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49.魔力を出す


「オデット様。お疲れ様です。如何ですか?」

「お疲れ様。問題ないよ。あれはルクスの本?」

「はい。実家に残っていた物を送ってもらいました。普通は下の兄弟や親戚の子どもに譲るものなのですが、私にはそのような縁がありませんでしたから、オデット様のお役に立つのであれば、嬉しいです」

「ありがとう。本はどれくらいあるの?」

「数えたことはありませんが、オデット様のお部屋の書斎の書棚が一杯になるくらいはあります」

「凄いね」

「カルメに選んで持って来てもらっていますから、オデット様は順序を気にせず、存分にお読みください」

「カルメも凄い?」

「はい。ですが、カルメが分からない部分があれば、私がお教えいたしますよ」

「…………ルクスはもっと凄いんだね」


ルクスは魔術以外の勉強も好きなようだ。

カルメを褒めると、自分も褒めて欲しそうな表情をしたので、微笑んで褒める。

うん、やっぱり、ルクスって可愛いよね。



それにしても、それほど大量の本を持っているということに改めて、ルクスが貴族なのだと感じてしまう。

しかも、家で所有しているのではなく、個人の物だと言うのだから、凄い。本の価値は分からないが、大量の本をぽんと気軽に貸してくれるところが、既に凄い。



休憩を終えた後は、ルクスの魔術の授業だ。こちらは実践も多く、私が知らないということが分かっているため、授業の形式は変わらないらしい。


「それでは、本日は魔術の行使の際にも必要になる、魔力を出す練習をします」

「出す…………一度に?」

「はい。これについては様々な考え方、やり方があります。勘で使用する人もいれば、自分で仮定して使用する人もいます。私の場合は、注ぐことの応用ですね」

「…………注ぐ時間を短くする、ってこと?」

「そうです。オデット様は、既に五秒以内にほぼ全力を出すということは出来ていますから、その量や力加減、早さを制御出来るようになれば良いのです」

「マスキの時は全力じゃないの?」

「意識して全力を出すのは、かなり難しいです。動物は無意識に生命維持に必要な魔力を残しているものですから、本当の全力を出すということは通常では起こりにくいです」

「へぇ」


本当の全力を出す状態というのは、怒りや恐怖で理性が失われている時や、魔力が暴走した時など、普通では起こらない状態のことが多いらしい。


本当の全力を出す状況は、命の危険がある時が多く、本当の全力を出せば、命の危険があるというのだから、どちらが先であっても、危ないということだけは分かる。


魔力が暴走するということがどういうことなのかはよくわからないが、何だか危なそうなので、自分がそんなことにならないように祈るばかりだ。


「それでは、まず5000を10秒以内に出してみましょう」

「うん」


5000ちょうどというのは難しい気もするが、まずはやってみよう。


私の目の前には計量カップと砂時計が用意された。この砂時計は1秒刻みで5秒から10分まで計れる物らしい。


私は計量カップに指先を当てて、ルクスを見る。私の視線を受けたルクスは、砂時計を持つ手を裏返した。


取り敢えず、4000くらいまでは勘で、そのくらいだと思う量をだばっと注いだ。


これは完全に勘なので、ルクスが言っていた勘で使用する人の方法に近いと思う。

そして魔力の流れる速度は緩めずに、段々と注ぐ量を減らす。


魔力制御の練習をしているうちに、魔力を細かく動かせるようになっていきているので、1刻みの調整も、以前よりは楽にできるようになった。

5000になったところで魔力を止めて、ぱっと砂時計を見ると、ちょうど砂が落ち切ったところだった。


「ぎりぎり?」

「はい。成功です」


ルクスは手早く、中級の魔力回復薬を作って、私に手渡してくれた。私はそれを一気に呷り、カルメが差し出してくれた水も飲み干した。


「それでは2000を5秒にしてみましょう」

「うん」


更に短くなった制限時間に、私はふと考える。


今日は、一度に出す練習だ。このまま、どんどん制限時間を短くして、一度に出すことができるようにしていくのだろうが、これは注ぐことの応用とは言え、最初の勘の量が重要になってくる。


そこで思い出したのが、一昨日の魔力を一定量に保つ練習だ。


私は今、内側から身体の外に直接注いでいる。それはこれまでもそうだった。


しかし、境界が二つあることを知った私は、それを使えるのではないだろうかと思った。

つまり、内側から外側に必要な量だけ出して置いて、ルクスが砂時計をひっくり返してから、その外側にある魔力だけを身体の外にだばっと出せば、一度で出せるのではないか、ということだ。


それをするには、まず内側から外側に出しておく魔力量を精確にする必要があるが。それでも、制限時間外の体内の魔力操作を禁止されているわけではないし、練習すれば内側から外側に一度で必要な魔力を出しておくことができるようになるから、身体の外に出す練習と変わらないことができるようになると思う。


