27.二人の料理長(閑話)
今回は閑話です。
ここは魔術師協会本部の一般食堂、の奥の調理場、の隣の休憩室だ。
俺は一応、本部の食堂の料理長の一人、ブラカ。
料理長と言っても、俺は仲間たちと仕事をしているだけだし、長らしいことはもう一人の料理長のウィテハがしてくれている。
俺とウィテハは双子だが、似ているのはパッと見の見た目だけだとよく言われる。
それも、雰囲気が全く違うから、直ぐに分かると。
まぁ、よく似ていて間違われるのは面倒そうだからな。
俺はそれでいいと思っている。
そんな俺は今、ウィテハと共にとある報告と指示を聞き終えたところだった。
「ルクス様がとある少女を保護した、ですか」
訝し気な表情で、今しがた聞いた報告を再確認するように呟くのは、ウィテハだ。
「それはいい。それよりも、ルクス様たちの食事に一人分追加ってところだろ」
「そうですね。大方、その少女と一緒にお食事をとられるのでしょう」
「こんな朝っぱらから、急に何事かと思えば…………はぁ」
いつものように出勤して直ぐに、使いの者にそう告げられて、俺は驚いた。
昨日までそんな話は全く聞いてない。
ということは、その少女は深夜か早朝に保護されたばかりなのだろう。
…………まぁ、ワケありだろうな。何かあると面倒臭ぇ。
そう思って、俺は溜息を吐いたのだが、ウィテハの思考は別の方向を向いているようだ。
「少女というだけでは情報が足りませんね。年齢や出身、魔術階位くらいは知りたいのですが」
「おいおい、そこまで気を回す必要はねぇだろ。急に言われても、そんな時間はねぇよ」
「これが一時的なものであれば、その対応で良いと思いますが、この先もルクス様たちとお食事をなさるのでしたら、情報は必要です」
確かに、ウィテハの言うことも良く分かる。保護された状況で食事にまで口に出すやつはそうそういない。
だからと言って、口に合わない食事を食べ続けるのは心が疲れるし、そんな食事を出しているこっちも気分が悪い。
「取り敢えず、今朝の食事はお前が担当だ。情報が得られるまではいつもの食事を一人分、追加でいいな?」
「そうですね。幸いにもここは食堂。仕事をしているだけで、情報は自然と集まりますから」
俺は少し不安に思いながらも、ウィテハにそう言った。
朝食後、少女の情報はなかなか集まらなかった。どうやらルクス様は少女と接触する人間を制限しているらしい。
昼食担当の俺も仕方なく、いつもの食事を一人追加で出した。
昼を過ぎて、夕食も一人追加することになるなら、そろそろ方針を決めなければならない、というところで、俺とウィテハは再び休憩室に集まった。
「どうだ?」
「見た目の年齢は十代前半、出身は不明、どこから来たかも不明。ただ…………」
「ただ?」
「廊下で、幼い少女を連れたルクス様たちを見たという職員や魔術師が何人か居ましたね」
「そいつらは何て?」
「白い髪だ、と」
「マジかよ」
ウィテハの話に俺は顔を顰める。
身元不明の高階位の人間なんて、危ない以外の何者でもねぇ。
「午前中は聖堂に向かったようです。午後もルクス様の研究室に。ここに来てから、ほぼずっと、ルクス様たちと一緒にいるようですよ」
「そりゃあ、そんだけ階位が高い奴を放っておけねぇだろ」
「ルクス様の周辺は流石に口が堅いですね。少女の情報がほとんど漏れていないところを見ると、秘密裏に保護した、という感じでしょうか」
「面倒臭ぇ」
「ですが、ルクス様が付きっ切りで面倒を見ていらっしゃるようですし、これは、歓迎するべきお客様、なのでは?」
ウィテハのその独特の言い回しに、俺は黙って考える。
確かに、高階位の人間や高貴な方が来ても、ルクス様は関わりたくない人間ならば、ごゆっくりお休みくださいとか、魔術師に案内させましょうとか言って、それとなく追い払ってたな。
ルクス様が断れないという可能性もあるが、情報が漏れていないところを見ると、上の方で囲っているのだろう。
「そうだな」
俺はウィテハの言葉に頷いた。方針が決まったところで、ウィテハは早速、夕食のスープを作っている料理人に指示を出していた。
俺たちの仕事は食堂で職員たちの食事を作るだけではない。
ルクス様や上位の魔術師、それから研究室に籠って出て来ない研究員たちの料理も作っている。
特にルクス様の食事は、時にお客様との会食の場合もあるから、色々なことに気を使っている。
そのうちの一つが、光の模様だ。
光の模様は歓迎を意味する印としてよく使われる。
まぁ、その他にも色々な意味がある汎用性の高い模様なのだが、ルクス様の食事ではお客様に揚げ足を取られたり、隙を突かれたりすることがないように、光の模様には特に気を付けなければならない。
もし、描く時に歪んだり、運ぶまでに崩れたりすれば、すぐさま取り替えなければならない。
それ以外にも気を付けるべき点は多くあるが、代表的なのは光の模様だ。
夕食の時間を終えて、戦場のような調理場から帰ってきた俺とウィテハは、ルクス様の従者のセクイ様が休憩室で待っていたことに驚いた。
もしや、光の模様が崩れていたのか。そんな嫌な想像をしながら用件を聞く。
「セクイ様、どうされましたか?」
「これは私の独断であり、ただの感想なのですが、ルクス様もお客様も、光の模様にお喜びになっておりましたよ」
その言葉を聞いて、俺はとても安堵した。
光の模様を出すと決めてからも、差し出がましくないかとか、ルクス様に余計なことをと言われないかとか、普段の俺らしくなく、くよくよと悩んでいたのだ。
しかし、今、その気持ちがすうっと溶けて消えていった。
「ありがとうございます。良かったです」
「教えて下さって、ありがとうございます」
夕食担当だったウィテハもほっとしたように息を吐いている。
「いえ。あのお方のことはあまりお話しできませんが、お二人にはいつもお世話になっておりますから。お礼はルクス様にも。ルクス様が一時、お側を離れて、こちらに伺うことをお許し下さったのですよ」
「そうでしたか。ルクス様にも感謝申し上げます」
「あのお方はお食事をいつも楽しそうに食べていらっしゃる、ということはお伝えしておきたかったので」
「はい。ありがとうございます」
どうやら、噂の少女とって、ここの料理は口に合ったようだ。
ルクス様たちが歓迎する人間なら、俺も歓迎できそうだ。
ルクス様の人を見る目は信用しているからな。
俺もその少女を見かける日が来るだろうか。
そう思いながら、俺はウィテハの肩を叩いた。
次話は閑話となります。




