愛情表現
私は刀を杖に立ち上がる…
背中も腰もお尻も痛い…
立ち上がらねば…
だが戦うその前に、
冒険者から奪った砂金を、
ポケットから取り出し、
ゴブリンの子どもの足元に落とした。
「今のうちに逃げて!」
この子たちの両親が、
生きているか死んでいるか分からないが、
これで暫くは大丈夫だろう…
盾青年は相変わらず、
余裕そうな笑みだ。
「何?ゴブリンの子ども助けちゃう感じ?」
「そうだ…それとさっきの話…
本当に強いて欲しい物を言えば…」
「俺も本当は、
女の子斬りたくないからさ~
引いてくれるなら何かあげるよ?
早くゴブリン討伐して帰りたいんだけど…
もうこの盾か鎧でもかまわないよ?
安物だし!」
「欲しいのは盾でも鎧でも無い…
お前の命だ!!!
うおぉおおおぉおおぉおおぉおぉおお!!!!」
私は吼える様に叫びながら、
無我夢中で刀を振り回し続けた。
全て青年の盾で防がれて、
効果は無くても振り下ろし続ける…
そう言えば私は何で、
初対面のモンスター達にこんなに必死なんだろ?
モンスター好きだとしても威嚇か、
連れて逃げるかで守れるんじゃないか?
そう思うとふと、
アダムワールドでの辛い記憶が蘇った。
お母様にいじめられた相談したら、
「それは貴女が悪い、
貴女に邪念が有るからいじめられた」と、
カルト宗教に惑わされた言い方は、
筆舌に尽くしがたい絶望感が有った。
そしてメイドの若本以外にも友人、
いや友人と思っていた同級生の娘が居た。
彼女とは気が合い、
よくモンスターの話をしていたが、
私がいじめられると必ず見て見ぬふりし、
先生に言いつけもしなかった…
大半の人間がいじめっ子でも、
いじめられっ子でもなく、
彼女の様な見て見ぬフリなのだろう…
当時は他の同級生もそうだから、
それが普通と思い込んでいたが、
帰りに車内で若本に言われて、
初めておかしいと知った。
そうだ…私は退治されるモンスターに、
いじめられていた自分を重ねて、
あの時お母様や彼女にして欲しかった事を、
今しているんだ…
いじめっ子を殺してでも助けて欲しかったんだ…
現代日本では決して叶わぬ、
野生か鎌倉時代じみた願い…
今私がやらねば誰がやる!
もう斬り込みも盾も鎧も関係無い!
ただ殺す!絶対殺す!
刺し違えてでも、
この子たちを絶対守る!
殺してでも守るのが私の愛だ!
「おぉおおおぉおおぉおおぉおぉおおおぉおおおぉおおぉおおぉおぉおおおぉおおおぉおおぉおおぉおぉおおおぉおおおぉおおぉおおぉおぉおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
声にならない叫びを上げ、
サワイの様な咆哮を上げ、
気合いと気迫と殺気と愛で、
ただひたすらに剣を振るい続け、
盾を叩き続ける…
全く斬れないが、
こちらも決して折れもしない…
私が疲れれば、
直ぐ勝負が付く技量差…
だが次第に盾青年は、
圧倒的に防御で勝りながらも、
怯え始めた。
「ば、化け物…」
ありがとう、最高の褒め言葉だ。
お礼は口内に我が凶刃。
ここを刺されて平気な人間は居ない…
願い通り青年の命と、
ゴブリンの子たちの安全を得た。