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01_創作と孤独

 芸術とは、その作者の血肉の一部である。


 画家はその血をもって線を描き、音楽家はその骨の軋んだ歪みから音を奏でている。これは一種の安っぽい比喩表現の焼き回しにも思えるが、芸術は本人を構成している要素からしか産み出され得ないという点に於いては、曇りのない事実を指さしているように思えた。


 絵を描く画家にしても、自らの目に映ったことのない風景をキャンバスに写し出すことは不可能だし、幼児の口ずさむ一見脈絡のない鼻歌でさえも、その幼児本人がどこかでその要素を耳にして、メロディーやらハーモニーやらを自らの血肉として脳の内部に留めていなければ、存在し得ないのだ。


 アウトプットというのは、そういう薄情なものである。

 そしてこの事実は、我々小説家にも例外なく適用されるようだった。


 「現代を生きるスーパーヒーローを描いた小説……」


 パソコンの画面に映る募集要項の文字列に俺は溜息をぶつけた。今度のWeb小説の新人賞のテーマ「現代で生きるスーパーヒーロー」。世のため人のために進んで自らの命を捧げてしまうようなヒーローと俺に共通点など見つかる訳が無い。あるとしたら人間であるくらいのものだろう。つまり、俺を構成する要素に、スーパーヒーロー足り得るものは存在しない。俺の中に存在しないものは小説として紡げない。であれば当然、俺にこのテーマで小説は書けないのだ。


 暗い四畳半の部屋に灯るパソコンの光。生産性を付与するはずだった時間が、泥のように溶けていくのを肌で感じた。将来性のない日々。才能と実力の壁。理想と現実のギャップ……若くして青春を捨て、暗闇の中で藻掻き続ける日々だが、一向に芽は出なかった。


 行き詰まった思考は澱むだけにとどまらず、水が高いところから落ちるように、どんどんとネガティブな方向へ舵を切って進んでいく。このままではいけない。滾る幾千ものマイナス思考を払い除け、キーボードに手を被せるも、霞んだ視界にはなんの文字も浮かんでこなかった。


 今日はもう終わりにしよう。停滞する創作に半ば心を折られた俺は、パソコンの電源を雑に落とし、ベッドに倒れ込もうと身を翻した。


 そのとき、パソコンのディスプレイから青白い光が強く溢れるのを目の端で感じた。ほんのり温かさを感じるくらい、強い光だった。


 疲労困憊の脳みそには、パソコンの電源をちゃんと落とすこともままならないのか。人間らしい生活は捨てていても、まだまだ人間らしい自分の一面に軽く失望しながら、俺は再度パソコンの電源を落とすために、作業机へと身体を起こした。


 その瞬間、先程よりも強い光がディスプレイから眼前へと大きく放たれた。身を焼かれるような、青白く強烈な光。俺はあまりの眩しさに目を瞑った。


 しばらくして、その光の熱を感じなくなったのを窺いつつ、俺はゆっくりと目を開けた。一瞬目に入った光が目を火傷させたのか、緑の斑点が揺らめいている視界。


 「やあやあススム君。やっと気づいてくれたかい。」

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