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43.収集癖と物語(閑話)

今回は閑話です。


俺はコレティオ。


魔術の中心地、マギシアで、文具店を営んでいる。


ここ、マギシアには魔術具、もとい様々な道具を売る店が並んでいる。

通常の道具もかなり高い品質で売られているが、特に魔術を使用した道具は群を抜いている。



それは一重に職人の技術の高さ故だろう。


高い技術を求めて、多くの職人が集まり、多くの職人が集まるからこそ、その技術の進歩は目覚ましい。

そんな地に店を構える俺も、その端くれだ。



まぁ、俺の場合は、その技術の高さというよりも、その品質の高さを求めて来た。


品質というのは、勿論、文具の素材の品質だ。


そして、高さというのは、金銭価値は勿論一つの指標だが、そうではなく、希少価値の高さだ。


希少価値が高い物、つまり数が少ない物には、物語がある。

それはその物が生まれるに至った経緯だ。




そう、俺は物語が好きなのだ。

その素材に含まれる物語、その素材と人との繋がり、それらが好きなのだ。



そして、今日も俺は一つの物語を知った。


それは、懇意にしている革職人に教えてもらった。

とある牧場で生まれた白銀の子牛の話だ。


そして、その魔石は希少価値が高いながらも、利用価値は低く、牧場主が持て余していることも知った。

その話を聞いた俺は、すぐさま、その牧場に向かった。

そして、運よくその魔石を入手することができたのだ。



早速、店の奥にある工房に籠って、魔石を加工する。


大きさはあまりない。この色を出すにはファイルが最適かと思ったが、それ程の大きさはない。


かといって、小さなファイルにするのはもったいない。


いっそ、そのままの素材を活かして、ペーパーウェイトにするか、と思っていた時、ふと走り書きに使っているペンが目に入った。



そうだ、これだ。


それから俺は、長さ、太さ、魔石を切り出す部分、角度、それらを紙に書きながら頭で思い描いた。


よし、できた。あとはこの通りに、魔石を加工する。


そうして、半日ほどかけて、一本のペンが完成した。



白銀の侵食を受けながらも、子を育て続けた赤牛。


その魔石は、深い赤色を宿した白銀の魔石にも見える。実際には逆なのだが。


白銀の部分と暗い赤の部分で、硬さや使用する道具が変わる。


その見極めや配分が難しかったが、実にやりがいのある仕事だった。

後は、どんなお客の手に渡るかだ。



そして、数日後、その相手は現れた。


ルクス様は、こんな風に気軽にやって来たが、ここマギクの頂点とも言えるお方だ。

実際は王家の直轄領なので、領主は別にいるが。



そんなルクス様が丁寧な態度で連れて来たのは、一人の少女。

マスキを使用しているようだが、恐らく高階位。


表情は乏しく、口数も少ないが、発せられる言葉からは賢さが伝わってくる。



そんな少女のためのルクス様からの注文を受けて、俺は隣の作業室に入った。


一仕事を終えて、ルクス様たちを探しに、店の商品棚の方へ行くと、二人は例のペンの前で立ち止まっていた。


ルクス様の硬い表情を訝しく思いながらも、その魔石の由来を話す。



すると、ルクス様は固まってしまった。そんな彼を見て、少女は意を決したように声を上げる。


「ルクス。私、このペンが欲しい」

「オデット様…………?別に、お好きな、色を選んでも」

「私がこのペンを大切にする。…………私が大切にする。だから、お願い」


その少女の言葉を聞いて、俺は目を瞠った。


その少女はまるでその物の行く先全てに責任を持つというような、そんな重い言葉を理解していて言ったのだ。


ルクス様もそれを理解されたのか、嬉しそうな声でありがとうございます、と言っていた。


その声が震えていた理由を俺は知らない。

そこにはまた別の物語があるのだろう。

そして、その物語をこの少女は知っているのだ。

知っていて覚悟の上で言ったのだ、大切にすると。


俺は、素材の物語を知るのが好きだ。

各地から仕入れる素材の物語を求めている。


そして今、目の前で、物語の一つを知ることになった。

それは、人伝で聞いていきたどんな話よりも、俺の心を揺さぶるものだった。


「しかし、オデット様の手を片時も離さず握っていらっしゃるルクス様はさながら父か兄のようですな」


そんな二人を見送って、俺はまた仕事に取り掛かった。

そこには、新しい物語が待っている。


そして、あのペンも少女と共に人生という壮大な物語を経験することになるのだろう。



次話は閑話となります。

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