真っ赤に燃える炭より、ルイスの顔が先に真っ赤!? わたし、ツッコミ疲れしました…②
結局、その後も細々とした作業が続く。炭がいい感じで赤くなってきたところで、網をセットし、メイドたちが運んできた肉や野菜を並べる準備。メリッサは「わたしは食べるの担当~」などと言い、全然手を動かさないから、わたしとルイスが頑張る羽目に。ときどきメイドがサポートしながらも、「でもまあ、せっかくだから若いお三方で楽しんでください」と控え気味にしてくれる。
「よし、そろそろ焼けるかな……」
ルイスが肉をトングで掴み網の上に置くが、慣れてないので網目に引っかかったり、焦げたりする。エリシアが「ああもう、タイミングを見て裏返さないと! あ、メリッサ、野菜がそっちで焦げてるよ!」と声を上げるが、メリッサは「あちち! 火が強すぎるわ! エリシア助けて!」と騒ぎ出す。結局わたしが慌てて野菜を避難させ、火加減を調整する。まるでわたしだけがバーベキューを回しているような……。
(なんなんだこれ……女子二人と男子一人でやってるはずなのに、わたしが一番“男役”っぽい!)
心の中で突っ込みつつも、ルイスが「あ、すみません、エリシア様」と申し訳なさそうに言ってくるから、怒るに怒れない。甘酸っぱくて笑ってしまうというか、仕方ないなと思ってしまう。わたしは「あ、うん……まあいいよ。火の扱いがわからないだけだよね」と肩をすくめる。
すると、メリッサがさっそくつまみ食いを始めて「うん、おいし~い。焦げたとこも香ばしくて好きだわ」などと勝手なことを言うから、わたしは再びツッコミ。「自分は何もしないで食べるだけかい!」と苦笑すると、メリッサは「だって、私はこれでも、一応は貴族令嬢なんですもの? 労働は下僕に任せるものでしょ?」と斜め上の発言。あまりにもわがまま全開で、ルイスは「そ、そんな……」と苦笑する。
そうしてわいわい騒ぎながら、ようやく肉や野菜がある程度焼けてきて、三人で食べられる状態になる。まずメリッサが「ん~、けっこう美味しそうじゃない?」と串を手に取ってかぶりつき、「うまっ!」と目を輝かせる。ルイスも緊張しつつ肉を一切れ食べて、「わ、本当に美味しいです……! こんな屋外で食べるのも初めてで、新鮮ですね」と嬉しそう。
わたしも「うん、悪くないかも……外の空気を吸いながら食事するっていいね」と頷く。前世では普通にキャンプ経験もあるが、この世界に来てからこんなアクティブな食事をしたのは初めて。お茶会とか室内のパーティーばかりだし。ちょっと贅沢な気分になる。しかも自分が女子の身体で、一緒に焼いている相手は純情少年ルイスとお姉さん系令嬢メリッサという取り合わせ。まさかこんな光景を体験するとは、わたし自身思っていなかった。
「ねえ、ルイス様、もうちょっと近くで肉ひっくり返してみたら? せっかくだから練習しときなよ」とメリッサが促す。ルイスはおろおろしながら「え、えっと…ぼく、さっきみたいに焦がしちゃったら…」と尻込み。わたしは「大丈夫、わたしも近くで見てるから」とサポートを約束。メリッサが「ほらほら、エリシアを盾にすれば何でもできるわよ♪ 二人で協力して“焦げない愛の焼き加減”を見つけなさいよ」とニヤリ。
その台詞に二人そろって赤面。「あ、愛の焼き加減なんて言わないでよ!」とわたしは反射的に叫び、ルイスは「そ、そんな…ぼ、ぼくは…」とうろたえる。メリッサはその様子を見て大笑い。「も~ホントに仲良しね。いいじゃない、焼き加減も二人なら最適に仕上がるわよ?」
(もう……メリッサは本当に楽しんでるな。まるでわたしとルイスが夫婦かなんかみたいに言うし…!)
