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23.魔力制御


「それではお待ちかねの魔力制御からです」

「魔力制御!」

「はい。魔力制御ができるようになると、先程のように、無意識に魔力圧が漏れてしまうこともほぼなくなります」

「ほぼ?」

「はい。怒りや喜びで感情が昂っていると、魔力圧が漏れてしまうことがありますので、気を付けてください」

「うん」

「そして魔力制御ができると、自分より階位の低い者も触れられるようになります」

「今の私には誰も触れられない?」

「私でぎりぎりですからね」

「………………」

「大丈夫です!初歩的な魔力制御は、最短で一日でできるようになります」

「一日…………うん、頑張る」


何だか、誰にも触れられない、触れてもらえないというのは、とても寂しいことのような気がした。


私が一瞬暗い表情をしてしまったことに気付いたルクスが、励ましてくれたが、その最短で一日というのはどれくらいの難易度なのだろう。


でもやっぱり、誰にも触れられないというのは悲しいので、なるべく早く身に付けられるように頑張ろう。


目標は一日だ。


視界の端で一日という言葉に顔を引き攣らせているジュネには気付かないふりをした。私は優秀な生徒なのだ。




「まずは、体内にある自身の魔力を把握するところからですね。先程、魔力許容量を計測した時に、指の内側が押されている感覚があったと思います。それが魔力です」

「…………?」

「あとは、魔力圧が漏れていた時と収まった時で、何か、変化はありませんでしたか?」

「身体の力というか、気力みたいなものが、抜けるような感じ?」

「はい。それも魔力です」

「魔力は全身にある?」

「はい。基本的には身体の輪郭と同じようにあります」

「うーん。何か、魔力が抑えられているか、分かるものはない?」

「そうですね。放出魔力計測器が、目盛りで見ることができるので、わかりやすいでしょうか。厳密に言えば、計測方法によって保有魔力と放出魔力は区別されているのですが、存在としては地続きなものなので、今は同一のものとして考えて良いですよ」


感覚だけだと、どのくらい出ているのか、抑えられているのか、それが分からないので、何か見た目で分かるようなものが欲しいと思ったのだ。

そんな注文をした私にルクスは、席を立って、後ろの棚に置かれていた黒い石板のようなものを持って来てくれた。

手前には目盛りが付いていて、0から10000まで表示されるらしい。


「執務室にあるのは、この四角い板状ですね。この計測器は、何に使うかによって、形状や目盛りが異なります。これは書類にかけられた魔術や魔力の大きさを測るもので、この板の上に書類を乗せると針が動きます」


そう言って、ルクスは計測器を私の目の前に置くと、執務机にあった紙、そこに用意されていたペンで何事かをさらさらと書いた。


そしてそれを板の上に乗せると、目盛りが5を指し示した。


「これは最大値を10000として、5刻みで0から計測できるものです。今は、この紙に魔力を10000分の5だけ持たせるように書いて、魔力を込めました。その紙を置いているので、目盛りは5です。そして、何もない紙を乗せると、0です。こうして、お手紙に魔力が含まれていないか、契約書に含まれている魔術が正しい値かを確認することができます」

