尚更、この部屋に寝台はいらないのだろうな。


そんなことを考えながら、長椅子に横になって待っていると、ルクスは何かの機械が乗った台車を押して来た。

それを私の側で停めると、機械から線で繋がっているクリップを取り出した。


「少し失礼しますね」


ルクスは私の両手首と両足首に服の上からクリップを取り付け、やや左寄りの胸の上にクリップではないが、線が繋がった魔石のような物を置いた。


「オデット様。これから計測を始めますが、違和感や不快感、人によっては雷に打たれたようだとか、身体が浮き上がっているようだと言う人もいますが…………取り敢えず、そのような感覚があると思いますが、危険はないので、そのままの体勢で少し我慢してください」

「…………うん」


いきなり不穏なことを言い出したルクスに、私は少し身構えてしまう。


事前に説明してくれるのは有難いのだが、その説明で余計に不安になってしまっているのだ。

果たして、本当に大丈夫なのだろうか。これから、何が起こるのだろう。


そう不安に思っていることが顔に出ていたのか、ルクスは眉を下げて、申し訳ございません、と言って、機械を操作した。


まぁ、どうにもならないことで必要なことなのであれば、仕方ない。そう思って私はルクスに頷いた。


私の心の準備が出来たのを見て、ルクスは機械を作動させた。


「わっ」


ルクスが言っていた違和感というか、不快感というか、妙な感覚は直ぐに訪れた。

身体や頭を振り回されているような感覚。いや、中身だけを揺さぶられているような感覚。


これは何を揺らされているのだろう。

そう思って、自分の身体の感覚を研ぎ澄ましてみる。


そこで気付いた。これ、魔力だ。


私の魔力の本体というか、魔力の源というか、魔力そのものを揺らされている。


それにこの違和感というか、不快感というか、この異物感は、魔力結晶の針を刺された時の感覚に似ているから、これも魔力だ。



つまり、外部の魔力で私の魔力を揺らしているんだな。なるほど。


そこまで気付いたことで、私はその揺れに身を任せることにした。

何というか、抗った方が、疲れるだけな気がする。


感覚としては、一分ほど揺らされたところで、ルクスが声を上げた。


「はい。終わりです」


ルクスが機械を停止させた。波のような揺れは収まったが、私は見事に気持ち悪くなっていた。


「…………ルクス。気持ち悪い」


私がそう呟くと、ルクスは私の前に片膝をついて、私の胸に手を当てた。

私の魔力の状態を診ているのだろうか。


「…………オデット様は魔力量が多く、年齢も若いですから、魔力が揺れやすいのです」

「あれは、魔力の、波?」

「っ!よくお気付きになられましたね。そうです。魔力波を当てることによって、その定着具合を計っています。揺れている魔力を、いつもように制御してみてください。そうすれば、早く揺れが収まるでしょう」

