たくあん侍
拙者の名はたくあん侍と申す。
少し前にごぼう持ちが流行っていた。その前は人参だったか。我ら根菜は、細長いイメージから刀や剣に見立てられやすい。武具として、得物としてではなく、侍として望まれた。
まさにこれからは大根の時代だったはずだ。しかし下積みの間、石の下に三年、しっかり漬かってしまった。
泥沼に浸かると抜け出し難いものだ。漬物樽の中で水分を絞り、引き締まった拙者の身体は、ごぼうにも負けないくらい、しなやかで叩き甲斐のあるたくあんに進化するのだ。
「お侍さん、あっちに悪者が!」
助けを求めるとうがらしの童子達の声が聞こえる。拙者は塩分刀を手に、声のする方へと向かう。
胡瓜侍がやられている。違う漬物樽とはいえ、拙者より先に世に出た実力者だというのに。
新参のししとう達が、しし党を名乗って暴れていた。
しがないごはんのお供の拙者と違い、大人気のおかず、お肉のお国と良い仲の、ピーマンに嫉妬し暴れたようだ。
拙者たちを引き立てる、唐辛子にもなれずあわれなり。
自慢の塩分刀でパラリと塩を効かせ、串刺しにしてやる。見事な筏のししとう串(爆弾付き)の完成だ。
拙者は悟った。拙者はあくまで脇役。大根役者がお似合いなのさ。
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