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32.九つの領地


ウィテハの昼食を食べ終えた私たちは再び、ルクスの執務室に戻って来ていた。

ルクスの机にはまだ書類が残っていたので、私とカルメは隣の小会議室に避難した。


「それでは午前の続きです。各領地の特産品を軽く、ご紹介します」


また覚えることが多過ぎて、私の頭が一杯いっぱいになってしまわないようにと、カルメは軽く教えてくれるようだ。本当に軽く、だと良いな。


そんなことを思いながら、私は覚書の準備をする。


「まずは、ミーレ領の特産品です。協会本部があるので当然と言えば当然ですが、ミーレ領は魔術関係の品が特産品です。魔術具、実験道具、薬品、魔術書といった様々な物が、ここから全国に出回っています。そして、その材料や素材は全国から仕入れています。中にはミーレ領産ではないものはガラクタだと言われる物までありますね」

「ふーん」


協会本部があるミーレ領は魔術の中心地ということなのだろう。

品質が良い故に人が集まり、人が集まることで技術が発展し、技術が発展することで品質が高まる。

そして全国から材料や素材を仕入れ、全国に魔術関係の品を売る。

そんな二つの循環が上手く機能しているのだろう。



「次は王都がある、西のウェスタ領です。ここの特産品は舶来品です。大きな港があり、世界中の船が集まるとまで言われています。色々な国から運ばれてくる品物が有名なのです」


舶来品。大きな港の近くには大きな市場があるそうで、いつも多くの人で賑わっているようだ。

異国からやって来る商人たちは、そんな市場で品物を売り、そこで良い評判が得られれば、そのまま王都や王都から各領へと広まっていく。

そんな港と市場を持つ、ウェスタ領が文化の中心地であり、流行の最先端をいっているらしい。



「北西のノルフウェサト領の特産品は黄熊です。毛皮などの素材、肉や加工肉といった食材が、ここから流通されます。数は少ないですが、どの部位も高級品ですので、その利益はかなりのものです。黄熊を定期的に討伐できるのは、ノルフウェサト領だけです。他には北領でも黄熊は稀に目撃されますが、討伐できるほどの兵力はありません。稀にしか現れない強力な魔獣のために、兵力を維持するのは割に合わないのです。黄熊が北領に出現した場合は、大抵はノルフウェサト領に応援要請が出されます。そして討伐後は、黄熊の売上の一部を報酬として納めているのです」


どうやら、ノルフウェサト領は古くから、この強大な魔獣と共存する選択をとっていたようで、絶滅させることなく、衰退させることなく、必要な分だけを討伐するそうだ。

それは全てを討伐できるのに、敢えてしないという話でもないようだ。勿論、他領や王国内の兵力が結集すれば、全滅させることは可能らしい。しかし、それでは今後、黄熊の素材や食材は入手できなくなる。

その利益を捨てて、それだけの兵力を集めて討伐する方が損失になる、というだけだ。


「そして最近では、青梨などの一部の作物の温室栽培を始めたようです。温室栽培を始めるまでは、飢えることはないという程度の比較的貧しい地域だったのですが、温室栽培を始めてからは、少しずつ余裕が出て来たと言われています」


10年ほど前までは、領民のほとんどが、出稼ぎや黄熊討伐のための兵力として働き、食糧は他領からの仕入れに頼っていたそうだが、温室栽培の技術を取り入れてからは、もう少し余裕が出て来て、兵士になれなかった領民や出稼ぎにいけない領民が、温室栽培という仕事を手にすることができるようになった。


その分、領民の生活に余裕ができたそうだ。それで裕福なったのかと思えば、そうでもないらしい。

温室栽培は新しく生まれたばかりの技術で、まだまだその設備は最適化されておらず、無駄があり、お金がかかるらしい。


しかし、それでも前よりは豊かになったというのだから、温室栽培をいち早く取り入れた領主の決断は良いものだったのだろう。


そして温室栽培の技術を開発し、より良くしていっているのが、このミーレ領の魔術師や研究者たちなのだと聞けば、その魔術の幅広さに驚嘆してしまう。



「北のノルフ領の特産品は工芸品です。一年の大半が雪に覆われた町では、家の中でできる手仕事が盛んなようです。その技術力は高く品質が良いのですよ」

「工芸品って、どんなもの?」

「ノルフ領から他領に売られているもので、よく街で見かけるのは、髪飾りや刺繍が施された布、上質な布、食器や家具などですね」


なるほど。本当に身の回りのものばかりだ。


工芸品というより、生活用品に思えるが、普通に家庭で使用するものであれば、それぞれの領地でも作られているし、他に安いものがあるそうだ。


ノルフ領で作られているのは、貴族や裕福な人が使う物が多く、芸術性、細工の細かさといった意味での品質が高いそうだ。



この中で言えば、私は家具が気になるな。特に長椅子。

上質な布が張られ、流麗で優美な形の長椅子があれば、見てみたい。


うん、見たいだけで、欲しい訳ではないけれどね。



「北東のノルヘサト領の特産品は木材です。ここで採れた木材はそのまま、隣のノルフ領に向かうことが多いですね。そして、ノルヘサト領はノルフウェサト領と同じくらいに貧しいと言われています。領地の大半は森林と雪に囲まれ、その森林からは魔獣も出てくるので、ノルヘサト領の領民は強い方が多く、騎士や兵士になる人が多いですね」


