望まぬ勝利
「あああ…」
ドハワールドが私の手に墜ちた、
魔法の鏡映像を見て、
勇者はウニゴーレムを見る様な、
怯えた目で私を見始めた。
今の精神攻撃で、
HP1→0.1にまで削れた。
文字通り瀕死、虫の息だが、
勇者でもモンスターを殺す事は、
私の本意ではない…
最後の口説きだ!
「わかった?
これで貴女が守り続けた、
人間も世界も無くなった…
もう無理しなくて良いの…
この解毒剤飲んで、
私のとこに来て」
怪物の騎士団は、
勇者に仲間や家族を殺され、
復讐心に燃える筈だが、
大魔王である私の口説きに、
異を唱えなかった…
女神の呪詛にすら耐えている勇者は、
この絶望的戦況すら、
ひっくり返しかねない、
不安が有るのだろう…
「私にとってドハワールド征服は、
通過点に過ぎない…
まだ予定の1/3でしか無いの…
この後ギャレワールドに攻め込み、
貴女を苦しめ続けた女神を倒し、
アダムワールドに戻って、
私の元同族達を滅ぼして、
三界を怪物帝国にする…
その為にも勇者!
貴女に協力して欲しいの!
おねがいおねがい!
いっそアダムワールドは、
貴女にあげても良い!
貴女が生まれ育った、
懐かしい白亜紀に戻しても良い…
だから…私と一緒になってキョウ…
うっうっ…」
私は泣きながら、
弱ったキョウの顎を抉じ開け、
抗女神反転剤の解毒剤を、
捩じ込んで飲ませようとする…
だがキョウは吐き捨てた。
「駄目だ…君が僕を、
求めてくれていても…
勇者ってのはね、
僕一人の意思でなったり辞めれる程、
軽い称号じゃないんだ…
ドハワールドの人々を護れなくても、
女神様やアダムワールドの人々は、
護らなきゃいけないんだ…」
あぁこの恐竜は、
悲しいまでに勇者なんだ…
自分の幸せより、
使命を優先するんだ…
「だからせめて最後は、
大魔王に屈しなかった勇者として、
死なせてくれないか?
君にトドメを刺して欲しい…
ああそうか…この姿では、
僕を殺せないんだったな…」
勇者キョウはフクイラプトルから、
最初出会った頃の人間態になった…
MP0→マイナス1.0に!
私が何度もイメージの中で、
刃を振り下ろした姿に…
でも突き立てた人斬り丸は、
透明な結界が有るかの様に、
寸前で止まって動かない。
「殺せ!勇者を殺すのだ!」
「やめて!栄子お姉ちゃん!」
怪物帝国1過激派の先生と、
怪物帝国1穏健派のラピスちゃんが、
同時に絶叫する…
だが私は人斬り丸を地面に突き刺し、
勇者の体をバルバトス王の元に、
投げ込んだ。
「えっ!?」
「えっ!?」
勇者もバルバトス王も他魔族も、
私が何をしたのか分からなかったが、
バルバトス王は勇者が何をしたのか、
思い出して全力で攻撃魔法を放ち続けた。
「うわあぁあぁあ!?」
こうして私は、
またモンスターを救えなかった。
また恐竜は滅びた…
「なるほど…勇者は父の仇ゆえ、
稚子には仇討ちする権利が有る…
大倉、上手い逃げ方をしたな」
先生が言った事は、
全くもってその通りだったので、
何も言い返せなかった。