「凄い」

「これは文官が良く使う道具で、壊しても問題ありませんから、存分に魔力制御にお使いください」


壊しても大丈夫だというルクスの表情は本当に何とも思っていない感じだったので、私は有難く安心して計測器を使うことにした。


ジュネがちょっと冷や冷やした表情をしているが、ルクスが大丈夫と言ったのだ。もし壊れてしまったらルクスに何とかしてもらおう。


そう思って、私は目の前の計測器に、試しに右手を乗せてみた。一瞬で10000まで振り切った目盛りに、私は少し呆然としてしまう。


まさか、今ので壊れてないよね?少し心配になったので、計測器からそっと手を離す。すると、目盛りはすっと0に戻った。


そのことに安心して、私はもう一度計測器に手を乗せ、10000まで振り切った目盛りを見ながら、自分の身体の中心に向けて、先程押されたものを押し込めてみた。



実際に押し込めているのかが分からないので、想像だけなのだが、ふと目の前の目盛りを見ると、9000くらいまで下がっている。


出来ているという喜びに安堵して、気を抜いた瞬間、目盛りは再び振り切った。


「あ…………」

「オデット様。少しずつですよ。それに魔力自体は感じられているようですから、それを操作、制御できるようになればよいのです」


ルクスの言葉に頷いて、私は先程から押し込めたり、戻ったりしているものを意識して捉えた。


これが魔力なんだな。身体中に満たされている感覚がある。目を閉じて、その魔力を身体の中心に集めるように押し込んでいく。


目を開いて確認すると、目盛りは7500を指していた。その喜びに息を吐いて、また上限まで振り切る。そしてまた中心に押し込める、ということを私は繰り返した。




暫くして目盛りが下がって来ると、押し込むことも難しくなってきた。これ以上押し込めないというよりは、下がり幅が小さくなってきたことに焦ってしまうのだ。


疲れて来てしまったのだろうか。押し込めようとする力が出ない。


そんな私を見て、それまで見守ってくれていたルクスが口を開いた。


「オデット様。魔力を制御している時、息を止めていますよね?」

「止めてた?」

「はい。私が数値を見ていますから、魔力を制御したまま、ゆっくり呼吸をするようにしてみてください」

「わかった」


私はここまでは簡単なんだけどな、と慣れたように魔力を内側に押し込んだ。そして押さえつけたまま、ゆっくりと息を吐く。


「200ほど上がりましたが、大丈夫ですよ」


ルクスの言葉を聞いて、私は上がってしまった分を取り返すように更に押し込みながら、ゆっくりと息を吸う。


「今は2115です。魔力の制御はそのままで、普通に呼吸できますか?」


私は押し込むのをやめて、魔力の制御に集中していた意識を、呼吸をすることに向ける。


あ、ちょっと緩んだかもと思って、また息を止めそうになる私に、ルクスは間髪を入れずにそのまま続けて下さい、と言った。私はその言葉に従って、少し緩むことは気にせず、押し込んだまま、呼吸をすることを続けた。


暫くは魔力を意識していたが、そこまで集中していなくても、制御できるようになってきた私は、呼吸も普通にできるようになっていた。

私に少し余裕が出て来たことに気付いたのか、ルクスがそっと声をかけてくれる。


「今は2195です。オデット様、目を開けられますか?」


私はゆっくりと目を開けて、目の前の目盛りを見る。ルクスが言った通りの2195。


目を閉じていた時よりも情報量が多い所為か、魔力制御により意識を割かれるが、それでも目の前の数字は変わることがない。


そのことに嬉しくなって口の端を持ち上げた瞬間、目盛りは2200になった。

一瞬、眉を顰めそうになったが、それでもここまで制御できているのだ、と自分を褒めることにした。


「あとは、これの繰り返しです。集中して制御して、それを段々と無意識にできるようにして、と」

「うん」

「今、肩の力を抜いてみてください」


そう言われて、すっと肩の力を抜いて、深く息を吐く。目盛りは3300だ。

そうか、何もしていなくても、このくらいはできているんだな。

そのことに嬉しくなって笑みを浮かべると、やはり数字は3400と少し増えてしまった。

これは喜ばないようにしなければならないのか?そう思って少し不貞腐れる。


そんな私を見て、ルクスはふふふと笑みを零した。


「感情の昂りによって、放出魔力は大きくなりますから、多少増えてしまうのは仕方のないことです。この短時間でここまでできただけでも凄いことですよ」


ルクスに褒められて嬉しくなってしまい、また目盛りが動いてしまった。



私とルクス以外の人たちは、この数字を見て、頬を引き攣らせている。私の魔力制御が上手なのか、下手なのか。この場合はどちらの意味なのだろう。


「(10000を振り切るようなオデット様がものの数十分で3400まで制御できるなんて、目の前で見ていたのに信じられない)」

「(オデット様は規格外の魔力をお持ちというだけでなく、制御能力も普通ではないようですね)」





私は押し込めた魔力をなるべく戻さないように、意識の端で制御しながら、休憩を挟んだ。

カルメが淹れてくれたお茶を飲み、ジュネが持って来てくれたお菓子を口にしつつも、表情は至って真面目だ。


ルクスには休憩して良いのですよ、と言われたが、折角ここまでできているのだという達成感と勿体なさがあるので、もう少し頑張ると返事をした。

そんな私の様子をルクスは嬉しそうに見ていたが、私は魔力制御の方を意識していたので、それには気付いていなかった。


休息したというよりは栄養と気力を補給しただけの休憩を終えて、私は再び、黒い石板と対峙していた。そっと石板に手を乗せると、目盛りは4200。少し増えてしまっていたが、最初に比べれば半分以下だ。


そこからは先程の繰り返しなので、黙々と取り組んだ。一気に限界まで押し込み、行き詰ったら、その状態を定着させる。それを繰り返しているうちに、段々と押し込むのも楽に手早くできるようになった。


押し込んだ数値に慣れるには、どうしても時間がかかるので、その間はお茶やお菓子をちょっとだけ摘まんだ。


夕食が入るだろうか、とちらりと頭の端で思ったが、これだけ疲れることをしているのだから、問題ないだろうと直ぐに思い直した。




合計で三回ほどの定着する時間を終えて、私は改めて目盛りを見た。数字は100。

ここからは更に厳しくなるぞ、と私が気合を入れ直した時、その数字を見たルクスが感心したように頷いた。


「これくらいまで出来れば、現段階では、十分合格と言えるでしょう。これでほぼ全ての人間に触れることができますよ」

「ほんと?」

「はい。しかし、物には魔力自体を流すと壊れてしまう物もありますから、不用意に知らない物には触れないようにしてください」

「分かった」

「それでは本日はここまでに致しまして、続きは明日にしましょうか。もう直ぐ、夕食の時間ですからね」

「うん」


まだまだ続きがあるようだ。明日も頑張ろう。そう決意を新たにして、私たちは食堂に向かうために、立ち上がった。



「(俺でも85なんだが。オデット様って、結構ヤバいと思う)」

「(私の魔力制御もまだまだということですね。精進しなければ)」


若干、放心してしまっているジュネと、思い詰めたような表情をしているカルメに、私たちはどうしたのだろうと顔を見合わせる。


直ぐにはっと我に返った二人は、慌てて移動の準備をしていた。


気付くのが遅れて、申し訳ありません。

初ブクマ、ありがとうございます。

お読み頂いている皆様も、ありがとうございます。

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