なるほど。


そうして、強い人たちは他領へ騎士や兵士、冒険者として出稼ぎに行くのだそうだ。


強い人たちが抜けても、魔獣が討伐出来ないということはないくらいに、残っている人たちも強く、領全体として強さの基準が他領とは違うそうだ。




「東のセタ領の特産品は狩猟道具や狩猟で得られた獲物です。まぁ狩猟というか、討伐なのですが。最果ての森は許可を得れば、自由に出入りできます。そこで討伐された獣や魔獣が素材や食材として、各領に出回ります。最果ての森は王国内から冒険者たちが集まる土地です。そう言った意味で賑わっている土地でもありますね。領民の生活は普通、という感じです。他領に売るほどの作物は収穫できませんが、不自由なく暮らしていける程度には、作物も獣もあり、平均的な暮らしが出来ます」


最果ての森は私がここに来た時に、最初に居た場所だ。

入るのには許可が必要で、身分証を提示したり森へ入る目的が聞かれたりと、簡単な検問所があるそうだ。


まぁ、その先は国境域だからね。



しかし、大抵はそのまま、森に入って討伐して帰って来るので、検問も簡単なものなのだとか。


森を抜けて、中央大陸に行く人はいないらしい。

というか、向かった人たちはいるにはいるらしいが、ほぼ全員がその後消息不明になっていると聞けば、最果ての森の踏破は無理っぽいと思う。



それにしても、魔獣って、どんな動物なんだろう。

いつか、ルクスに聞いてみよう。




「南東のソツヘサト領の特産品は、何と言いますか、労働力と技術力、でしょうか。ソツヘサト領は芸術が大きく発展しておりまして、音楽家の町、画家の町、彫刻家の町と呼ばれるような町が多くあります。そこで磨かれた技術が国内に広まっていきますし、芸術家になれなかった者は別の領に向かうことが多いです。芸術を愛し、芸術に愛されたと良く言われています」


こういうものは王都がある領が一番なのではないかと思うが、この領で認められる芸術家になる者は、大抵は王都での活躍を避けるのだとか。

ソツヘサト領は芸術家を手厚く保護し、芸術家が過ごしやすいように領の運営がなされているようだ。


王都で活躍すると言えば、芸術に専念するというよりも、地位や名声、贅沢な暮らしが狙いらしい。


領民は芸術家たちを愛し、そして見守り、育てる。

そんな領に惹かれて他領からも芸術家や芸術家を目指す者たちが集まるのだ。




「南のソツ領の特産品は農作物を中心とした食料です。サタロナ王国の食糧庫と言われるほど、ここから流通する食料は多いです。広大な領地では農業、畜産業が盛んに行われており、魚類以外の全ての食料が手に入ると言われています」


なるほど。魚以外ね。


スダ領は海にも面しているそうだが、湿原から繋がっていて、その湿原まで農業に利用しているそうなので、漁業にはあまり力を入れていないらしい。



湿原って農業ができるんだ。

と想像してみたが、あまり知識がない所為か、どんな作物を植えているのかが分からない。

これについても、いつか詳しく調べてみよう。




「南西のソツウェサト領の特産品は海産物です。魚は王都の方でも漁獲されますが、王都は交易に力を入れているので、漁業や魚介類を加工したものは、ソツウェサト領の方が有名です。漁業は海に面した領地では少なからず行われているものですが、それを領全体の産業として大きく行っているのは、このソツウェサト領くらいです」


王国の北西と南西に良い漁場があり、南西はソツウェサト領が主に使用している。


北西の方はというと、ノルフウェサト領やウェスタ領が漁に出ることがあるが、それも偶にらしい。


北西の海域は、暖かい季節ならば何とか、短い間だけ、漁ができるが、それ以外の寒い季節であれば、魔術師の同行が必須になるのだとか。


寒すぎて、漁どころではなくなるらしい。

そんな中でも漁に出るのは、そこでしか獲れないものがあるからだろう。




「以上が王国内の各領地の特産品と特徴になります」

「ありがとう」

「いえ。オデット様、少し休まれますか?それとも…………」


カルメがそう言いかけた時、小会議室のドアがノックされた。

私はカルメの方をちらりと伺って、問題ないということを確認すると返事をした。



そして、一拍おいて入って来たのはルクスだった。


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