「うん…………収まってきた」


ルクスの助言の通りに、身体の中でゆらゆらふらふらとしていた魔力を、いつものように抑え込むように動きを抑えた。


そうすると、不快感や気持ち悪さも段々と薄れていった。



私が魔力を制御している間に、ルクスはクリップを取り外して、機械を片付けていたようだ。


「それでは、応接室でお休みになっていてください。私は結果を算出してきます」

「うん」


私は起き上がってマスキを着けて、隣の応接室に戻った。

ジュネがお菓子を、カルメがお茶を用意してくれた。

ルクスがこちらに戻るまで、三人でお茶をする。


「オデット様。ご気分は問題ありませんか?」


心配そうな表情でそう告げたカルメを見て、私は頷く。

カルメは年齢計測でこうなることを知っていたのだろう。


「今は大丈夫だよ。さっきまでは気持ち悪かったけど」

「それは恐らく、魔力波に酔ってしまわれたのでしょう」


カルメが告げた言葉の言い回しに違和感を覚えた私は聞き返す。


「酔った?お酒みたいに?」


酔うと聞いて思い浮かぶのは、これしかなかった。

この感覚を酔うというのだろうか。よく分からないな。


そう思って首を傾げていると、カルメはふふっと笑みを零した。


「そうですね。お酒や船、馬車などで揺れるような気持ち悪さを感じることを、酔うと言います。お酒の酔い方は人それぞれですが」


なるほど。そうなのか。

確かに揺れるような気持ち悪さを感じていたので、あれは酔っていたのだろう。

しかし、今はもう大丈夫だ。酔っていない。


「うん。酔ったけど、治したよ」

「治した、ですか?」


治してもらったでもなく、治ったでもなく、治したと言った私に、カルメとジュネは不思議そうに顔を見合わせる。


「ルクスに教えてもらった通りに、魔力を制御したら、治せたよ」

「なるほど。そのようなことまでご存知とは、流石ルクス様です」


ルクスの助言のお陰だったのかと感心するカルメに、そんなことまで知っているなんて、どれだけ魔術が好きなんだ?と呆れた表情をするジュネ。


そんな二人を見て、私も気持ちは分かると頷く。

まぁ、ルクスはあの機械の仕組みも分かっていそうだったし、対処法くらい知っていて当然なのだろう。


「そう言えば、ルクス様、遅いですね」

「結果を算出する、って言ってたよ」


機械の片付けは既に終わっても良い頃では?と首を傾げるジュネに、私はそうではないと首を振る。

そんな私の言葉を聞いて、ジュネは訝し気な表情をした。


「算出?年齢を計測する機械には、確か、年齢早見表が付いていた筈ですが…………」

「早見表があるの?」

「はい」

「…………恐らく、ルクス様はご自身で計算したいのでしょうね」


何故、早見表を使わないのか。その理由を何となく私とジュネは察していたが、カルメも同じことを考えていたようだ。三人で顔を見合わせて、溜息を吐く。


まぁ、やりたいのであれば好きにやれば良いと思う。それにジュネが止めに行かないのであれば、このまま好きにさせても大丈夫だということだと思うし。


「ちょっとだけ、そうなのかな、って思ってた」

「そうなんですか?」

「結果を算出するって言った時のルクスの表情が楽しそうな顔だったから」

「それは、そうでしょうね。目に浮かびます」


早見表の有無は兎も角、算出すると言った時のルクスの楽しそうな嬉しそうな表情を見る限り、魔術に関係することができて嬉しいんだろうなと思った。計測だけでなく、算出もルクスを楽しませる部分があるのだろう。


何となく、あぁ、自分でやりたいんだな、と感じ取ったことを話すと、ジュネは諦観の眼差しで頷いた。もはや悟りの境地に達していそうだ。


ルクスが魔術に関係する何かや魔術そのものに接している時の表情は案外分かりやすい。それはジュネたちにもそうらしい。




ルクスがそのまま、何かを研究し始めたりしていないよな?という心配が頭を擡げた頃、実験室へ向かう扉が開き、紙を手にしたルクスが現れた。


その表情は現在進行形で楽しいのか、楽しかった余韻なのかは分からないが、緩み切っている。


「オデット様。結果が分かりましたよ」

「どうだったの?」

「はい。オデット様は7歳と336日目でいらっしゃいます」

「7歳?」

「はい。お誕生日は1月1日です。今日が12月2日ですから、あと一か月ほどで8歳を迎えられますよ」

「7歳…………」


もう直ぐ誕生日だという情報よりも、自分が7歳であるという衝撃の方が強かった。



ルクス。前に10歳くらいとか言ってなかったっけ?全然10歳じゃないんだけど。



勝手に10歳くらいだと思っていた私にとって、そうではなかったということは、え、違うの?という戸惑いを齎した。



いや、まぁ、別に10歳じゃなかったからと言って、何か不都合があるわけではないんだけどね。

ただ意外だっただけだ。それとも、ルクスたちから見れば7歳も10歳もあまり変わらないのだろうか。


いやでも、ジュネとカルメは少し驚きに目を見開いているから、やっぱり違いはあるよね?



そんな戸惑いを私はルクスにそのままぶつけてみることにした。


「ルクスは、どう思う?」

「そう、ですね。魔力制御の習得の早さや、理解力は7歳以上に見えますが、常識や生活に関する知識といった面では年齢相応かそれ以下に見えますね」

「うーん…………」


その辺りは、記憶がないことも影響しているのだろう。

記憶があって常識があれば、7歳以上に見えるってことかな。

やはり、なるべく早く、ここの常識を身に付けたいな。


そう思って唸っていると、ルクスは私に目線を合わせて、柔らかく微笑んだ。


「人に得手不得手があるのは普通のことです。これから良いところを伸ばし、悪いと思うところは改善していけば良いのです」

「うん」


私の焦る気持ちを宥めるようなルクスの声音に、私はほっと息を吐いて肩に入っていた力を抜いた。


そうだった。これは誰にでも当てはまるような普通の話なのだ。


できることはもっとできるように。できないことはできるように。


ただそれだけだ。年齢は成長の目安でしかないのだから。


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