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39.文具屋


人が多く、沢山のお店が並んだ大きな通りを進んで行くと、お店の数が減り、人の数も減って来た。


その代わり、一つひとつのお店が大きくなり、道に面したところで何かを売っているお店はなくなってきた。小さめの建物のお店が並んでいる。


そして更に進むと、建物が大きくなってきた。一つの建物にいくつかのお店があるようで、掛けられた看板や旗は一つではない。


そんな大きな建物の並びがふと途切れる。目の前には大きな道が十字に交差していた。


その十字のところで、私たちは右に曲がって、また少し歩いた。



そして私たちが立ち止まったのは、大きな建物の陰になるようにして建てられている、二階建てくらいの中くらいの大きさの建物の前だった。


石畳から数段の階段があり、大き目の扉がある。深い飴色の扉は協会で良く見るものと似ていたが、こちらの方がより色が暗いようだ。


四角い扉には四角い窓がついていたが、残念ながら、位置が高いので中の様子は窺えない。

左右には窓があるが、白い紗のようなカーテンが下ろされていて、中を見ることは叶わない。


ここは一体どんなお店なのだろう。吊り看板にはペンとインク瓶の絵が描かれており、下にトーリと書かれている。

それはどういう意味なのだろうと内心で首を傾げる。ペンとインク瓶ということは文具屋なのだろうか。


「オデット様。こちらになります」


ルクスに手を引かれて、私はお店に入った。


石造りの建物に入ると、扉にはベルがかけられていたのか、高めのカランとした音が、店内に響き渡った。

その音を背中で聞いて中に進むと、奥にカウンターがあり、ちょうど奥から人が出て来たところだった。


「こんにちは」

「これは、ルクス様。ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりました」

「本日は宜しくお願いします。オデット様。こちらはこのお店の店主、コレティオです」

「私はオデット。よろしく」

「はい。宜しくお願いします。オデット様」


ルクスに紹介されて、私はコレティオという男性に名乗った。

すると店主は微笑ましそうに、嬉しそうに目を細めて、頷いてくれた。



コレティオはルクスたちよりずっと年上の、私くらいの娘がいそうな年齢の男性だ。

ルクスたちより背は低く、体つきは普通だ。服は少し古びた深緑のエプロンをかけていて、その下は普通のシャツを着ている。

そして瞳の色はジュネに似ている黄緑で、髪色は緑みのある黄色。ジュネと同じくらいの色の階位だが、ジュネの方が少し明るい色合いだ。



「本日は急に来てしまい、すみません。オデット様がご使用される物を買いに来ました」

「そうでしたか。どのような物をお探しで?」

「まずは、覚書の紙を纏められる物をお願いします。…………そうですね。レールファイルにしましょうか。出来れば枚数が多いものを」

「それが良いでしょうね。既製品は50枚、100枚、200枚で、それ以外は特注品になります」


何と、私が使う物を買ってくれるそうだ。それも覚書を纏める物を、と言っている。

レールファイルとやらは分からなかったが、物の名前のようだ。それも既製品だけではなく、特注品もあるらしい。


何それ、どうするの、どうなるの、とわくわくした気持ちで二人の会話を見守っていると、ルクスが私の方を見た。


「オデット様。今、覚書の紙は何枚ありますか?」

「うーん。…………12枚、だと思う」


私は、覚書と日記を兼ねている紙束をそれぞれ思い出しながら、指折り数えた。私の返答に頷いたルクスは、コレティオとの会話に戻った。


「分かりました。それでは、120、いや150枚の特注品で、二つ、お願いします」

「畏まりました。表紙と裏表紙の素材は何になさいますか?付与、加工もできますが」

「…………檜か、杉ですね。」

「お色はどうなさいますか?」

「青か紫で考えています」

「それでしたら、檜の方が扱いやすいかと」

「そうですね。それでは檜のサリヴァ・ベルか、ベル・プルーレですね」

「材質としては問題ございませんので、後はお好みによりますね」


うーん、分からん。


表紙と裏表紙の材質で、檜と杉とかいう物で迷っているようだが、どちらも知らない言葉だ。

そして、サリヴァ・ベルか、ベル・プルーレというのが、青か紫系統の色なのは分かるが、実際にどんな色なのかは分からない。


「色見本はありますか?」

「はい。どうぞ」