胸の奥でバクバクする気持ちを抑えながら、わたしは「ルイス、ここはこうしてトングで……」と手取り足取り教え始める。するとルイスが「あ、ありがとうございます…」と顔を上げ、わたしたちの視線が偶然交わる。何となく沈黙が生まれ、「あ、あ…」とお互い言葉が詰まる瞬間があり、わたしはこそばゆくてたまらない。
するとメリッサが「ね~、二人とも、こっち野菜も焼いて! ぼーっとしてたら焦げるわよ?」とちゃっかり引き戻してくるから助かるやら何やら。こういう視線の絡みを見逃さず茶化す彼女の性格に、わたしは苦笑いしかできない。
やがて肉や野菜が次々に焼き上がり、三人で黙々と食べるターンに入る。煙が少し目に染みるが、風がほどよく吹いていてそこまで煙くならないのが幸い。メリッサは「うんめぇ~」なんて言葉遣いが崩れるほど夢中で食べ、ルイスは最初の緊張が解けたのか「えへへ、炭火ってすごいですね」と子どものような笑顔。わたしはそんな二人を見渡して、「なんだかんだ楽しんでるな…」と微笑む。私も、まさかこの世界でバーベキューをするとは思っていなかったけれど、やってみると新鮮な楽しさがある。
「はあ、もうお腹いっぱいかも……」とメリッサが椅子に腰かけて一息つく。「だけど、美味しかった。これなら貴族がやってもアリじゃないかしら? ほら、社交界の新トレンドになったりして!」と誇張するが、ルイスは「そ、それはどうでしょう……みんながこんなに煙まみれで飲食するのを好むか…」と苦笑。わたしも「そうだよね、普通は室内のパーティーが主流だしね」と賛同する。
そしてメリッサは、満腹になったのをいいことに“爆弾発言”を続ける。「でも、二人が仲良く火起こししてる姿は相当いい感じだったわよ? そのうち結婚して毎晩こんなふうに夕食の準備するのかしら」とニヤニヤ。案の定、ルイスは「け、結婚!? いや、そ、それは…」と耳まで赤く染まる。わたしも「め、メリッサ、やめなさいってば……」と声を上げるが、彼女は「ふふ、悪かったわね」と楽しそう。
(ほんと、この人は……。でもまあ、こうして茶化されるほど、わたしとルイスの距離が近いってことなのかな?)
ルイスがまっすぐな瞳を向けてくるたび、わたしの胸に“ドキッ”とした甘い感覚が生まれる。前世なら「ただのキャンプ仲間」くらいの距離感のはずが、今は女の子同士(+男の子)で、しかもルイスに好意を感じる。こんな三角関係(?)的ラブコメが自分の身に降りかかるとは思わなかった。
「……ま、まあ、いいじゃない。みんな楽しめたしね」
結局、わたしが締めくくる形で、その場の雰囲気を和らげる。火もだいぶ落ち着き、炭が白くなり始めている。メイドたちが後片付けをしてくれるので、わたしたちは椅子で休憩しながら談笑。気づけば外は少し夕方の気配を帯びていて、ゆるいオレンジ色の光が庭を照らしている。
「このまま夜になったら星も見えるのかな。ちょっとロマンチックかも?」とメリッサが言い、ルイスは「それは素敵ですね。でも、今日はもう帰らないといけませんし……」と名残惜しそうに視線を落とす。彼にしてみれば、私ともっと一緒にいたいのかもしれないと思うと、ほんのり胸が苦くなる。
メリッサはその様子を見て「あらあら、ルイス様、何か心残り?」と煽り、私とルイスはまた一斉に赤面してしまう。もう勝手に絡められて大変だ。けれど、この空気が嫌いではないと思っている自分がいるのも事実。
やがて敷地の門のほうからお迎えの馬車が来たとの報せが入り、メリッサとルイスはお開きにすることに。片づけはメイドたちがしてくれるから、わたしたちは一足先に館の玄関へ向かう。途中、メリッサが「いやー、まさかこんなに大変だとは思わなかったけど、美味しかったから満足ね。エリシアもありがとね、庭を貸してくれて」としれっと微笑む。
「貸してくれて、って……ほとんどわたしとメイドたちが準備したじゃないか…。まあ楽しんでくれたならいいけど」とわたしは苦笑。その横でルイスは「ぼ、僕は何もできなかったけど、楽しかったです。ありがとうございました、エリシア様……」とぺこりと頭を下げる。わたしは「ううん、わたしも楽しかったよ。ルイスだって頑張ったじゃない。最初は火がつかなくて大変だったけど、最後はちゃんと焼けてたし」とフォロー。彼は安堵の笑みを浮かべ、「そ、そう言ってもらえると救われます」と照れる。
メリッサはそんな二人のやりとりを見て、すかさずニヤリ。「ほらー、やっぱり二人っていい感じ。BBQの火も二人で手を取り合って…って、ほんとロマンチックじゃない?」と余計な一言を放つ。わたしとルイスは「もうやめてってば!」と悲鳴じみた声をあげ、メリッサは大爆笑。
館の玄関前で、馬車を待つあいだのわずかな時間にも、彼女のからかいは止まらない。最終的にわたしは「ツッコミする気力も残ってない……」と肩を落とし、ルイスは「め、メリッサ様、これ以上は……」と懇願気味。しかしメリッサは「ふふ、楽しかったわ。お疲れさま、二人とも♪」などと満足そうだ。
「じゃあ、また近いうちに集まろうよ。次はもう少しスマートにやりたいな。外で食事するのも悪くないってわかったし」とわたしがまとめると、ルイスは「ええ、ぜひ。また呼んでください」と目を輝かせ、メリッサは「もちろん。今度はわたしがもっと面白いこと考えてあげる♪」と不穏な発言で締める。
馬車に乗って帰路につく二人を見送り、わたしは大きく伸びをした。火起こしの手伝いをして煙まみれだったけど、なんだかすっきりした気分がある。元成人男性としての心は微妙にざわつくが、青春めいたアウトドアでの一幕は悪くない。
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