私は2000より少し少ないと思う量を内側から外側に出しておいた。そしてルクスが砂時計を返した瞬間に、それを身体の外に出し、その上で、少し足りない量を追加して調整した。


2000になったところで砂時計を見ると、あと1秒、と言ったところだった。


成功だ。そう目を輝かせた私を見て、ルクスは輝かしい笑みを浮かべた。


「オデット様。今、用意していましたね?」

「分かる?」

「はい。しかし、その方法も一つの手です。体内の魔力操作までは禁止していませんからね」


ふふんと得意げな笑みを浮かべてしまい、私は慌てて表情を取り繕った。

しかし、ルクスは私の自慢げな笑みをしっかり見ていたようで、それでは、と悪戯を思い付いた時ような悪い笑みを浮かべた。


ささっと下級の魔力回復薬を作ったルクスは、私に回復薬を渡して席を立った。


私は渡された回復薬を飲み、水を貰い、回復する魔力を制御した。その間に、ルクスが持って来たのは、お馴染みの黒い石板だった。


「オデット様は溜めることができるのでしたね。であれば、最初からこちらを使用していた方が楽でしたね」

「身体の外には出さない?」

「はい。内側から外側に、必要な量を正確に出すと言うことができるようになれば、魔力を出すということもできるでしょう。魔力量の感覚を覚えましょう」

「うん」


良かった。この練習だと、不味い魔力回復薬を飲む必要も、作る手間も省くことができる。うん、こっちの方が良いな。


「それでは、1100だと思う量を一度で溜めてみてください」

「うん」


私は石板に手を置いてから、内側の魔力を外側に出した。値は1078。


「1100まで外側に出してみてください」

「うん」


私はそのまま、少しずつ外側に魔力を注いで、1100まで溜めた。


「今溜めている量が1100です」


私は先程の1078の時の感覚と比べて、1100の量の感覚を覚えた。そして、また内側に魔力を戻して、0にする。


私が0にできたのを見て、ルクスは次の課題の値を告げた。


「次は214です」

「これくらい…………212か。もう少し、これくらい?」

「はい」


それから何度か、ルクスに言われた量の魔力を溜めたり戻したりして、私は魔力量の感覚を掴んでいった。


「それでは次は167です」


167は100と50と10と5と1と1。うん、できた。そうして石板を見ると、目盛りは167を表していた。


「はい。出来ていますね。それでは次は…………」


更に何回か練習したが、その全てで私は一度に課題の量を溜めることができるようになっていた。そんな私を見て、ルクスは感心して頷く。


「素晴らしいです。これほど早く身に付けてしまわれるとは。何か、良い方法を思い付いたのですか?」

「1と5と10と50と100と500と1000と5000を覚えた」

「なるほど。それを足したり引いたりしているのですね。本当に素晴らしいです」


ルクスは満面の笑みを浮かべて何度も褒めてくれた。

その笑みを見て、私も嬉しさから自然と笑顔になっていた。


しかし、そんな私たちの横で、ジュネとカルメが唖然としたような険しい表情でいたことには気付かなかった。



こうして、精確な量の魔力を出すということができるようになった私は、昼食のためにルクスたちと食堂に向かった。昼食からは普通の食事で、私はウィテハが担当したと思われる昼食を完食した。


何だか、魔力を操作するのには、気力と体力を使う気がするんだよね。ご飯をしっかり食べて、回復しておかないと。




食後のお茶も終えて、ルクスの執務室に戻った私は、小会議室に入り、カルメが選んでくれいた本を読んで勉強する。


午後に読んだ本は計算についてだった。

前に教えてもらった掛けると割るについても分かりやすく書かれていた。

練習問題が書かれていたので、それを解いてカルメに答え合わせをしてもらった。

そして、式の書き方、0より小さい数、0と1の間の数の表し方といったことも説明されていた。


私は、なるほどね、そういう風に考えるのか、と理解しながら本を読み終えた。

最後にカルメから確認問題が出された。

それを難なく解いて、カルメが合っていると頷いたのを見て、私はほっと息を吐く。


「それでは休憩に致しましょう」

「うん」


私は沢山の数字が並んだ覚書というか、計算用紙のような紙たちを片付けて、ルクスの執務室に戻った。


ルクスはとうに仕事を終えていたようで、長椅子に座って、手紙のようなものを読んでいた。

私が執務室に戻って休憩を始めたのを見て、ルクスは紙を片付けて、一緒に休憩を始めた。


どうやら、私が来るのを待ってくれていたようだ。

しかし、ルクスは早く魔術の授業を始めたいのか、ちらちらとこちらを窺ってくる。


そんなにあからさまに見られると、話を振らない訳にはいなかいだろう。


私は可愛いなと思う気持ちと呆れを飲み込んで、素知らぬ顔で首を傾げた。


「ルクス?」

「オデット様。年齢計測をしましょう」



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