「ありがとうございます。…………オデット様。こちらとこちら、どちらの色がお好みですか?」


コレティオネからいろんな色がついた紙の束のような物を受け取ったルクスは、二つの色を取り出して、私に向けて差し出すように見せた。


色としては青みのある紫と、紫みのある青。色の違いは分かるのだが、どちらの色も良いと思うし、どちらでも良いと思う。


「うーん…………どっちも良いと思う」


私が色を決めきれずにそう答えると、ルクスはそれを咎めることなく、あっさりと頷いて、微笑んだ。


「分かりました。この二色で一つずつにしましょうか。見分けがついた方が使いやすいですからね」


そう言えば、先程さらりと二つ買うと言っていたな。

色を決めきれなかった自分に少し焦ったが、ルクスは最初から二つ買ってくれるようだったので、少しほっとした。


「畏まりました。このお色ですと、三つまで付与できますよ」

「一つは空きでお願いします。こちらで付与しますから。あとは機密保持と保護をお願いします」

「少々お待ちください。…………本日はお時間はありますか?ちょうど、今は材料が揃っておりますので、お時間を頂ければ、直ぐにお作りできます」

「それでは、お願いします。部屋を借りられますか?」

「はい。大丈夫ですよ。因みに、一つ目の付与を伺っても?」

「魔力保護です」

「畏まりました。材料をご用意しておきます」

「はい。お願いします」


会話の流れからすると、その特注品を今日、これから作ってくれるようだ。

コレティオは失礼しますと一言断ってから、カウンターの奥に向かって行った。



そして、三つ、表紙と裏表紙に何かしらの機能を付与できるらしい。

一つは魔力保護、もう一つは機密保持、そして保護。

魔力保護と保護はどのように違うのだろう。

順番は関係あるのだろうか。



そんなことを考えながら待っていると、暫くして、コレティオが戻ってきた。

その手には、先程選んだ二色の色に染まった厚い紙のような物がある。


「お待たせしました。どうぞ、お入り下さい」

「はい」


コレティオに案内されて入ったのは、カウンターの横にある扉から入れる少々手狭な部屋だった。

私はルクスに手を引かれて入ったが、全員が入るには狭いので、ジュネとジュネの護衛だけは部屋の外に残った。



中は色々な物が積み上がっていたり、壁一面が引き出しのついた棚になっていたりと、一目で作業部屋だと分かるような部屋だった。

中央の背の低い机と長椅子の周囲だけが片付けられていて、机の上には様々な道具が並んでいる。



コレティオは机の上に、染色してある表紙と裏表紙を置いた。

私とルクスは長椅子に向かい合って座った。カルメは私の斜め後ろ、ルクスの護衛はルクスの斜め後ろに控えている。


「材料や道具はこちらで宜しいでしょうか」

「はい。大丈夫です」

「それでは、表でお待ちしております」

「はい。ありがとうございます」


机の上の物を一瞥して確認したルクスはコレティオに頷いた。そのままコレティオは部屋を出て行った。それを見送ると、ルクスは小さく呟いた。


「シーロ」


そして、ルクスは魔術の説明をする時のような笑みを浮かべて私を見た。


「オデット様。今から、この紙に魔力保護の付与をします。魔力保護はオデット様や他の魔力からの劣化や摩耗を軽減するものです。私が付与するところをご見学ください」

「うん」


ルクスは用意された道具を使って、付与作業を始めた。


まず緑みのある黄色の手袋をして、赤色の液体が入った小瓶の蓋を開ける。

中身を黄色のスプーンで生成り色の板の上に取り出す。

それを黄色の刷毛でとり、四枚の紙の両面全体に薄く塗る。

そして刷毛を置いて手袋を外し、四枚の紙に向かって、手を翳した。


「我は世界に求める。汝に守りの力を。マギカパーレ・ポロテノ・セタリス」


ルクスがそう唱えると、白みのある黄色の光が、四枚の紙に降り注いだ。

その光を受けて、薄く塗られた赤色の液体は透明になった。

マスキの時ほどの艶は帯びていないが、若干、膜のようなものが出来ているのが分かる。


「これで付与は終わりです。カネラ」


そう言って、ルクスは何かを解除した。

マスキではないので、最初にシーロと呟いた何某かの効果を解除したのだろう。

ルクスは道具を洗浄して、机を元のように片付けて、四枚の紙を置いたまま、席を立った。


私は差し出された手を再び握って、部屋を出た。



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